タッチダウン
「グッモォォォォォォーニン、シタァールスキアァァァー!」
ブーマーが端末に向かって叫ぶ。現在進行中の“スーパー・タッチダウン”作戦全体共有通信コードに向けての呼び掛けだ。
ガルダは空を飛びながら目につくトカゲやトカゲ由来の兵器に向かってミサイルをばら撒く。
あちらこちらで敵が粉微塵に吹き飛び、或いは廃墟の壁の汚らしい染みになって消えて行く。
「シンクレア・アサルト、オフィシャル・ラジオ!
パーソナリティは作戦コード、ブーマーでお送りするぜ!
さて、作戦参加中の野郎ども、幾らタフなお前達でも流石にこう思ってた筈だ。
“駄目だ、空にはガルダが居る! コルウェは諦めて家に帰って一杯やって寝ちまおう!”
そんなお前達に朗報だ。ガルダは奪取した! 繰り返す、ガルダは奪取した!
コルウェの制空権を抑えていたガルダは今、作戦コード、イオ・200の操縦でトカゲどもを消し炭にしながら北上中!」
イオはガルダを振り回して急速旋回。
ビルの谷間に逃げ込んだ敵部隊に向けてエネルギー弾を撃ち込んだ。
弾ける爆炎と舞い上がる瓦礫。舗装されたコンクリートがめくれ上がり、砂埃がトカゲ達を呑みこんでいく。
操縦にも慣れて来た。時々こばえのようにファイアフライの群れが接近するが、ガルダの装甲を前に成す術も無い。
しかしこのサメのなり損ないは思った以上に振り回し易い。止まりたい位置でおおよそぴたりと止まってくれる。
惰性で滑る事が無いのは有難い。
「ヒュゥッ! たった今、サブストリートに陣取ってたウィードラン部隊を全滅させたぞ!
リーパー、聞いてるか?! お前に楽をさせてやるぜ!」
好き放題に言っている。イオは苦笑いした。
何処かの誰かの通信が飛び込んでくる。
『シンクレア、今の通信は本当か?』
「嘘は言わねぇ。トカゲどもは無様に逃げ惑ってる」
『信じられない。ジョークじゃないんだな?』
「俺だって信じられねぇさ! だが現実として、俺達はガルダの中に居て、敵に高火力エネルギー兵装をぶち込んでる」
更に通信が入る。リーパーからだ。イオは使い過ぎたガルダの兵装の冷却指示を出しながら応えた。
『こちらへの砲撃が止んだ。やってくれた……って事で良いのか? イオ軍曹』
「リーパー、生きているようで何よりだ」
『ブーマーが言ってる事は本当かい? とてもじゃないが……』
「今何処にいる?」
『……ロガーデイ・ストリートの橋だ。敵部隊が頑強に抵抗して突破出来ない』
「お前の問題を解決してやる」
イオはマップを確認し、直ぐに目的のポイントを見つけた。
ロガーデイ・ストリート、ノースブリッジ。戦闘車両、迫撃砲、高速迎撃システム、兎に角なんでも配備して、不毛な削り合いをしていたらしい。
「(ゴブレット)」
『貴方の望み通りに』
ガルダが唸りを上げてエネルギー兵器の砲塔を露出させる。
充填、後、発射。橋を挟んで友軍と睨み合うウィードラン大部隊のど真ん中に一撃。
敵もガルダが鹵獲された事には気付いているのか即座に対空兵器での迎撃が行われる。
しかしガルダの装甲とディフェンダーの前には無意味だった。成程、この防御力。シタルスキア連合軍が悲鳴を上げる訳だ。
「(ゴブレット、俺は奴らにたっぷり礼をしてやりたいんだ)」
『攻撃続行。安全負荷域限界まで砲撃した後、冷却処理に入ります』
連続して赤黒い光弾が放たれる。着弾後、間を置いて大爆発を起こすそれは見るも無残に敵部隊を引き裂いて行く。
「リーパー、砲撃は効果大。そちらからも見えた筈だ」
『あぁ。……その、なんだ、あぁ、そうだね、確かに見えた』
「嬉しくなさそうだな」
『まさか。クソトカゲどもが死んでいくのを見るのは最高の気分さ。
ただ、報告書にどう書いたモンかってね』
「安心しろよリーパー。“今回の分”は俺がありのまま書いといてやる」
意味あり気に笑うブーマー。溜息で応えるリーパー。
『ガルダ、航行持続時間残り僅か』
ゴブレットの警告にイオは眉を顰めた。
「(もう? まだ楽しみ足りない)」
『主砲にエネルギーを割き過ぎました。ロガーデイ・ノースブリッジの広場に着陸を』
そういえば推進装置と武装が同じ動力とか何とか言ってたかな。凝った設定だな。
ゴブレットが着陸位置に指定したのは今しがた小さなクレーターを幾つも作ってやった所だ。ガルダの主砲は強力だ。
何よりトカゲのバラバラ死体が残らない所が良い。大抵は消し炭だからだ。絵面が酷い事にならないのは良い事だ。
「(まぁ良い。お前に任せる)」
『着陸態勢』
急激に速度を落とすガルダ。
「ブーマー、残念だがガス欠だ。リーパーの近くに着陸するぞ」
「そいつは残念だ。だがあれだけぶち込んでやれば十分だろう。コルウェは奪取出来るさ」
「リーパー、こちらイオ。ガルダは航行限界だ、ノースブリッジの傍に着陸する」
『迎えに行ってやるよ、色男』
敵兵器の残骸を押し潰しながら着陸するガルダ。
主砲によって敵の大部分は駆逐したが、残党が散発的な攻撃を仕掛けて来る。
ハッチを開けて外を窺えばリーパー達前線部隊が敵の生き残りを皆殺しにしている所だった。
銃声、爆発音。トカゲの悲鳴。いつも通りの戦場音楽。
「イオ! ブーマー! 大した奴等だ!」
言いながらまた一匹を撃ち殺したリーパーが弾倉を交換しながらイオに近付いてくる。
「敵は総崩れさ。地上部はそう間を置かず完全に制圧できる。
後は後続の予備隊がトカゲどもの地下交通ネットワークを潰してコルウェの奪取は完了だ」
ぐわん、と音がしてガルダの装甲で何かが弾ける。どうやら跳弾らしい。
イオはレイヴンの状態を確かめながら尋ねる。ブーマーは肩を解している。
「手伝いが必要か?」
「まさか。だがトカゲどもの反撃で時間を取られた。作戦のタイムスケジュールを修正しなきゃならない」
「おいリーパー、俺もイオも八時間はぶっ続けで作戦行動中だ。そろそろ休憩に入りたい」
「チャージャーに同じ事を言ってみるかい? 地獄のブーステッドキャンプに逆戻りだと思うが」
「そのチャージャーは何をしてる」
リーパーはコルウェの空を顎でしゃくった。
三機のコンドルが低空飛行で急接近してくる。
「コンドルで何をするつもりだったんだ?」
「アタシに聞くな。だがあの人は無意味な事はしない。ガルダを潰す何か奥の手があったんだろう。
ま、それも無駄になったが」
ロガーデイ・ノースブリッジまで到達した三機のコンドルはそれぞれ地上掃射を行った。
それがダメ押しになって今度こそウィードラン部隊は統制を失う。
この後行われるのはシタルスキア連合軍による組織的な虐殺だ。
コンドルからチャージャーと随伴のシンクレア隊員が降下してくる。彼の黒いアーマーには幾つかの弾痕が見られた。
「よくやってくれた、お前達」
リーパーとブーマーが崩れた敬礼の姿勢を取る。チャージャーは簡易に答礼する。
そのまま後ろの隊員達にハンドサイン。即座に彼等はツーマンセルを取り散開。敵の掃討に参加するらしい。
チャージャーはイオの前まで来ると皮肉気に笑って見せた。
「イオ、どうやら耳の早い奴が居るようでな。お前に出頭命令が来た」
「出頭命令?」
「ガルダの奪取に関してだ。トモスを鹵獲するのとは訳が違う」
「なんだ? またカメラの前で手を振れば良いのか?」
「それはお前が取った手段に依る。場合によっては、脳に電極を埋め込まれてがくがく震える破目になるかもな」
ブーマーが笑った。
「ははっ、そりゃ最低だな。……おい待てよチャージャー、冗談だよな?」
「当然だ、今は作戦中だぞ。出頭命令は俺の方で拒否しておいた。
重要な戦力を遊ばせておく余裕は、カラフには無い」
リーパーが茶化した。
「提案がある。イオ軍曹を敵勢力圏に空輸して、もう二、三機ガルダを持って帰ってきてもらうのはどうだい?」
「……情報部には苦情を入れておいた。ガルダの存在を事前に把握出来ていなかったのは明らかなミスだ」
「情報部の連中、どうせガルダは洋上で釘付けになってると思い込んでいたんだろう。
で、どう思う? 自分で言うのもなんだがそう悪くない案じゃないか?」
「俺に死んで欲しいなら直接言えよ、リーパー」
「はっ、冗談だよ。本気にするな」
こいつ、本当に冗談なんだろうな。
流石のイオも単独で敵中に放り込まれたらゲームオーバーは免れない。
と、思う。多分。恐らく負けると思う。……負けるよな?
『エージェント・イオ、非推奨です』
「(だろうな)」
チャージャーはあれこれ悩む事をしなかったし、最低限以上を尋ねたりもしなかった。
「イオ軍曹、お前の技術は再現性のある物か?」
「敵が油断していれば」
「普遍的な物か? 例えば、俺達にも使いこなせる技術か?」
イオは少し黙考した。
『エージェント・イオ。以前伝えた通り、ブルー・ゴブレットはブルー・ゴブレットを複製する事を禁じられています』
そうだったな。
「不可能だ、チャージャー。急いでいるようだから詳細は省くが、この技術は俺にも説明のつかない物だ。
謎を解明したきゃ、俺の頭蓋を割って補助脳を調べる必要があるだろうよ」
「……ジョンソン・マクシーマは恐ろしい計画命令を発行した。
十年経って尚、俺達は強化兵の影すら踏めないで居る」
チャージャーは必要な事は聞いたとばかりに背を向ける。
「だとしたらやはり出頭命令に従う利点は無いな」
「俺が嘘を吐いているとは思わないのか?」
「何故そんな事を聞く。事の真偽を確かめる時間すら無いのはお前も知っている筈だ。
赤トサカ部隊を叩き潰し、ガルダを奪い、破綻した作戦を立て直す兵士だぞ。
オクサヌーンのモグラ共に貸してやるのは例え五分だけだったとしても惜しい」
チャージャーは雄弁だが演技派ではない。今の彼の言葉にはわざとらしさがある。
「誰かにそう聞かせたいのか?」
後々の伏線かな? イオが尋ねるとチャージャーは鼻を鳴らした。
「政治屋になったつもりは無いがな」
――
その後、シタルスキア連合カラフ方面軍は予定通りに残りの作戦目標を攻略した。
ウィードランには大打撃を、特に前線を只管に押し上げていた精鋭部隊の数々には壊滅的な大打撃を与えた。カラフ方面軍も大きな被害を受けたが、それだけの価値はあった。
シンクレアは友軍が次々と行動限界を迎える中、補給と出撃を繰り返した。
開始時132名居たシンクレア戦闘要員は16時間後には98名になっていた。それどころかテクノオフィサーにも少なからず戦死者が出ている。
記録的被害と言わざるを得ない。しかし、繰り返すが、
それだけの価値はあった。
青い光の海に漂いながらユウセイは映像を眺める。
荒野を飛ぶズタボロのコンドルの中で、イオとブーマーが失神するようにして眠っていた。オクサヌーンへの帰路の途中である。
既に夕暮れ。地平線に沈んでいく太陽が美しい。
「中々ハード……だったよな」
完全没入から一階層上の段階に戻り、ユウセイはゴブレットのパーソナルスペースで腕組み。
うーん、満足感はあるんだが何だか釈然としない。楽しんだ筈だが、楽しみ損ねた気がする。
リトライ出来ないかな、このミッション。もう一度プレイしたい。
『ブルー・ゴブレットはこの戦果を完璧な物であると考えています』
「そいつは良かった。俺も中々楽しめた……と思うんだが」
『不満ですか、エージェント・イオ』
「いや、そうじゃない」
情報の濁流。ブルー・ゴブレットが収集した膨大な戦闘データが高速で流れて行く。
『カラフ方面軍は防衛戦略の組み直しに着手しました。
暫くは優位を保ったまま時間を稼げるでしょう。
貴方がこの状況を作り出したのです』
「やったのはチャージャーだろ。
クルーク少尉が言っていたように、俺は打ち付ける大波にもがいているだけさ」
お、今の表現格好良くない? ユウセイは自画自賛。
『……エージェント・イオ。貴方はプロフェッショナルです。観測外世界である貴方のホームで、ブルー・ゴブレットの関知出来ない作戦が進行している事は理解しています』
「あ? ……そうだな。確かにそうだ。
そう言えば……俺は……そうだ、ジョナスの奴に……謝っとかないと。急にこっちにダイヴしちまったから」
『ですが、ブルー・ゴブレットは貴方の更なる介入を求めています。
カラフ大陸での戦いは大詰めと言えます。連合軍も、ウィードランも、限界を超えた稼働率で戦闘を開始するでしょう。
人類種に夜明けを齎すは我ら。私と貴方は今や運命を共にする同志と言えます』
何だか熱烈に口説かれている。ユウセイはぼんやりしていた。
「まぁ、考えとく」
『…………分かりました。ブルー・ゴブレットは現状の回答に満足しています』
ぶわりと彼女の青い髪が広がった。宙をたゆたいながら無機質に微笑む。
『休んで行かれますか?』
ユウセイは少し考えた後、頼むと答えた。
書きたい所が終わると途端に力が抜ける奴




