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第八十二話 最終位魔法

僕は始めから全力でこの翼の住人に立ち向かうことにした。先ほど光系最終位魔法「上津役光延紋セラフイーム」を放ってきたやつとは違うが、こいつも最終位魔法を放ってくるだろうということは予想がつく。元に、僕の魔法を打ち消してから炎系第五位魔法「焔魔青激高殉ノーンハスヤ」を放ってきたということを考えれば当然のように最終位魔法を放ってくるだろう。そもそも第四位の対魔法系魔法を放った後すぐに第五位の魔法を放つことが出来るなんて、ヤバいが過ぎる。ヤバすぎる。最高位の魔術師の中でもさらに上位の魔術師しかそんな芸当はできないだろう。しかし、こいつらは人間ではないことがわかっている。こいつらはあの自称「神」と同じタイプのヤツらで僕たちの敵なのだ。そのくらいの芸当が出来て当然くらいに思っていなければこの先とてもじゃないけどやっていけないだろう。僕は雷系第三位魔法「鳴雷甲迅ビークシン」を翼の住人に向かって放つ。翼の住人はその雷に右手をかざす。すると、僕の放った電撃が見る見るうちに消えてなくなってしまった。そして、電撃を消滅させた右手から、僕が放ったよりもさらに強力な雷撃が僕に向かって放たれた。それは雷系の魔法ではなく対魔法系の魔法によって発生させられた電撃。対魔法系第五位魔法「再吸白放吹アメフータヤ」によって吸収された僕の電撃がさらに強力なものとなって放たれたものだった。僕は急いで汎用系第四位魔法「傘避針銅オホイカ」を発動させる。地面から現れた太さ1.6ミリメートルほどの銅製の棒を地面から発生させ、避雷針としての役割を果たさせようとした。一部の電撃はそちらに流れていったが、まだ多くの電撃が僕を襲う。「傘避針銅オホイカ」と同時に発動させた汎用系第四位魔法「白壁洞牟ジャヤンタ」によって出来た鉄製の壁が電撃をすべて受け止める。電撃はその壁によって進行を止めたが、翼の住人はさらに僕に追い打ちをかけるように「焔魔青激高殉ノーンハスヤ」を放ってくる。


「嘘だろ!?」


僕はすぐさま白い壁から離れる。そして襲ってくるすさまじい熱気。鉄の壁はあっという間に溶けてしまった。僕が避けた先に翼の住人が放ってきた光系第四位魔法「規光櫂脱ダネール」の光線が襲い掛かる。僕はそれを避けようと思ったが、完全に回避することが出来ずに左肩に当たる。この前喰らった光系第三位魔法「崇雀光琵カーマデヴァ」よりも高出力で放たれたそれは、僕の左肩の肉ををえぐるようにして消滅させた。少ししかない肩回りの肉を削られ、焼けただれてしまった僕の左肩から痛覚の信号が最大限に放たれる。僕の脳ミソはその信号をいち早くキャッチして身体すべての痛覚に訴えかけてくる。


「あ゛あ゛!?」


意識するよりも早く僕ののどから絶叫が漏れ出す。今まで出したことのないような声が僕の声帯から絞り出された。翼の住人がもう一度「規光櫂脱ダネール」を放ってくる。僕は痛みに打ち震えながら「白壁洞牟ジャヤンタ」を発生させこれ以上身体を消滅させないように壁を張った。それと同時に僕は治癒系第四位魔法「麓痛衫幻空バキエールー」を発動。肩の痛みを強制的に意識の外から追いやる。そして治癒系第四位魔法「傲督癒尽幔ハナエールー」で消滅した左肩の肉を再生させる。徐々に徐々に肉が形を伴って傷口をふさいでいく。完全に痛みがなくなったところで僕はもう一度神経を集中させ、魔法を紡ぐ。汎用系第四位魔法「断槍凡鋼カールラ」を発動。全長1.7メートルの槍を翼の住人に向かって発射させる。さらに汎用系第四位魔法「矢轟雨臨シールパ」を展開。豪速で放たれた槍の後を追うように無数の矢が翼の住人めがけて飛んでいく。翼の住人は槍が自分のところに来ているというのに微動だにしていなかった。そしておもむろに右手を胸の高さまで上げる。その腕を見て僕は驚愕した。その腕の先端にあるはずの手が、竜の頭に変わっていたのだ。変異系第五位魔法「変魔竜甲頭ヴーリトラ」によって手を竜の頭に変形させた翼の住人はそのまま、放たれた槍をその竜の頭でつかみ取ると槍をへし折った。そして遅れてやってきた無数の矢を、竜の頭から放つ炎と己の放つ魔法「焔魔青激高殉ノーンハスヤ」によって焼き尽くした。超高熱の炎たちによって、空気の温度が上昇。空気が揺らいで翼の住人がまるで蜃気楼の奥にいるかのように見える。僕はその姿を見てほとんど絶望しかけていた。こんな化け物を相手にするのは初めてだ。第五位の、しかも、複数の系統の魔法を同時に操るような化け物に勝てるようなビジョンが僕には全く見えてこなかった。自称「神」の仲間であるこいつらに、こんなぼろ負けを喫していて、自称「神」に勝てるのだろうか?僕たちは本当に髪を殺すことが出来るのだろうか?圧倒的な力の差を見せつけられて、僕の心は折れかけていた。その時、場の空気が急激に下がったことを肌で感じた。見ると、ミナレが水系最終位魔法「纏氷内結棘木《ミーヒーカーリ」によってもう片方の翼の住人の体内の水分をすべて氷に変換しているところだった。左手に包帯を巻いていた大男のその手は消えていて、他の男たちも立っているのがやっとの様子なのが数名だけ残っていた。あとのメンバーは全員倒れて死んでいた。翼の住人は体内の氷化にあらがおうとしていたが首のわきから大きなつららのような氷が飛び出して首が折れる。僕はそれを見て、最終位魔法を放ったらまだ何とかなるのかもしれないと希望を持ち始めた。


」よそ見をするなんて、ずいぶん余裕なのだな「


僕が相手をしていた方の翼の住人のその言葉で僕は我に返る。両手を胸の前に掲げて魔法を放つ準備をしている。


「あ」


僕は急いで最終位魔法の準備をするが、当然ながら翼の住人はそれを待ってはくれず、炎系最終位魔法「焔魔蒼滅左慈牙ズルワーン」を放つ。地上に急に一等星が現れたのかと勘違いしてしまうほど蒼い炎が目の前の空間を塗りつぶしていく。瞬時に空気の温度を上昇させ、余波で全身の肌が焼けただれそうになる。あまりの熱量に眼球が沸騰するのではないかと思ってしまう。僕はそんな中必死で最終位魔法を紡ぐ。


「ああああああああ!」


そして燃える空気を吸って肺を焼きながら雄たけびを上げ、放つ。雷系最終位魔法「天即皇空雷獄アーポスタタエ」によって数千万ボルトの強度を持つ電場が生み出される。「焔魔蒼滅左慈牙ズルワーン」によって発生した蒼い炎に含まれている電子やイオンが、生み出された電場に反応する。その反応によって燃料源が炎から離れていく。燃料源を失った蒼い炎がどんどんと消えていく。一定の空間のすべての電子とイオンが僕の支配下に収まり、蒼い炎はついに消え去った。それと同時に僕も「天即皇空雷獄アーポスタタエ」を止める。ほとんどすべての魔力を使って最終位魔法を放ったせいか、疲れが急激に僕を襲う。浅くなる呼吸を何とかゆっくりしたものにしようとするが、肺がひりひりと痛み、喉の奥が焼けたように痛い。僕が自身に「傲督癒尽幔ハナエールー」をかけようとしたとき、急にあたりが白い煙によって包まれ始めた。

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