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第八話 ガルティアーゾ

「マジでスライムなのか?あれ」


「まだわからない。しかし、信玄餅が動いていたということではないことだけは確かだ。私たちの知っている信玄餅に、さっき見たいな核を保有しているものは無かった。まあ、もしかしたらこの世界がお菓子の世界で、次に襲ってくるのがジンジャーマンクッキーだったら、さっきのも信玄餅だといえるのかもな」


信玄餅もどき、もといスライム(?)を撃退することに成功した僕たちは、しばらくあの襲い掛かってきたものが何だったのかについての話し合いに夢中になっていた。だから、気が付かなかったのだ。さっきのスライムなんかよりもよっぽど強大で、対応次第では天国にも地獄にもなる状況に陥っているということに。ガサっという音が聞こえた時にはもう遅かった。僕たちはいつの間にか、屈強な男たち五人に囲まれていたのだった。


僕たちを囲んでいる男たちは、明らかに僕たちが普段の生活で見ていたような日本人の顔つきではなかった。彼らは全員、背中に彼らと同じくらいの大きさがある金属らしき物質で出来た板を背負っている。また、肩やひじ、膝などの主要な関節にも、背中の板と同じような材質で出来た覆いをしている。そして、僕の知っているところでいう大胸筋サポーターのようなものを上半身に、短パンのぴっちりしたやつを下半身に身に付けていた。僕たちのいた世界でも、こういう人はいた。まあ、それは主に何かのキャラクターのコスプレをしているコスプレイヤーだったのだが。しかし、この人たちはコスプレイヤーってわけではないのだろう。もしコスプレイヤーであったならば殺気がすごすぎる。みんな短剣を僕たちの方に構えているし。いったい何なんだ!?


「嗚呼、大いなるガルティアーゾの神々よ!」


突然一番体格の大きい人物が叫ぶ。続いて他の四人が復唱する。なんと!日本語が喋れるのか?僕は思わずつるぎに視線を送る。つるぎも同様らしく、僕と目が合う。僕はうなずくと、彼らに大声で問いかけてみる。


「ちょっと待て!あんたたち、何者なんだ!?」


すると、彼らは動揺したかのような声を出す。何かを叫ぼうとしていた先ほどの男が一度深く呼吸をすると、それをなだめながら、先ほどの叫びとは打って変わって小さい声で僕たちに尋ねる。


「……おい、何故、貴様が我々部族の言葉をしゃべることが出来る?」


「そっちこそ、なんで日本語をしゃべっているんだ?ここはどこなんだ?」


「我々はニホンゴなどという言葉は使っていない!我々が用いている言語はゾイークだ!そして、貴様は我々の部族しか用いないゾイークを、今喋っている。これは一体どういうことだ?答えによっては貴様らを早急に始末しなければならない……さあ、答えろ!」


僕がその男に気圧されていると、つるぎが口を開いた。


「私たちも、あなたたちと同様の現象が起こっている。私たちには、あなたが喋っている言葉は、私たちが使っている言葉と同じだ」


「何!?そんなはずはない!」


「いいや、事実だ。私たちはついさっきここに来たばかりで、あなたたちが何者かも知らない。ましてや、あなたたちの言語など使えるわけがない」


「その話が本当だとして、では何故、我々の言語が互いの言語で聞こえるなどというようなことが起こっている?」


「それはわからない。ただ、確実なのは、私たちはあなた方の部族も言語も知らないということだけだ。むしろ、私たちと同じような人間というものが存在しているということに驚いている」


つるぎが言い終わると、互いに沈黙が続いた。しばらくして、さっきの男が口を開く。


「貴様ら、先ほど『ついさっきここに来たばかり』だと言っていたな?」


「ああ、そうだ」


「貴様らはいったいどこから来たんだ?こんな外れの草原を通るような道などないはずだぞ」


僕はつるぎの顔を見た。つるぎも僕の顔を見る。そして、僕たちは一緒のタイミングで指を上に向けて言った。


「「空から」」



そこから僕たちはさらに矢継ぎ早に質問され、それらにすべて答えると、ようやく囲いを解かれた。


「なるほどな……にわかには信じられないが、貴様らの話におかしなところはない……いや、貴様らの話は我々にとってはおかしなところばかりなのだがな」


「それはそうだろうな。なにせ当の本人である私たちも何が何だかわかっていないんだ。そりゃあ、話を聞いただけでは理解し得ないだろう……それでも剣を収めてくれたことには感謝する」


「……それで、貴様らはどうするつもりなのだ?」


「どう、とは?」


「ここから先、何かアテがあるのかということだ」


「ああ、そんなものは当然無い。しかし、私たちはとりあえず生き延びなければならないのでな。まあ、どうにかするさ。私たちと同じような人間が存在しているということを知ることが出来たのは、私たちにとっては非常に大きな収穫だしな」


なあ、そうだろう、とつるぎが僕に言う。僕は大いにうなずいた。


「……そうか……おい、お前たち!」


さっきまで僕たちと話していた、一番体格の大きい男が、ほかの男たちの方へ振り向いて言う。


「こいつ等を我々の村に連れて行こうと思う。なにか異論のある者はいるか!?」


しばしの沈黙が続いた後、その男は僕たちの方に向き直ると、


「我々の後についてこい」


と言った。そして、ほかには何も言わずにどんどん歩いていく。他の男たちも、それに続いていく。僕たちは顔を見合わせた。


「どうする?つるぎ」


「……まあ、このまま付いて行ったら見事に殺されるという可能性も十分にあるが、かといってここに残っていても生き延びることが出来るという可能性は低い……ここは付いて行くしかないだろうな」


「そうかぁ……じゃあ、殺されないことを祈りながら行こうか」


「ふふっ……そうだな。そうだ、なんなら手をつないでいてやろうか?」


「良いって、大丈夫だよ」


「ふふふっ」


僕たちは,どうして言葉がそれぞれの言語で通じるのかなどの疑問は残っているものの、結局彼らについていくことにした。少し離れてしまった彼らに追いつくために、僕たちは小走りで彼らの後を追った。

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