第六十三話 スルダ確保
僕たちは竜を倒した後、辺りの状況を確認した。街中で竜と戦うなんてことはおろか、街中で何かと戦うこと自体が初めてだった僕たちは、ついいつもの感じで、つまり、ガルティアーゾのはずれにあった洞窟でエーメスを相手にするような感じで周りのことを何も考えずに魔法を放ったり剣を振るったりしていた。なので、僕たちのせいでどこか街に被害が出ていないかというのを確認することは重要だった。見つかった時の言い訳を考えておかないといけないし……幸いなことに、僕たちが戦った場所は図書館が真ん中に大きく建っている広場のようなところだったので、建物が壊れたなどというような被害は見受けられなかった。唯一被害を受けているのは図書館だったが、大きな被害はなさそうだし、これらは僕らが壊したのではなく黒竜がやったことなので、僕とつるぎは大丈夫だろうという結論を出した。僕たちが黒竜を倒した直後、多くの冒険者を引き連れてダカリットがやってきた。
「ああ!カイトさん!つるぎさん!」
僕たちの姿を見つけると、ダカリットは駆け足でこちらにやってきた。
「ああ、ダカリットさん」
「黒竜は……?あ!」
ダカリットは僕たちの奥にある、杭を打たれた竜の姿を見ると驚いたような声を出した。
「あ、あれは……?」
「あれがたぶん例の黒竜だと思います。ちゃんと首を刎ねているんで、もう動かないと思いますよ」
「そ、そうですか……おい、こっちだ!処理班は竜の亡骸を運んでくれ!他の者は街の被害がどのくらいあるか確認して書き留めておいてくれ!後で使うから!」
ダカリットは僕の言葉を聞くと、後ろで控えていた冒険者たちに号令をかける。討伐課の部長なのに、現場での指揮をしないといけないとか大変だな、とダカリットの姿を見ながら僕は思った。
「あ、カイトさん!後でで構わないので報告をお願いできますか?」
「あ、はい。わかりました」
僕がそう言うと、ダカリットは一つ頷いて、黒竜の方へと走っていった。
「大変そうだね、つる……あれ?」
僕はつるぎの話しかけようと、後ろを振り向いた。しかし、そこにさっきまであったつるぎの姿は見当たらない。
「あら。どこ行ったんだろう」
僕はにわかに騒がしくなった現場を少し離れて、つるぎを探す。
「つるぎ~?」
僕は叫びながら辺りを見回す。すると、
「こっちだ!」
というつるぎの声が聞こえた。声のした方向に向かってみると、そこではつるぎが何者かと戦っていた。
「お、おい!つるぎ!?」
相手をよく見ると、左腕に怪我をしているのがわかる。
「あ、スルダ!」
僕が名前を呼んだからか、つるぎと戦っている相手の顔が一瞬こちらを向く。その瞬間、相手のあごに右アッパーを喰らわせるつるぎ。いきなりの衝撃に驚いたような顔をしながら吹き飛ぶスルダ。その吹き飛んだ身体めがけて渾身の右ストレートをつるぎが放つ。「ぐえぇっ」という声を漏らしながら、上に飛んでいたスルダはそのまま横に吹っ飛ばされる。着地できないまま思い切り背中で地面を受け、倒れているスルダにつるぎはマウンティングする。
「なぜ逃げようとするのだ」
「ふ……ざっけんな!離せ……!えっほっえほ……」
つるぎはスルダの身体を回転させうつぶせの状態にさせると、スルダの両腕を背中の方に回し、動けないようにした。スルダは何とか抵抗しようともがいているが、身動き一つとれていない。それどころか、先ほど殴られた衝撃でまだ嘔吐いている。
「海斗、ヒモだ」
つるぎは僕に向かって言う。
「え、持ってないよ」
「何!?じゃあ、なんか縛ることが出来そうなやつは?」
「持って……ないけど、でも、縛るんだったら出来るかも」
「本当か?」
「うん。こっちにスルダの腕を出して」
僕がつるぎにそう言うと、つるぎはスルダの両手首をつかんで僕の方に差しだす。僕はスルダの手首にひもが巻き付く様子をイメージして、汎用系第二位魔法「鋼蜘糸蛛」を発動させた。スルダの手首に細い金属の糸がまきつけられる。
「これで良いかな」
「ああ、上出来だ」
僕がつるぎに確認すると、つるぎはそう言った。
「さてと……」
僕とつるぎは後ろ手で縛られたままうつぶせに転がされているスルダの目の前に行くと、つるぎが口を開く。
「君がスルダだな?いろいろと聞きたいことがあるのだが……まずは、今なぜ逃げようとした?」
「……」
「だんまりか。まあ、良い。次の質問だ。君はなぜあの黒竜に狙われていた?」
「……」
「これもだんまりか。次、ここ最近起こっていた闇系魔法の毒による畑荒らしと大通りの道を一時使えなくしたのは君だな?」
「……」
「何も言わない、か……まあ、私たちの仕事は君を討伐課に突き出すことで完了する。さ、行くぞ」
「や、やめろよ!触んな!」
つるぎがスルダの縛られた両腕を引っ張り上げ、無理やり立たせる。
「ほら、行くぞ」
つるぎは後ろからぐいぐいと押してスルダを歩かせると、ダカリットがいるところまで連れて行く。
「ダカリット!」
つるぎが叫ぶと、ダカリットはこちらに反応する。
「ああ、つるぎさん……この少年は?」
「これが件の少年だ。ここで黒竜に襲われていたのもこの少年だ。私たちに依頼された件と黒竜の件は関連があるかもしれない。ということでそちらにこの少年を引き渡しても良いか?」
「そ、そういうことでしたら……おーい、誰か!あ、そこの君!この子を市役所まで運んでくれ!」
「やめ、やめろよ!何すんだ……おい!」
連れていかれるスルダに向かって手を振りながらつるぎは見送る。姿が見えなくなると、つるぎは僕の方を向いて口を開く。
「さて。依頼も終わったし、黒竜も倒した。私たちは今日、朝から働きすぎた。帰るぞ」
「え、良いの?何があったか報告してくれってさっきダカリットさんに言われたんだけど……」
「明日でよくないか?私はもう疲れたよ、海斗……そうだ!おんぶしてくれ!」
「え、嫌だよ」
「良いじゃないか!けち!」
「ケチってなんだよ、ケチって……」
「もう勝手に乗っちゃうもんね」
「おふっ!?」
そう言うと、つるぎが僕の背中に飛び乗ってくる。
「あの、あんまり首絞めないでくんない?」
「だったらちゃんとおぶってくれ。バランスが……」
「わかったわかった」
僕は結局宿までつるぎをおぶる羽目になった。




