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第六十一話 スルダは何処

「さあて。行くか」


僕たちはつるぎの提案によって朝食を食べ、調査を再開することにした。


「行くかっつっても、どこをどう探せばスルダという少年の元にたどり着けるんだろう……なんか考えとかあるの?」


「とりあえず、その少年の住んでいる場所を尋ねればよいと思うのだが……」


「でも、どこに住んでるとか知らなくない?」


「うむ。だから、また帝国魔法協会に行こうと思っている」


「ふーん。じゃあ、とりあえず行こうか」


こうして、僕たちは再び帝国魔法協会に出向くことになった。


「ごめんくださーい」


僕たちはいつぞやの時と同じように、またしても上から火の玉が降ってこないかということを警戒しつつ、恐る恐る扉を開ける。中は相変わらず薄暗く、壁に掛けられてある蝋燭のわずかな明かりが、この世界の光のすべてだった。その光をずっと浴びていると、なんだか不思議な気分になってくる。まるで、世界の始まりに立ち会っているような感覚になる。


「世界の始まりに立ち会っているような気分になるでしょう?」


僕がボーとしていると、そんな声が上から聞こえてくる。上を見ると、そこには薄ぐら闇の中からこちらに向かって顔を出しているアルモンドの姿があった。


「ああ、どうも……」


僕があいさつすると、アルモンドは笑顔でこちらに向かってくる。そして、彼が一階にたどり着くと、おもむろに指を鳴らした。すると、先ほどまで暗かった空間が一瞬にして明るくなる。


「ずいぶんと炎に魅入られていましたね、カイトさん」


「あ、ええ、まあ」


「つるぎさんはそうでもなかった様子ですけど」


アルモンドはつるぎを見ながら言う。


「私は火については危機感を忘れないように接しているからな。炎は私たちに時に優しいが、同時に優しくない」


つるぎは何でもないようにそう言った。そうだったんだ。つるぎがそんなことを考えていたなんて聞いたことなかった。


「なるほど、そうでしたか」


アルモンドは相変わらずの笑顔でそう言うと、僕たちに向き直って尋ねてくる。


「今日はどうされましたか?まさか、カイトさん。僕と戦っていただけるのですか!?」


「いや、そう言うわけではなくてですね…・…」


僕は早めにアルモンドの言葉を否定しておく。なんだかなし崩し的に戦うこと事体は決定されているような気がするんだけど気のせいだろうか。


「スルダ、という少年。昨日あなたに教えてもらった少年が、いったいどこに住んでいるのかを尋ねに来た」


つるぎがアルモンドの質問に答える。アルモンドはなるほどといったような表情で頷くと口を開いた。


「スルダ君のことでしたか……お答えしますよ。さあ、ここじゃあなんですから、上に上がってください」


「あ、すいません。お邪魔します」


僕とつるぎは案内に従って上の階に上がる。二階の大きな部屋に通された僕たちは、そこにある椅子を勧められる。素直に僕たちは椅子に座ると、アルモンドが話し始めるのを待った。アルモンドは本棚の方でしばらく何か探している様子だったが、やがて


「おーい、フーリア君!」


と叫んだ。しばらくして、ドタドタという足音をさせながら、昨日見た女の子が部屋に入ってきた。


「及びですか師匠!……あ!昨日の!」


「やあ」


「あ!アンタたち、何しに来たのよ!」


女の子は僕たちの姿を発見すると、ものすごい剣幕でこちらに寄ってくる。しかし、


「フーリア君、ちょっと」


というアルモンドの声で、師匠であるアルモンドに呼ばれていたことを思い出したのか、元気に返事をしながらアルモンドの方へ寄っていく。


「どうしたんですか?師匠?」


「いやあ、アニゴベの地図がどこだったか、フーリア君知っていますか?」


「地図ですか?それなら本棚の横側にある箱に縦にして入れてあると思うんですけど……」


「本棚の横……ああ、これですね!あったあった」


アルモンドは嬉しそうに言いながら、アニゴベの地図らしきものを本棚の横から取り出す。そして、それをもってこちらにやってきた。


「いやあ、すいません。地図がどこにあるかわからなくって……でも、ありましたから大丈夫ですよ」


アルモンドはそう言いながら、僕たちの目の前にある机の上に地図を広げていく。


「えーっと、スルダ君がどこに住んでいるかですよね……たしか彼は、アニゴベの西側の方に住んでいたと思いますけど…・…」


アルモンドは地図の西側を指でたどりながら、スルダの住んでいる地域を探していく。


「……あ、あったあった。たしか、ここの地域にスルダ君は住んでいたと思います」


アルモンドが指さしたのは、アニゴベの西の方だった。近くには図書館の文字がある。


「図書館の近くなんですか」


「ええ、よくスルダ君は本を読んでいたと記憶しています。いたずら好きな彼ですが、実は勉強熱心なんですよ。魔法の勉強も良くしていましたし」


アルモンドは僕の質問にそう答える。


「もっと詳しい場所はわからないのか?」


つるぎはアルモンドにそう言う。


「ええ。申し訳ない。誰がどこに住んでいるのか、興味なかったもので……」


「いえ、別にいいんですよ。ここまでわかっただけでもだいぶ居場所を絞れるんですから」


僕はとっさにフォローに回る。


「それもそうだな。どうもありがとう。では、行くぞ」


つるぎはそう言うと、椅子から立ち上がった。僕もあわててつるぎについていく。


「あ、ありがとうございました」


「いえいえ、調査に役立ったならよかったです」


アルモンドがそう言う隣で、すでに彼らに背を向けていたつるぎの背中に向けてあかんべえをしているフーリアの顔があった。そんな気配を察したのか、つるぎがいきなりこちらに振り向く。急いで舌をしまうフーリア。


「早く行くぞ、海斗」


「あ、うん」


僕はもう一度アルモンドたちにお辞儀をした後、つるぎについていった。


「西の方にある図書館の近くか」


塔を出た後、つるぎは確認するかのようにそう呟く。


「うん。でも、それしかわかってないってことでもあるよね。それ以降はどうやって探す?」


「まあ、地道に聞きこんでいくしかないだろう。彼はいたずら好きということだから、近所でも有名なのではないかと思う」


「ああ、確かに」


「だから、きっと彼がどこに住んでいるのかということを知っている人間もいると思うのだ」


「そうだね……じゃあ、さっそく図書館の方に行こうか」


「うむ」


こうして僕たちはスルダの姿に一歩近づいた。

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