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第七十七話 火事の全貌

僕たちはすぐに今日泊まれる宿を探した。初めて本当の着の身着のまま状態を体験した僕たちは、宿を過ぎに決めた後、なぜ火事が起きたのかを解明することにした。僕とつるぎは冒険者ウーノンに向かって歩きながら会話を交わす。


「なんであそこが火事になったのか、その原因を突き止めようよ」


「うむ、そうだな。そうしないと私たちの荷物の賠償なんかをしてもらえないからな」


「あ、そういう理由なの?宿のおじさんのためとかではなくて?」


「もちろんそれも2パーセントくらいはある。が、48パーセント位は火事の原因に私たちの荷物を返してもらうためだ」


「残りの50パーセントは?」


「……きな臭いとは思はないか?海斗」


「まあ、火事が起こったからきな臭くはあるんじゃない?」


「いや、そうではなくてだな。どうにも怪しいと思うんだ。宿のおじさんはもともと厨房にあった床下収納庫の中に隠れていたために火事でも無事だったのだろう?」


「うん。そうだよ」


「ということは、おじさんは厨房にいたということになる。となると、あのおじさんが厨房にいたのに厨房が出火の原因だなんてことは、可能性としては低いように思える」


「まあ、そうだね」


「そもそも火事の原因が料理の火ということは、タバコなんかよりも少ないと言われている。この世界にタバコのような火を使った嗜好品の存在は、あるかもしれないが今のところ確認されていない。ということは、誰かがあそこに火をつけた可能性が非常に高いということになるな」


「そうだな」


「そして私たちはこの二週間あの宿を拠点にしながらミギヒナタの人間を探していた」


「……つまり?」


「つまり、あの宿を燃やしたのはミギヒナタの人間なのでは?」


「いきなりの超展開だね」


「だから言ったろう?きな臭くないかって。やはりここでもにおいがするのだ。ミギヒナタの存在のな」


「うーん……まあ、とりあえずは宿のおじさんがすべてのカギを握ってるはずだ」


しばらくして僕たちは冒険者ウーノンの本部にたどり着いた。建物の中に入ると、辺りは騒然としている。冒険者やスタッフがあわただしそうにうごめいている。僕が先ほどまで火を消していたテンガロンハットの集団もそこにはいた。僕は比較的暇そうにしている近くの人を捕まえて、今何が起こっているのかを尋ねた。曰く、上位の冒険者たちが出来る限り集められているみたいだった。僕たちは上位の冒険者が集められている場所へと足を向ける。すると、ちょうど冒険者ウーノン側の人間が何か説明しているところだった。


「情報の早いやつならばもうすでに知っていると思うが、先ほどタンゼマ地区の宿屋で放火があった。建物は半壊。中にいた人間も宿屋の主以外全員死亡が確認された。これだけなら普通の放火事件として処理するが、今回は事情が違う。先ほどの調査によると、その死者の中に冒険者が混じっていた。そのうちの一人は上位の冒険者だ。しかも、火事による死亡ではなく切り殺されていた」


その発言で、辺りが一斉にどよめき始める。先ほどまで説明していた人がさらに声を張り上げて続きを説明し始めた。


「何が起きたのかを唯一の生存者である宿主に尋ねたところ、白い翼の生えた人間型の奇妙な生物が二体と、身長と同じほどの大きさの大剣を背負った男がいきなり襲撃して生きたということだった。また、その男は円の中に交差した翼が描かれた服を着ていたという。これは、神聖ミギヒナタ国の国旗であることが確認されている。ここのところの目撃情報はないが、間違いなく神聖ミギヒナタ国の人間だ」


ここでまた再びのざわめき。だあれもが互いに顔を合わせていた。僕らとてそれは例外ではない。僕とつるぎは神聖ミギヒナタの話が出た途端、目と目が合った。ここにきていきなりミギヒナタの人間の情報がつかめた。しかも、宿屋の放火犯はそいつらだって!?つるぎは「ほらみろ」と言わんばかりの顔をしている。やはりつるぎの感じていたにおいは間違いじゃなかったということを認めざるを得ない。先ほどよりもさらに大きな声で、はたから見ればのどがはちきれてしまうんじゃないかと思うくらいの様子で話の続きを男がする。


「神聖ミギヒナタ国の人間が輪がワルフラカ帝国に何の用があるかは知らないが、罪は罪だ。そこで、君たちそいつらの探索を行ってもらいたい。しかし、条件がある。今回宿屋を襲ったその生物と男はかなり強力だということが予想される。なので、今回この依頼が受けられるのは、最高位の冒険者及び、上位冒険者の中でもさらに上位の人間ということにさせてもらう」


ここで起きたのは怒号の嵐だった。説明していた男が声を張り上げるが、それをかき消すような勢いで次々と罵詈雑言が飛び交う。そんな中、澄んだ声が辺りに響き渡った。


「質問があります!」


その声がしたのは後方からだった。今まで罵詈雑言を飛ばしていた人たちも、自分たちは基準を満たしている上位だからと安心していた人間も、どちらも一斉にその声のした方を向く。そこにはつるぎよりも少し身長の小さい、バラの花をあしらったバッジを胸元に付けた金髪の美少女と、その美少女の後ろでひたすら興味なさそうに自分の髪の毛をいじっている長髪の男がいた。自分に視線が来たのを確認してから、さらにその美少女が口を開く。


「党でその依頼に当たることは可能ですか?」


「……誰かと思えば、『ゾゴバットの花』の長、『悪魔の飼い主』ことヴィエリオールではないか」


「で、どうなんです?」


悪魔の飼い主らしいその少女は再び質問の答えを要求する。質問された男はやれやれといったような表情をしながら口を開く。


「各々の党で依頼に当たることは構わないが、被害が出ても我々は知らんぞ?」


「そんなことは百も承知です。あくまでも依頼を引き受けることが出来るのが最高位及び最高位に近い上位の冒険者だけということですね」


「まあ、そういうことだな」


「そうですか。どうもありがとう」


ヴィエリオールは優雅に一礼すると、前を向いて再び口を開ける。


「今ここにいる、基準に満たない上位冒険者の皆さん、ごきげんよう。いきなりですけど、私の党に入りません?」


その言葉に場が一瞬だけ静まり返った。そして一瞬にしてさき程のどの喧騒よりも大きな声が巻き起こる。夏休みの花火大会の会場なんて比じゃないくらいにうるさくなった。


「ふっ。相変わらず卑怯な方法で人を増やそうとしているな。悪魔の飼い主よ」


そんな言葉とともにヴィエリオールの隣に胸元に盾の絵が描かれているバッジがきらめく立派な鎧を身にまとった大男が現れた。


「卑怯な方法、とはどういうことです?『鋼鉄の巨人』さん」


ヴィエリオールは笑ってるんだか起こってるんだかわからないような表情で、その大男に言う。


「私の名前はジギルウォークだ。小娘」


「私の名前はヴィエリオールですよ?お・じ・さ・ま」


「……」


「……」


得も言われぬ雰囲気が二人の間に発生する。殺気と殺気がぶつかり合ってできたようなその雰囲気は一瞬にして場を支配した。最高位冒険者たちの殺気に気圧されて誰もが生唾を飲み込む。そんな重苦しい空間に、声が響いた。


「おい、その依頼はどこで受け付けているのだ?」


振り返って見ると、つるぎが先ほどまで状況を説明していた男にそんな質問をしていた。


「あ……ああ、今回の依頼は、一番奥の受付で冒険者のバッジによる位の証明と名前の確認によって受けることが出来るが……」


「そうか。わかった」


つるぎはそれだけ言うと、今度は僕の腕を掴んで、


「さっさと行くぞ」


と言った。腕をつるぎに引っ張られながら、僕は視線を一斉に感じる。今までにらみ合っていた最高位冒険者であるヴィエリオールとジギルウォークも僕たちのことを見つめていた。


「ちょっちょっちょ、つるぎ!?」


「なんだ?」


つるぎは僕から腕を離すと、僕の顔を見ながらそう言う。僕はつるぎの隣に行って同じスピードで歩きながら口を開く。


「重苦しい雰囲気だったでしょう!?なんでいきなりあんなこと聞いてんのよ!?」


「いや、だって私たちには関係のない話だったし……さっさと依頼を受けて、さっさと探しに行きたかったから……」


言いながら、先ほど言われた一番奥の受付にたどり着く。すると、後ろから一斉に音が聞こえた。振り返って見てみると、多くの冒険者たちがこちらにやって来ていた。つるぎは素知らぬ顔でもろもろの情報や説明を受け、依頼受理を完了すると、


「さて、行くか」


と言って、再び僕の腕をつかみ、僕のことを引っ張りながら出口へと向かった。

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