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第九十二話 ワームキューブ

「それで、僕の強化は何するわけ?」


僕はハルに連れられて、またしても廊下を歩きながら今度は僕の強化の番だと息巻いているハルに尋ねた。


「トリアエズハオレガツクッタマホウホジョグノグアイヲタシカメテモライタイナ!」


テンション高く聞こえるような声でハルが言う。


「その魔法補助具ってのはどんなのがあるわけ?」


「マアマアソレハミテカラノオタノシミダッテバ」


「……はいはい」


廊下を右へ左へと曲がりながら、しばらくするとまたしてもとある部屋へと案内される。


「ココガキホンテキニマホウノケンキュウヲシテイルトコロダナ」


ハルに案内されてはいったその部屋には、壁一面に敷き詰められた本、本、本。それらはワルフラカ帝国で見たことのある魔導書が多かったが、たまに見たことのないものも混じっていた。床には相変わらず書類が散乱している。そして、かすかに魔法協会に流れる匂いと同じような空気を鼻の奥で感じた。何か怪しげな、エキゾチックな香りが鼻腔をくすぐる。このレーレン公国に来てからは久しく階でいなかった香りは、不思議と僕の心を落ち着かせた。


「すごいな……」


僕がこの部屋に入って息をのむ姿を見て、ハルは嬉しそうに聞こえる声で言う。


「スゴイダロ?コノヘヤメチャメチャジカンヲカケテツクッタンダゼ」


「だろうね。ここだけレーレン公国じゃないみたいだ。帝国魔法協会の匂いまでするし……」


「ソノニオイヲサイゲンスルノニモジカンガカカッテカカッテショウガナカッタンダ」


まるで子供が自分の作った工作を親に自慢するときのように、ハルは誇らしげに聞こえる声で言った。


「いや、本当にすごいよ。これなら魔法補助具の方にも期待が持てそうだ」


「マカセテオケ」


ハルは部屋の奥から箱をいくつか取り出してくると、それらを僕の前に並べた。


「コレラガイチオウオレガカイハツシタマホウホジョグノスベテダ。シサクダンカイノモノモアルカラコウカガデルカドウカハワカラナイケドトリアエズツカッテミテクレヨ」


「良いけど、でもこれって、前に仕えるかどうかわからないって言ってなかったっけ?」


僕は以前にハルが使えるかどうかわからない的なことを言っていたなということを思い出した。


「リロンテキニハツカエルンダガジッサイハツカエナイカモシレナイトイウコトデツカエナイトイッタダケデリロンテキニハツカエルンダゾ?リロンテキニハナ」


「あー、なるほど。理論的にはね。オッケー、オッケー。それじゃあ、実質僕がこれらを使って魔法を使うことによってこの補助具たちが使えるかどうか決まってくるわけだ」


「ソウダナ」


「つまり、僕が試作品を見極める作業をするってことで良いんだね?」


「ソウダナ」


「いや、おかしいだろ!」


僕はハルに向かって叫んだ。


「それは僕の強化がメインじゃなくて、ハルの作った試作機のテストがメインじゃんか!」


「ソウダナ」


「『ソウダナ』じゃないよ!こんなんで本当に僕の魔法強化につながるの!?」


「ソノナカニイッコデモアタリガアッタラバンバンザイジャナイカ」


「いや、この中からだったらせめて三つくらいは当たりが出てくれないと万歳できないよ」


「ソウカ?マアトリアエズヤッテミテクレヨ」


僕が叫ぶのをしり目にハルは足元にある箱の中から何かを取り出して僕に投げてきた。僕はそれをキャッチする。それは、いかにも駄菓子屋で売っていそうな、街角アンケートを取ったら十中八九宇宙人が持っていると答えるであろうという固定概念を現した形をした銃だった。


「なにこれ」


「ソレハマホウヲハツドウスルサイニマリョクノホウシュツグチヲイッテンニシュウチュウサセルコトニヨッテヨリマホウノイリョクヲアゲヨウトシタドウグダ」


「へー」


僕はそれを言われて、試しに魔法を放ってみることにした。


「あ、そういえばここって魔法打ってもいいの?」


「コノヘヤダケナライイゾ」


「オッケー。じゃあ、まあ試してみるよ」


僕は宇宙銃を構えて、何も置かれていない一画のその壁に向かって魔法を放つ。


鳴雷甲迅ビークシン


汎用系第三位魔法「鳴雷甲迅ビークシン」によって放たれた雷撃が、壁に着弾。瞬時に白かった壁を黒色へと変色させる。


「……ドウダ?」


「うーん。あんまり威力が上がったようには感じなかったな。そもそも僕、魔力の放出口を変形させること出来るから、あんまりいらないかな」


「ナニ!?ソウナノカ!?」


「うん。結構これはできる魔術師多いよ」


「ソウダッタノカ……ムダアシダッタナ……」


「いやまあできない人が使ったら威力は上がると思うから無駄ではないと思うけど」


「ジャアコレハドウダ!?」


ハルは次の道具を渡してくる。


「これは何?」


「ソレハマリョクノナガレヲアンテイサセルタメノドウグダ。ドウダ?ナニカカンジナイカ?」


「うーん。とくには何も」


「ホントニ?」


「本当だよ」


「ジャアコレハ!?」


こうして僕はハルに手渡された魔法補助具の試作品を次々と試していった。




「サイゴハコレナンダガ……」


今までしっくり来た魔法補助具は結局見つからなかった。どれも中途半端だったり、何も効果を生み出さなかったり、すでに魔術師側が出来ることが出来るような道具ばかりだからだ。


「これはどんなんなの」


僕は渡された五センチ四方の薄い青色が付いた透明な容器を眺めながらハルに尋ねた。


「イチオウマホウヲトジコメテオクコトガデキテソレヲニンイノジョウキョウデハツドウスルコトガデキルッテイウドウグナンダケド……」


今まで一つもいい結果が出ていないので、しおらしく聞こえる声でハルが言う。


「へー、すごいじゃん」


「マアホントウニデキタラノハナシダケドナ」


先ほどの威勢のいいハルの姿はどこへ行ってしまったのやら、先ほどから放たれる言葉はすべてネガティブなモノばかりだ。まあ、あれだけ自信があったのに、結果として惨敗してしまっているわけだから、そうなってしまうのも無理はないと思う。ぶっちゃけ僕も、先ほどからの結果から、この道具が本当に魔法を閉じ込めておくことができるとは思っていなかった。しかし、試してみないとハルが可愛そうだし、本当に閉じ込めておける可能性だって捨てきれないわけだから、僕はその薄青の透明の容器に向かって、先ほどから何回発動しているかわからない「鳴雷甲迅ビークシン」を放った。すると、発動の瞬間から現象の発生までがその容器に吸い込まれるように入り込んでいく。まるでびっくり箱を逆再生したみたいな現象が今僕の目の前で行われた。


「今のって……」


「アア……」


僕とハルは顔とディスプレイを見合わせた後、もう一度僕の手の中にある容器に目をやった。


「これって、どうやって発動させるの?」


「マンナカニボタンガアルメンガアルダロ?ソノボタンヲオストイチオウハツドウスルシクミニナッテルケド……」


「これか」


僕は試しにボタンを押してみた。すると、僕が先ほどはなった「鳴雷甲迅ビークシン」が壁に向かって放たれた。着弾して、僕が普通に放った時と同じように壁を炭化させる。


「……成功じゃん」


「アア……」


僕たちはしばらくその場に立ち尽くした。

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