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目障りな夜だった

作者: おんすい

客観的に見た僕の友達と、その話を纏めました。

 街を歩けばカラフルな電飾と、サンタの衣装に身を包んだ店員、手を繋いで歩くカップル、ナンパするチャラ男に男を選別する女。

 舞台には山下達郎とかbacknumberみたいな定番のクリスマスソングが流れていて、街を行く人々の心を少しだけ温める、心躍る世界を演出していた。手を握るカップルは手袋をしていなかった。お互いの温もりを感じていたかったのだろうか。

 リア充とか非リアだとか、クリスマスの楽しみ方はそれぞれある。僕もその一人で、でも残念ながら今年も一人だ。

 そして向かう先はお洒落なカフェでもレストランでもホテルでもない、塾だ。

 大手の塾に通う僕は今日も入試対策に余念がない。耳からぶら下げたBluetoothイヤホンでは好きなアーティストの曲をかけ、それを餌に暗記本を頭に叩き込む。

 歩きスマホが危険だとか言われる世の中で、僕は歩き勉強をする。他人の事などどうでもいい。誰かが言っていたのだ。自分の人生の主役は自分なんだと。少し自己中で乱暴かもしれないが、他人に構っていて自分の人生を駄目にするなどあり得ないのだ。

 信号で立ち止まると、隣にクラスの女子が見えた。可愛くお洒落をした姿の隣には、背の高い男がいた。きっと彼らは――

 今は勉強に集中しなければならない。センター試験まで残り1ヶ月を切っているのだ。

 楽しそうな会話を、イヤホンの音量を上げて遮断し、ニット帽を深く被って顔を隠した。恥ずかしいとかそんなのではなくて、ただ、何となく。

 僕たちにクリスマスなど無い。一分一秒、寝る間も惜しい。覚えて覚えて覚えて覚えて覚えていく。


 でも。


 それでも。


 本当はクリスマスを楽しみたかった。


 親や先生は「ほんの少しの辛抱」だと言う。

 けどそれは僕たちの気持ちを知らないから言える言葉だ。

 高校三年生で迎える今年のクリスマスは二度とこない。言い換えよう、十八で迎えるクリスマスは人生の中でもう二度と来ない貴重すぎる時間なのだ。

 本当はクラスの可愛い子にデートを申し込んで、でもどうせ断られるから仲間たちとカラオケとかで馬鹿騒ぎして、身の丈に似合わないナンパなんかにも挑戦したりして、過ごしたい時間だった。


 でも現実はそうはいかない。

 僕は塾で四時間みっちり勉強した後、電車に揺られて家に帰った。

 家に帰れば温かいご飯、なんてものは無く、予めLINEしていた母親がレンジで温めたご飯が並んでいる。行儀悪く夜ご飯をかきこむと、飛び込むように風呂に入り、部屋に戻る前には睡眠阻害ドリンクを摂取して、深夜戦に向けて準備を整えていく。

 こうして、クリスマスという異名の付いた日常を、過ごしていくのだ。


 僕たちにはまるで関係の無い一日だった。そう思い込んで、僕の思考は午前三時前にベッドに沈んだ。

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