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第六十話 黒竜による被害

翌日、僕たちは宿の人が扉をたたく音によって目が覚めた。


「お客様!お客様!」


「は、はい……どうしました?」


寝ぼけ眼をこすりながら僕が扉を開くと、宿の人がこう言った。


「市役所からの連絡で、至急討伐課まで来てほしいとのことです」


「え!?」


僕はつるぎを起こして支度をすると、つるぎと一緒にすぐに市役所に向かった。


「どうしたんです!?」


受付の方まで出ていたダカリットの姿を見つけて、僕たちは声をかけながらそちらに向かう。


「ああ、つるぎさん、カイトさん。朝早くからご足労願ってしまい申し訳ない」


「いえ、それは良いんですけど、急に呼び出すなんていったい何事ですか?」


「実は、またしても被害が出たのです。それも、今度は今までの被害の比ではないくらいの被害が」


「えっ!?」


僕とつるぎは顔を見合わせる。今までの被害の比ではないくらいの大惨事とはいったいどのくらいのものなのだろうか?何かいやの予感をそこはかとなく感じる。


「とりあえず、見ていただいた方が早いと思いますので、被害のあった場所にご案内いたします」


「あ、はい。よろしくお願いします」


ダカリットは僕たちを引き連れて新しく被害のあった場所に連れて行ってくれた。市役所を出て、アニゴベの南側の方へずっと行ったところに、小さな森のようなものがあった。


「ここが、今回被害にあった場所です」


「ここが……」


僕たちは辺りを見回す。しかし、この前のように何か被害にあったような形跡は見当たらなかった。


「ここの、どこら辺が被害にあったんです?」


僕は思わずダカリットに尋ねる。ダカリットはすぐに答えてくれた。


「この森ですよ」


ダカリットは、小さな森林を指さす。


「ここの森の三分の二が消滅させられているのです」


「え!?森の、三分の二が消えたってことですか?」


「ええ」


ダカリットは冷静に小さくうなずく。


「ということは、今見えてる森の……」


「倍以上の広さの森が存在していたということだな」


僕の言葉をつるぎが引き継ぐ形で言う。


「とりあえず中を見せてもらえないか?」


つるぎはダカリットに向かってそう尋ねる。


「ええ、こちらへどうぞ」


ダカリットは僕たちを被害の合った森の中に案内してくれた。遠目から見ると単なる平地だと思っていたその場所も、近くで見てみると、木の根っこや朽ち果てている幹などがあちこちに散らばっているのがわかった。


「ここ、空き地じゃなくて元々は森だったんだな」


「ええ、昨日の夜までは森でした」


「昨日まで?ってことは、たった半日足らずで森の半分以上を消し去ったってことか……」


「見ろ、海斗!」


つるぎが僕を呼ぶ。僕はつるぎに近寄って、つるぎの示すものを見る。


「これ、強力な毒によってこの森が消された跡ではないか?」


つるぎがさしていたのは、不自然に溶けてしまっている木の枝だった。


「本当だ……溶けてる」


「こんなに強力な毒を、あのスルダという少年は使えるのだろうか?」


「いや、いくら彼が魔法に長けていても、森の三分の二を半日とかからないで消すのは無理があると思う」


「では、やはり……」


「うん。僕たちが対峙した竜と同じ、黒竜の仕業だと思う」


僕は、辺りを見回してみた。この辺りは前にあった森の端っこに当たるのだろう。ここら辺には、溶け残しとでもいうべき木の枝や幹が多く残っていた。


「ということは、ここのちょうど正反対の場所から、毒をこの森にぶちまけたってことかな」


僕とつるぎは、見事に更地になった土地を走って突っ切り、反対の場所まで急いだ。


「はぁ……結構遠いね」


「それだけここの森が広かったということだ」


つるぎは息一つ切らさないで、さっそく周辺を見ている。僕も息を整えて、さっそく何か痕跡のようなものがないか確認する。しばらくすると、つるぎの声がした。


「海斗!これ」


「なに?何か見つかった?」


僕がつるぎの近くによると、つるぎは地面を指さしていた。指の先には、少し太めの線が何本か地面にひかれている。その線はどれも太さが均一ではなく、うねうねとしていた。


「これって……」


「たぶん、竜のしっぽの先の跡だろうな。それぞれの線の太さが先に行くほど細くなっている」


僕たちはダカリットの元に戻ると、彼にこの事件は黒竜の仕業である可能性が高いということを伝えた。


「なん、と……それは、本当なんでしょうか?」


ダカリットは一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに言葉を紡ぎなおす。


「ええ。僕たちが昨日お話したスルダという少年には、ここまでのことはできないと思います。できていたら、今頃彼は最高位の冒険者になっていたでしょうし……しかも、しっぽの先のような跡が見つかっていますから」


「そうですか……それでは、この街のどこかに、まだ黒竜がいるということでしょうか?」


「たぶん」


「……」


僕がそう言うと、ダカリットは黙り込んでしまった。


「僕たちは、とりあえず黒竜の姿を探しつつ、スルダという少年の行方も同時に探すつもりです」


「……え、ええ。はい、よろしくお願いします」


少しテンポが遅れながらも、ダカリットはそう言った。僕たちはダカリットにその場を任せることに決め、謎の黒竜とスルダという少年を探すことにした。


「行くか、海斗」


「うん。とりあえずどこから探そうか」


「そうだな……」


つるぎは真剣な表情で少し黙り込んだのちに、こう言った。


「まずは、朝食だな。腹が減っては戦はできぬ」


「へ?」


「だから、まだ朝から何も食べていないだろう?おなかにモノを入れてから行動しようと言っているのだ」


「……そんな時間あるかなぁ……」


「そんな時間を作るんだよ。万が一空腹時に黒竜と戦う羽目にでもなったらどうする。最悪死ぬぞ。そうならないためにも、朝食が先だ」


「……はいはい。わかったよ。じゃあ、いったん宿に戻ろう」


「うむ」


つるぎの提案によって、僕たちは一度宿に戻り、調査を再開する前に腹ごしらえをすることにした。

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