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俺はルカを殺したこの男に憎悪を抱き、狩りで使うナイフを右手に持ち男目掛け突っ込んだ。


男はゆっくりと振り返り一振り。


気づいたときには、俺の左腕は失くなっていた。


それを認識した直後、腹に物凄い衝撃を受け、壁に叩きつけられた。


俺は、薄れ行く意識の中で、その男が立ち去って行くのを見た。


どうやら、男は出血量を見て放っておいても勝手に死ぬだろうと思ったようだ。


見ていろ、止めを刺さなかったことを後悔させてやる。


必ず生き残って、絶対に復讐してやる。


薄れ行く意識の中で、そう誓った。





俺は真っ白い世界にいた。


俺以外何もなくただ真っ白。


そんな世界だが、体が水の中で沈んで行くような不思議な感覚だけはある。


このまま、一番深くまで沈んだらどうなるのだろうか。


そんなことを呆然と考えていた時だった。


誰かの声が聞こえてきた。


「……ル」


誰だ。


「……ハル……」


誰が呼んでいるんだ。


「ハル、ハル」


何か大切なことを忘れているような……


「起きて、ハル」


ああ、この声を聞くだけで愛しい気持ちが溢れてくる。


そうだ、この声を俺は知っている。


好きで、好きで、仕方がなかった。


小さな村だったが、そこで幸せに彼女とずっと暮らしていくのだろうと思っていた。


誰もが優しくて、村の皆が家族当然という何とも暖かい世界。


そんな世界をあの男が奪って行ったんだ。


朦朧としていた意識が段々と覚醒していく。


俺はあの男を許さない。


「ルカーー!!」


俺は真上えと腕を伸ばす。


未だ沈んで行く体に、抗うように上えと。


「生きて、ハル!」


その声と共に誰かが俺の手を取り、上えと引き上げてくれた気がした。


バッ!


「ルカ!……ッグ」


目が覚め、最愛の人の名前を呼びながら、勢いよく起き上がると腹部に猛烈な痛みを感じその部分を手で押さえた。


「いきなり起き上がるな。お前死ぬとこだったんだぞ。」


痛みに耐えながら辺りを見渡すと、そこは貯蔵庫ではなく、どこかの家の中だった。


そして、目の前には40代ぐらいどこか強者の風格のある男がいた。


「ここはどこでお前は誰だ!それにルカは……村の皆はどうなったんだ!」


俺は痛みに耐え、男に両手で掴み掛かろうとした。


だが、実際につかめたのは、右手だけだった。


そこで、俺は左腕を失ったことを思い出した。


「落ち着け。質問には答える。だが、覚悟はしておけ。」


男は、胸ぐらを掴まれているにも関わらず何も動じずに、逆に俺を鋭い目で見つめてきた。


「……っち。」


その迫力に圧され、少し冷静になった俺は話を聞くために元の位置に戻った。


俺が座ると、男はゆっくりと話し始めた。


「ここは、お前らの村の家の1つだ。俺は、しがない旅人で、たまたまここを通っただけだ。そして、この惨状を見て、生き残りがいないかを探し、貯蔵庫でお前を見つけた。いつ死んでもおかしくない状態だったお前を治療するためにここまで運んだ。お前の応急処置が終わった後、他の生き残りがいないか探したが、お前以外見つけられなかった。お前の言うルカがどんなやつかは知らないが、お前と同じぐらいの年頃の女は見た。残念だが死んでいたよ。」


最後の言葉で、ルカが確実に死んだことが分かった。


それは、分かっていたこととは言え、どこがで希望を持ってもいた。


ルカは死んでいないんじゃないか、実は生き残っているんじゃないか。


そんな希望は、脆くも消え去った。


「頼みがある。」


長い沈黙のあと、俺は男に言った。


「なんだ。」


「俺を、ルカのところまで連れていってくれないか。」


男は少し考えた後了承した。


男に支えてもらいながら、貯蔵庫へと赴く。


俺が寝ていた家は、何の皮肉なのかルカの家だった。


そして、貯蔵庫につき、ルカの元へといく。


そこには、体を斬り裂かれたルカの姿があった。


そんな状態のルカだが、その死に顔は、苦痛に満ちた顔ではなく、最後に俺に見せてくれた笑顔のままだった。


俺はルカに近づき、そっとその顔に触れた。


体温などなく、ただただ冷たい感触。


その冷たい感触がルカが死んでいる事実を俺に叩きつけてくる。


「俺は何日寝ていたんだ。」


「4日だ。」


ルカが死んでから4日以上も経っているのか。


「ルカ、ありがとうな。俺を起こしてくれて。」


俺の死の淵から救ってくれたのは、ルカの声だった。


だから、俺はルカにお礼を言う。


「ごめんな、守ってやれなくて。ごめん……ごめん……ごめん……ごめん……ごめん……ごめん。」


自然と涙が零れる。


「でも、仇は絶対に討つから。俺は、お前をこんな目に合わせた奴を絶対に許さない。そして、仇を討ったら俺も直ぐそっちにいくから。だから、だから、少しだけ待っていてくれな」


それを告げ、離れようとしたとき、彼女の首元に木を十字に彫ってあるネックレスを見つけた。


これは、俺が彼女の14の誕生日に作ってプレゼントしたものだ。


それ以降、彼女は毎日、そのネックレスを着けていてくれた。


俺はそのネックレスを取り、再度誓う。


必ず復讐を完遂すると。

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