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第七十五話 休日

ハルと出会ってからさらに一週間ほどたったある日。僕たちはいつものようになかなか見当たらない神聖ミギヒナタの人間を探していた。


「もういなくなったんじゃない?神聖ミギヒナタ国の人たち」


僕は歩きながらつるぎに向かってそう言う。背院生ミギヒナタ国の人間を探し始めてから約二週間ほどが経っているが、その人たちを見つけることはおろか手掛かりすらつかめていない。


「まあ、それならそれで良いのだが、何者かの気配はまだしているという話なのだろう?海斗の情報網によると」


「うん。まだしてるって言ってたよ。召喚系魔法の使い手の人が言ってたから間違いはないと思う。だけど、前も言ったけど、それがミギヒナタと関係あるかどうかはわからないから、もう少し別のアプローチをとってもいいのかもしれないよ?」


「例えば?」


「……わかんないけど」


僕は早くこの閉塞した感じを変えたくて、つるぎに提案をしてみた。しかし、つるぎは受け入れることが出来ないようだった。


「わからないのか」


「うん」


「では結局今のところミギヒナタとその気配の生物が関係しているということを前提に進めることになるな」


「う~ん……つるぎも考えてよ。他のアプローチ」


「私がか?私はミギヒナタとなにがしかの気配は関係しているだろうという予想を立てている立場の人間だから、あまり考えたくないのだが……」


「いいじゃん。別に考えを巡って争ってるわけじゃないんだからさ」


「まあそうなんだが……めんどくさいからな」


ぼそっと呟かれたつるぎの言葉。僕はそれについ反応してしまった。


「めんどくさいって、いるかどうかもわからないのに探す方がめんどくさくない?」


「だから、私はいると思っている立場の人間だから、頭を動かすより足を動かした方が楽なのだ」


お互いの言葉に角が立ち始めてくる。それと同時に発生する少しだけピリピリしてくる雰囲気。実のところ僕もつるぎも疲れているのだ。一項に姿を見せない神聖ミギヒナタ国の人間を探すということに。


「ヨウオマエラ!マダサガシテンノカ?」


僕とつるぎの間にある空気が少し険悪になりつつあったそんなタイミングで、ここ最近聞き慣れてきた機械の声が耳に入ってきた。


「ああ、ハル」


「ナンダナンダ?ケンカカ?ケンカスルホドナカガイイトカイウコトバガアルケドケンカデワカレタニンゲンモイルッテコトハワスレチャイケナイヨナトオレハオモウゼ。デ、ケンカカ?」


「別に喧嘩はしてないよ……ただ、お互い少し疲れてるだけさ」


「ソリャツカレテルダロウナ。オマエタチハオレトチガッテユウキタイノニクタイヲモッテイルシ、ナニヨリココントコロズットミギヒナタノニンゲンヲサガシテルジャナイカ。イイカゲンミテテアキテキタゼ」


「飽きてきたって……」


まるで他人事のように話すハル。いや、実際他人事なのだけれども。


「モットベツノコトシヨウゼ。オマエタチワカインダカラサ」


「別のこととは?」


「ソレハジブンデカンガエロヨ。オマエタチガナニヲシタラタノシイカナンテコトハオマエタチシカシラナインダカラサ」


「まあ、確かにそれはそうだね」


「たまには良いこと言うじゃないか。ロボットなのに」


「オートマタダカライエルコトモアルノサ」


画面にキメ顔の表情と星をちりばめながらカッコつけて言うハル。僕とつるぎは顔を見合わせる。


「……今日はもうやめるか」


つるぎが口を開く。


「そうだね。やめよう」


僕もそれに同意する。


「ありがとう、ハル」


僕はハルに向かってお礼を言う。


「オレハナニモシテナイゼ。キメタノハオマエタチダカラナ」


「それでも、ありがとう」


「……マアドウシテモトイウナラソノコトバウケトッテオクゼ」


「うん」


「ジャアセイゼイタノシメヨ」


ハルはそう言うと、どこかへと行ってしまった。


「さて、ではここからどうするか」


ハルを見送った後、つるぎが僕にそう尋ねてくる。その顔は夏休み初日の浮かれた子供のような表情をたたえていた。やはり、僕たちには休息が必要だったんだ。このままいったら実りのないまま二人の関係が冷えてしまうところだった。


「つるぎは何かやりたいこととかないの?」


「やりたいことか……そういえばここに来てから一度も城の方に足を向けたことがなかったな。確か一般でも入れる庭のようなものがあったはずだから、そこに行ってみるのはどうだろうか」


「いいね。城か……確かに言われてみれば行ったことないね」


「では決まりだな。だが、その前に」


「その前に?」


「バッツィーノ食堂で何か食べてから行こう」


「オッケー」


僕たちはたぶんこの世界に来てから初めてといっても過言ではないくらいの休みらしい休みを意識しながら過ごすことになった。




「公園はルナグシ地区だからこのまま西に真っすぐだな」


「バッツィーノ食堂」でご飯を食べた後、僕たちはつるぎの提案で城近くの公園に向かうことにした。店員の話によると、公園には様々な種類の花が存在しており、季節ごとに違った表情を見せてくれるらしい。今の時期だと紫や青を基調とした花々が綺麗に咲き誇っているのだそうだ。僕たちがその公園に向かっていると、どこからか大きな声が聞こえてきた。


「お~い、火事だ~!」


僕たちはその声を聞いて思わず周囲を確認する。しかし、火事になっているようなところは見えなかった。


「なんだろう?」


「さあな。火事はここではないのではないか?今火事だと言っていた人が南から来ていたから、たぶんここより南の方であったんじゃないか」


つるぎがそう言うので、僕は南の方に目を向ける。すると、遠くの方から黒っぽい煙が立ち込めているのが確認できた。


「あ、本当だ!黒い煙がこっから見えるよ」


「本当に南からだな……そういえば私たちの宿の方向からだな」


「そうだね」


「……まさかそんなことはないとは思うが、一応確認してみるか?」


つるぎが少し心配そうな顔をしながら僕にそう言ってくる。


「まさか……まさかねえ……?」


僕も口ではそんなことを言いつつ、やはり少し心配になってきたので、いつの間にか足が火事現場のあるだろうと思われる方へと進んでいく。つるぎも僕に並んで少し小走りをした。

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