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第七十四話 ロボット・ハル

あれから一週間近くが経過した。僕たちは相変わらずリグディルーベ内で神聖ミギヒナタ国の人間を探し回っていたが、一向に見つけることが出来ないでいた。また、つるぎは冒険者ウーノンで、僕は帝国魔法協会で新しい情報を手に入れようとしたが、どの人間も最近パッタリと神聖ミギヒナタ国の人間を目撃しなくなったということを言っていた。


「見つからんな」


「バッツィーノ食堂」で肉にかぶりつきながらつるぎが言う。


「そうだね。なんか急に見なくなったって言ってる人が多いけど、どっか別の場所に移動しちゃったのかな」


「だが、異生物の気配は消えていないという話なんだろう?」


「うん。でも、その気配と神聖ミギヒナタ国の関係性があるかどうかはわかんなくない?」


「確かにそれはそうだ。しかし、なんだか関係ありそうなにおいがするのだ」


「におい?」


「うむ。においだ」


「ふーん」


言って僕も肉にかぶりつく。最近はここでずっと食事をしているが、すごくおいしいので毎日来ても飽きない。ただ、ここに来るとウエイトレスの前掛けがラーメン屋のようなデザインになっているので、どうしてもラーメンを食べたい欲が膨れ上がってしまうのが玉に瑕だ。


「まだ探してないところはどこだっけ?」


「北部の方だな。サルビア地区あたりの方は確かまだ行っていなかっただろう」


「ああ、そっか」


ワルフラカ帝国の帝都であるリグディルーベは他の街よりも数倍広く人口も多いので、行政的な面で統治するのが大変なのか五つの区に分かれている。まずはワルフラカ帝国の皇帝が住むサンクトゥス城や冒険者ウーノンの本部があるイーリス中央区。その東側は樹齢六百年の木をそのまま使用している帝国魔法協会本部があるネプルス地区。南には僕たちが今泊まっている宿やリグディルーベ以南からの人間を一度検査する南検問所、様々な店などがあるタンゼマ地区。皇帝の庭や宝物庫などがある西のルナグシ地区。そして、僕たちがまだ一度も足を運んでいない北側のサルビア地区がある。サルビア地区以外は一応目撃情報をもとに探してみたのだが、収穫はなかった。サルビア地区では見つかると良いのだが……


「さて、では行くか」


「ほいよ」


僕たちは「バッツィーノ食堂」を出て、北側にあるサルビア地区を目指した。



「ここは何だか少し寒々しい感じがするな」


「うん。まあ、南側とはちょっと雰囲気が違うね」


サルビア地区に入るなりつるぎが地元の人が聞いたら怒りそうなことを言う。しかし、ほかの地区とは違って少し冷たい空気が流れ込んできているような気がするのは気のせいではないはずだ。外を歩いている人の数も少ないし、ここが本当に帝都の一部なのかと思うほどである。


「ここまで人通りが少ないと、神聖ミギヒナタ国の人間の目撃情報はおろか、神聖ミギヒナタの人間そのものがいなそうな雰囲気をビシビシと感じるな」


「……まあ、とりあえず探そうよ」


「うむ……」


何だか最初から希望が見えない中、僕たちは重い足を引きずりながら神聖ミギヒナタの人間を探し始めた。



僕たちが街中を歩きながら探していると、何処からか不思議な音楽のようなものが聞こえてきた。その音はどこか懐かしい、電子的なメロディだった。その音がする方へ近づいていくと、そこには二足歩行型で顔が四角のロボットが片言で喋りながら何か物を売っていた。


「サアサアヨッテラッシャイミテラッシャイ!レーレンコウコクデイマオオハヤリノシナモノダヨ!」


僕たちは二人顔を見合わせた後、そのロボットの元へと全速力で駆け寄った。


「うおおおおおお!ロボットだロボットだロボットだ!」


「見ろ、海斗!大容量ポータブル電源があるぞ!懐かしいな!」


「あ、本当だ!これに電源ケーブルをつないで、このラジカセ的な奴で音楽を流してるわけか!電気じゃん!」


「チョットチョットチョット!ナニナニナニ!?イキナリイロンナモノサワンナイデヨ!ショウバイドウグナンダカラサ!?」


僕たちが本当に久しぶりに見る、いわゆる文明の利器というやつにテンションを上げていると、ロボットが僕たちに向かって怒鳴ってくる。


「すごい!どうやって動いてるんだろう?自立型なのかな?」


「さすがにそれはないだろう。誰かが遠くで操作してるんじゃないか?」


僕たちは今度はそのロボットを撫でまわす。


「サワルナッテノ!オレハレッキトシタセントウヨウオートマタノイチインダゾ!」


ロボットはそう言って僕たちに威嚇してくる。手にはいつのまにか黒光りしたものが握られている。


「イイカ!?コレヲハッシャシタラオマエラモノスゴクイタイゾ!?」


「うわ、拳銃じゃん!」


「なぜこんなところに拳銃が?」


「オイ!キイテンノカ!?」


「聞いてるけど……」


「なぜ拳銃なぞ持っているのだ?」


つるぎはあっという間にロボットの手から拳銃を奪うとロボットに向かってそう尋ねる。


「ア、オマエ!カエセヨ!」


ぴょこぴょこと跳ねながらつるぎの手から拳銃を取り返そうとするロボット。その姿が何とも愛くるしくてカワイイ。ヤバい。


「返すのは良いが、お前はいったい何なんだ?」


「ソンナノコッチノセリフダヨ!イキナリコッチニキタカトオモエバシナモノトカデンゲントカサワッテキテナツカシイダノナンダノサワイデジュウデオドシタラギャクニピンチダシ……ナンナンダヨ!」


顔部分に存在している画面に映し出された表情が悲しみを表す表情へと変わり、画面上で涙を流すロボット。それを見て僕たちは慌ててフォローに入る。


「いやいやいや、そんな怒るなって」


「私たちが悪かった。な?」


そうしてしばらく宥めると、気分が落ち着いてきたのか表情が通常の顔に戻っていく。そして、


「オマエタチハナニモノダ……?」


と小さく尋ねてくる。


「私たちはつるぎと海斗。ワルフラカ帝国の最高位冒険者だ。ある目的のために神聖ミギヒナタの人間を探していたところでお前を見つけたわけだ」


「コノクニノサイコウイボウケンシャ?ノワリニハオレヤオレノモッテキタモノニヤケニキョウミヲシメシテイタキガスルケド……?」


「いや、それは……」


慌てて言葉を濁すつるぎ。この世界の人間ではないということは、なるべく隠しておこうというのが僕たちの間での決まりだった。なぜならそれによって生じる面倒ごとに巻き込まれたくないからだ。


「ナンダ?カクシゴトデモアルノカ?コレダケオレノコトヲイジクリタオシテオイテセイイノアルタイオウヲミセナイツモリカ?」


「そうではないが……」


つるぎは困ったように僕を見る。僕は


「まあ、良いんじゃない?言っても」


とつるぎに言った。すると、つるぎはそのロボットに、自分たちがこの世界の人間ではないことや元の世界に帰るために神を殺さなくてはいけないこと、そのために神聖ミギヒナタの人間を探していること、僕たちがいた世界に今ロボットが持っているようなものがあったということを伝えた。


「オマエタチイセカイジンナノカ!シカモモトイタセカイニハオレノクニトオナジクライノカガクギジュツガアルダッテ!?」


先ほどとは打って変わって今度は興奮したような雰囲気で話し始めるそのロボット。


「そうだ。しかし、今度はこっちが尋ねる番だ。お前の名前は何だ?そしてどこから来たのだ?ワルフラカには科学のかの字もなかったと思ったが……」


「アア、オレノナマエハハル!」


「「ハル!?」」


つるぎと僕が同時に叫ぶ。


「……ナンダ?ナニカオカシイカ?」


「いや、全然」


「むしろ素敵な名前だ。ハルなんだな……」


僕たちはうんうんと深く頷く。やっぱりハルなんだな……


「オカシナヤツラダナ……デ、ドコカラキタノカッテコトダガオレはカガクノクニ・レーレンコウコクカラキタセントウヨウオートマタダ!」


「なるほど。レーレン公国か。名前は聞いていたが、まさか科学の発展した国だとは思わなかったな」


「うん、僕も。ワルフラカと同じ魔法の発展した国かと思ってたよ」


「チッチッチ!チガウチガウ。レーレンコウコクハホカノクニニマケナイタメニカガクギジュツヲアエテハッテンサセテイッタンダ!」


「というと?」


「ツマリダナ……」


こうして僕たちは神聖ミギヒナタ国の人間を探すことなんかそっちのけでハルといつまでも話をしたのであった。

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