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第六十五話 再びの魔法協会

「こんにちは~……」


僕たちは三度目である、帝国魔法協会アニゴベ支部の扉を開いていた。いつもの通りの薄暗さを見て、僕は汎用系第一位魔法「明明光アノク」を発動。あたりが僕の右手から放たれる光によって急激に色を取り戻す。一番最初に来たときと同じく、多くの本が積まれてあり、見たことないような液体があったり、へんてこな生物の標本が所狭しと並べられてあった。僕たちは慣れたように中に入ると、アルモンドのいるであろう二階へと向かった。


「こんにちは」


僕は部屋の中にそう声をかけながら入る。中には、アルモンドの姿があったが、何か真剣な表情で机とにらめっこしている。アルモンドの向かいには、これまた同じように机をにらんでいるダンの姿があった。


「あ、あの……」


僕はためらいがちに二人に話しかけようとする。すると、いつのまに、どこから現れたのかフーリアが


「シーッ!」


と人差し指を口に持っていきながら言う。


「え?」


僕がフーリアに尋ねると、彼女は小声で答えてくれる。


「今、お師匠様とダンは真剣勝負の真っ最中なのよ!あんまり集中の乱れるようなこと、しないでよね!」


怒られてしまった。僕は二人の間にある机を見る。すると、そこには木の板と何か駒のようなものが乗っていた。そのコマの色は赤と青。木の板の方をよく見てみると、どこかで見覚えのあるようなものが描かれていた。僕はさらにフーリアに尋ねる。


「ねえ、あれ何なの?」


「あれは、ミデルーンっていう盤上戦略遊戯よ」


「へぇー」


僕はもう一度、まじまじと二人の真ん中にある板を見る。なんだっけなぁ、この板に書かれているやつ……僕がそう思っていると、つるぎが口を開いた。


「なるほど。あの板に書かれているのはアニゴベか」


「あ、そっか!」


「シーッ!」


「あ、ああ……ごめんごめん……」


僕がつるぎの言葉に思わず反応すると、フーリアがまたしても僕に注意してくる。そんな僕たちにまるで気が付いていないかのように、二人はもくもくと盤上の駒を動かしている。どうやら勝負は佳境に入っているようだ。アルモンドの赤いコマがどんどんアニゴベの北側の街を侵略していく。対してダンの青いコマは、アルモンドの進行を止めるだけで精いっぱいのように見える。しかし、しばらくすると、ダンが自陣の青いコマを前に進め始めた。しかし、相変わらずアルモンドの駒はアニゴベ北側を侵略していっている。ダンはこのまま自分緒コマを前進させておいて大丈夫なんだろうか。まあ、どうなったら負けとか知らないからこの状況が果たしてどういう戦況を示しているのかわからないんだけれど。


「……よし、俺の勝ちです、師匠!降伏してください!」


ほどなくして、ダンの口からそんな言葉がこぼれた。


「あららら、また負けてしまいましたか……」


「やったじゃない、ダン!」


フーリアがダンに話しかける。あ、もう終わったんだ。いったい何を持って勝負がつくのかさっぱりわからなかった。僕がふとつるぎの顔を見ると、つるぎはなるほどといった様子で頷いている。え、嘘?もしかして、もうこのゲームを理解したのか。置いて行かれた感を全身に浴びつつ、僕はアルモンドに話しかける。


「あの、どうも」


「ああ、カイトさん。それにつるぎさんまで。どうしたんですか?……まだ、スルダ君のことで何か?たしか彼は今市役所のどこかにいるとい風な話を聞いたんですけど……」


「あ、いえ。今回はスルダのことではなくて、別のことを伺いに来たんです」


「別のこと?」


アルモンドはそう言いながら、目を輝かせた。少し間をとった後、アルモンドが言う。


「……それは昨日お二人が倒したという黒竜のことでしょうか?」


「あ、違います」


「え、違うんですか?」


僕が速攻で否定するとアルモンドは驚いたような表情で言う。


「え?あんたたちが昨日の黒竜を倒した二人組!?」


「え?お前らってそんなに強かったのか!?」



竜を倒したと聞いて、ダンとフーリアも話に割り込んでくる。


「まあ、僕たちが倒したけど……なんで?」


僕は二人に尋ねる。


「なんでって、アンタ、竜を倒したんでしょう!?すごいじゃないのよ」


「でも、ここに来る前にも一体倒してるし」


「ええ!?今回で二体目!?」


「うん。っていうか、僕たちが最高位冒険者の証をもらったのも、いったい目の竜を倒した功績が認められたからなんだ」


「へー……アンタたち、見かけによらずにすごいのね」


「うんうん」


「見かけによらずって、そんなに強そうには見えない?僕たち」


「うん」


「うんって……」


「それでカイトさん。お話とは?」


アルモンドがそれていた話を元に戻してくれる。


「ああ、えっと、なんて言ったらいいか……」


僕はつるぎに助け船を求めた。つるぎは呆れたような顔で、僕の言葉を引きつぐ。


「神について知っていることを話してほしい」


「神、ですか」


「うむ。私たちは、ある目的があってこの世界を冒険している。その目的を果たすためには神に合わなければならないのだが、そう言った類の話を何か知らないだろうか」


「……なるほど。そう言う話ですか」


アルモンドはつるぎの話を聞くと、席を立ち辺りをうろうろし始めた。


「まあ、知っていることはいくつかありますけど……でも、一つ条件があります」


「条件?」


あ、なんだか嫌な予感がする。


「ええ。それは、カイトさんと一対一の勝負をしていただきたいのです!」


ああ、やっぱり。アルモンドは僕が予想していた通りの言葉を放った。


「ああ、それなら構わない。なあ、海斗」


つるぎは僕の背中をバシバシと叩きながら僕に聞いてくる。


「う、うん。まあ、良いけどさ」


「では、カイトさんが勝ったら、私が知っていることをお話ししましょう」


「もし僕が負けたら?」


「そうですねぇ……では、私の仕事の手伝いでもしていただきましょうか」


「……わかりました。良いですよ」


「では、さっそく」


僕たちは三階の大きな広間に向かった。

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