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第九十七話 帰国

「オイハヤクシロヨバカナニノンキニヒキズラレテンダカイト!」


僕がつるぎに引きずられている姿を見てハルが僕に激を飛ばす。その言葉で僕もようやく足に力が入るようになり自力で歩行出来るようになった。


「ココニヤバイオートマタノシュウダンガキチマウカラハヤクニゲルゾ!」


「ヤバいオートマタの集団?」


「ソウダ!ユウジノトキニシュツドウスルセントウニトッカシタトクシュセイエイブタイナンダヨ」


「なるほど。確かにそれとのご対面は面倒だな……もう歩けるか、海斗?」


「あ、うん。大丈夫だよ、ありがとう」


「ジャアハシルゾ!」


ハルの言葉を合図に僕たちは走り出す。目指すはこの国に来た時と同じ春の作り出した地下道への入り口。走っていると、何処からかサイレンのような音が響いているのが聞こえてきた。


「ヤバイ!モウキタ!」


ハルは焦ったように聞こえる声で叫ぶ。そして走るスピードを上げた。僕たちはそれに必死で付いて行く。先ほどの戦いで体力をずいぶん消費しているので、もうすでに息が切れはじめてきた。さっきまで反対側まで見えるほどの穴が開いていた足の、骨はもうすでに結合しているので問題はなかったが、筋線維がまだ完全に修復していないので、思ったほど足に力が入らない。急激に足を動かしたのであけられた穴から血がにじみ出してくる。その血が地面に滴り落ちる。僕はこの血痕から自分たちの居場所を特定されてしまったら大変だと思い、応急処置的に、変異系第三位魔法「糸蜘粘尻《ナレアウ―》」を発動。一時的に自分の右手の人差し指と中指をクモのお尻部分に変え、出血個所をクモの糸でもって無理やりふさぐ。自分の身体の一部が虫になっているという気持ち悪さから、僕はこの変異系という魔法に苦手意識を持っていたのだが、今はそんなことを言っていられる場合じゃない。両足の傷口をふさぎ終えると、僕は再び足に力を込めて二人に追いつくために走り出す。特殊先鋭部隊だという軍団のサイレンが近くに聞こえ始めてくる。先ほどよりも高く鳴り響いているそれは、僕たちに極度の緊張をもたらす。どのくらいは知ったのだろうか、見覚えのある風景が目の前に広がってきた。僕たちがはじめてこの地に足を付けた、地下道への入り口の扉がもうすでに開かれていた。


「イソゲイソゲ!」


ハルが近くにいたオートマタたちに呼びかけ、何か準備をさせている。つるぎがハルに続いて地下へとは言って行き、僕が少し遅れて飛び込む。すると、ギギギと錆びた音を響かせながら扉が閉まる。瞬間ライトが点灯し、暗かった地下世界に光が現れた。階段を急いで下りながら、ここに来た時のことをふと思い出して、あの車両に乗るのかと思い少しげんなりする。後ろの扉の向こうからは、なにやら声が聞こえる。もうここに気が付かれてしまったのだろうか。喧嘩をしているような雰囲気が音でもって伝わってくる。一足先に階段を下りきっていたつるぎが用意されていた車両に乗り込む。僕も階段を何とか下りきり、車両に駆け込む。入ると、見たことのある光景が車両内に広がっていた。車両の後ろの方に色々な荷物が運び込まれている。その荷物たちはどれも厳重に動かないように固定されていた。僕は一番近くの椅子に座り、何重にもしなくてはいけないシートベルトを自分の身体に巻き付けていく。


「ジュンビハイイカ!?」


若干焦り気味なように聞こえるハルの言葉を耳にして、僕たちはうなずく。


「ジャアイクゾ!」


ハルはそう言って再び先端の方へと向かっていく。そして、ご運という大きな音とともに車両が動き出した。


「はあ……」


車両が無事に動き出したことを確認すると、僕は緊張の糸を少しだけ緩ませた。


「捕まらなくて良かったな」


つるぎが言う。


「……本当だよ。まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったから」


「本当だな……」


轟々と車両は速度を上げていく。


「なあ、これはどのくらいのスピードで走るのだ?今割とすごいスピードで走っている気がするのだが……」


しばらく無言が続いた後、つるぎが少し不安そうな声で僕に向かってそう言ってきた。


「確かマッハ1を超える位くらいだよ」


「マッハ!?」


つるぎは驚いたように叫ぶ。


「そう、マッハ。そういえば、つるぎはレーレンに入るときは気絶してたんだもんね。知らないよね」


「そ、そうだな……本当にマッハなのか?」


「そうだってば」


「そ、そうか……」


つるぎは急に足をもぞもぞし始めた。マッハの速度に緊張しているのだろうか


「どうしたの?」


「いやマッハって……」


「マッハって?」


「気絶するだろう?」


「するね。少なくとも僕は気絶したね」


「……そうか」


もうすでにこの車両は明らかに日常生活では感じない速さにまで突入してきている。だんだんと体が重くなってきた。僕は目をつぶってなるべく楽に気絶できるように準備を整えた。身体にかかる負荷がどんどん重くなってくる。そして、体力の限界もあって、どんどん意識が遠のいていく。そして、僕はこの前よりも早いタイミングで気絶してしまった。





「起きろ海斗」


その言葉とともに肩がゆさゆさと揺られる。


「う……ん……?」


「到着したぞ、海斗。起きろ」


鼻をつままれる。僕は思わず目を開けてしまった。すると、目の前にはつるぎが立っていた。


「オキタカ」


ハルもひょっこりと顔を出してきた。


「ああ……着いたんだ」


「ソウダゾ。ハヤクオキロ」


僕はゆっくりと意識を覚醒させていく。そして、半分寝ぼけ状態で自分を縛っているシートベルトを外していく。


「っああぁ……」


シートベルトをすべて外すと、僕は大きく伸びをした。身体からバキバキと音が鳴る。腰をひねってバキバキ。背中をそらせてバキバキ。足の状態を見てみると、クモの糸に血がにじんでいるといったようなことはなく出血は止まっているように見えた。


「おはよう、海斗」


つるぎが僕に向かってそう言う。


「おはよう、つるぎ」


僕もそれに返す。自分たちが今もまだ生きているということを実感し合う。そして、車両から降り、あのトロッコのようなものがある場所へと向かう。ハルはもうすでにそこにおり、電源らしきものをいじくっていた。


「そうだ、ここからさらに何時間かかかるんだ……」


僕が意気消沈しながらそう言うと、ハルが話し始めた。


「コンカイハコノマエノソクドヨリモダイブハヤクナッタカラスグニツクゾ」


「どういうこと?」


「コノマエハアマリニモオソスギタンデイマチョットエンジンブブンヲイジクッタンダ。ダカラタブンコノマエノバイノソクドハデルヨウニナルトオモウゾ」


「へー、すごいじゃん。だいたい時速80キロってところか。じゃあすぐだね」


「ウン」


僕たちの会話に、つるぎだけが付いていけていない顔をしている。


「マアノレヨ」


ハルの促しに従い、僕たちは狭い箱に入った。最後にハルが前の方にある空間に入りこむと、叫んだ。


「ジャア、ワルフラカへイクゾ!」


そして、僕たちが乗り込んでいる箱が動き出した。

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