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第七話 信玄餅もどき出現

「なんだ?こいつ……」


「信玄餅みたいだな」


つるぎも、いきなり現れたそれに、僕と同じような感想を述べる。両手で掬えるほどの大きさだが。ただの信玄餅にしか見えない。しかし、本当に信玄餅だとすると動いているのはおかしい。僕の知っている世界の信玄餅はそもそもこんなに大きくないし、動きもしない。僕とつるぎが相変わらず固まったままでいると、信玄餅もどきがサッとこちらに距離を詰めてきた。そして、僕の足めがけて飛んできた。


「うわわっ!」


僕は思わずのけぞる。しかし、信玄餅もどきをよけることはできず、そいつは僕の足に付着した。


「おい、くっついたぞ!?」


「だ、大丈夫だ。落ち着け海斗。そのまま足を振ってそれを払い落とすんだ」


「う、うん」


僕はつるぎに言われた通り、サッカーボールをける要領で足を振る。しかい、一向に離れる気配がない。しばらく足を降っていると、太ももにひりひりとした感触がした。足を見てみると、ズボンに虫に食われたような穴が開いていることがわかった。


「おい、ズボンに穴が開いてるぞ?」


「え、嘘?このズボンに穴なんて開いてなかったけど」


「では、この信玄餅もどきのせいではないか?この信玄餅もどきが穴を開けたのだとすれば、説明がつく」


「でもどうやって?」


「……皮膚がひりひりするのだろう?だったら、何かものを溶かすような液体を、この信玄餅もどきが出しているのではないか?」


「嘘だろおい、そしたら僕このまま溶かされるのか?」


そんなことは絶対にゴメンなので、僕はさらに強く足を振る。そろそろ疲れてきたが、溶かされたくないので必死に頑張る。しかし、相変わらず離れそうな気配はない。


「海斗、いったん足を止めてくれないか?」


「ええ?なんで?そんなことしたらこいつを剥がせないだろ」


「今の今までで剥がせなかったなら、もう剥がすことは無理だろう。それなら別の手段を考えなければ……」


僕は、とりあえず剣の意見に従っておくことにした。いい加減足を振るのにもつかれたし。つるぎは僕の足に引っ付いている信玄餅もどきをまじまじと観察している。僕の感じる足のひりひり感が、ひりひりからピリピリに、そしてピリピリからピリピリピリピリになったころ、つるぎは口を開いた。


「あった、たぶんここがこの信玄餅もどきの核となる部分だ」


「え、どこ?」


「ほら、ここだ」


つるぎが指さした部分を見てみると、確かに少しだけごちゃごちゃっとした白い物体が浮かんでいるのがわかる。


「あ、本当だ……でも、これを発見したからって、どうするんだ?」


「たぶん、ここの部分が信玄餅もどきを信玄餅もどきとして動かしている部分なんだろう。つまりは脳ミソだな。ここを潰せばどうにかなるんじゃないか?」


「え?!潰すの?脳ミソを?」


「そうだ。でないと君はこのままこいつに溶かされておしまいだぞ?」


「いや、それも嫌だけど……脳ミソって言われちゃうと、なんかちょっと……」


「別に夏場の蚊と変わらないぞ。君だって腕に蚊が止まった時は潰すだろう?」


「まあそれは……」


「だったらこれも潰せるはずだ。いや、むしろ蚊よりも潰すべきだ。なんたってこの状況は君の命がかかわるんだからな」


「うーん……」


つるぎに説得される僕。しかし、なんだかんだ言って踏ん切りがつかない。だって、蚊より大きんだもん、この信玄餅もどき……蚊くらいの大きさならまだ何となく罪悪感が薄れるけど、こんだけ大きいとちょっとねぇ……


「ほら、はやく」


つるぎがさらにせかしてくる。確かに、このままいても仕方がないので、僕も覚悟を決める。


「手、突っ込んでも大丈夫かな?」


「君の足がひりひりする位なら手もひりひりする位なんじゃないか?」


「……そうだね」


そして僕は思いっきり信玄餅もどきの内に手を突っ込んだ。


「うわ~、なんかドロッとしてる……」


「よしよし、そのまままっすぐ手を進めるんだ」


「うん……あ、なんか、ここだけ質感が違う……なんかゴムボールみたいな弾力だな……これがさっき見た核の部分か?」


「そうだそうだ。ちょうどその部分だぞ」


「潰せるかな?これ」


「ダメだったら、そこの部分を引きずり出すっていうのでも良いぞ」


「え、いまさらそんなこと言うの?こっちは覚悟決めてんのに?」


「いや、だって潰せなそうって君が言うから……」


「大丈夫だよ、たぶん。潰すよ」


「そうか」


僕は、信玄餅もどきの核を手に取る。なんだかゴムボールのような弾力がある。手に力を入れていくと、その核が圧力によって広がっていくのがわかる。そしてついに、パチャッという音とともに手の中の弾力が消えていく。そして、僕の足に引っ付いていた信玄餅もどきも、ダラダラと崩れていった。


「……やったのか?」


「どうやらそのようだな」


「はぁ~~~~~なんか一気に疲れが……」


「いやいや、お疲れ様だな、海斗」


「本当にな」


「それで、実は一つ気が付いたことがあるんだが……」


「うん?」


「私たちが信玄餅もどきと呼んでいたこいつ、私はどこかで見覚えがあるんだ」


「嘘だろ?僕はこんなもの見たことないぞ?」


「いや、よく思い出して欲しい。私たちが冒険を始めると、いつも最初に出会っていたはずだ」


「……え?嘘……もしかして」


「そう、信玄餅もどきと私たちが呼んでいたこれ、もしかしてスライムだったんじゃないのか?」

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