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第五十七話 帝国魔法協会アニゴベ支部

僕たちは帝国魔法協会のある場所に向かった。そこは、いかにも魔術師の居そうな蔦の這う塔だった。何かあったら危ないので、一応魔術師である僕が先頭を切って中に入ろうとした。


「おじゃましま~す……」


恐る恐る扉を開く。中を覗くと、薄暗い空間がそこに広がっていた。壁には少ししかろうそくがかけられておらず、わざとこの暗さにしているようだった。


「すいませーん!誰もいませんかー?」


僕は再び中に声をかける。しかし、やはり返事はない。僕はつるぎの方に振り返る。つるぎは僕の目を見てうなづくと、愛刀・神切の柄に少しだけ手を触れさせる。僕は左手で汎用系第一位魔法「明明光アノク」を発動し、光源を確保する。そして、扉を大きく開けて中へと入る。所狭しと並んでいる本の塔。何かよくわからないような生物の標本。怪しい色合いをした液体の入った瓶。これらが視界に広がる。左側にはらせん階段の始まりがあった。僕たちが初めて見る光景に呆けていると、いきなり上から火の玉が降り注いできた。


「!?」


僕たちはそれらをとっさに避け、どこから攻撃されたのかを確認する。


「たぶん三階あたりだ!」


つるぎが叫ぶ。それと同時に僕は汎用系第三位魔法「斬矢凡ヴァーユ」を三重展開。敵の正確な位置がわからないので、とりあえず適当に三方向に向かって矢を放つ。手ごたえがないので、さらに連続して発動。つるぎはその間にらせん階段を上り始める。僕が矢を放つのを止めると、またしても火の玉が降ってくる。僕は階段の方に避難して、火の玉をやり過ごす。


「いたぞ!」


と言うつるぎの声がしたので、僕はそのまま急いで階段を駆け上がった。三階にたどり着くと、大きな広場があった。そこでつるぎが何者かと戦っている。僕が加勢しようと足を一歩踏み出すと、「斬矢凡ヴァーユ」の矢が足元に放たれる。僕がすんでのところでかわすと、


「お前の相手はこの俺だぜ」


という声と共に、左端から人影が現れる。僕はとっさに距離を取り、相手を確認する。見ると、相手は小学生くらいの男の子だった。僕があっけにとられていると、再び彼が「斬矢凡ヴァーユ」を放ってくる。何が起きているのかわからないまま、とりあえず僕は汎用系第三位魔法「緑壁籠諏プーシャン」を展開。僕の目の前で土の壁が出来上がり、矢を受け止める。さらに矢を打ち込んでくるが、壁がすべてそれを防ぐ。僕はそれを見ながら、どうするべきか考えていた。相手は確実に僕たちのことを殺すまではいかなくても倒そうとしてきている。しかし、相手は見たところまだ子供だ。僕が少しだけ本気を出したら殺してしまうかもしれない。


「あちちっ!」


そんなつるぎの声で思考が遮断され、現実に引き戻される。


「つるぎ、大丈夫か!?」


僕はつるぎに向かって聞く。


「えへへ、少しやけどしちゃった!」


つるぎはまるで料理ベタな女の子がフライパンのはねた油でやけどしたような口調で言う。この様子だと大丈夫そうだな。むしろ、少し遊んでいるくらいかもしれない。


「もー!何なのよこいつ!全然魔法が当たらないんですけど!?」


つるぎが相手をしている人間の声が聞こえる。この声色。どうやらつるぎが相手にしているのも子供の様だ。僕が少しよそ見をしていると、男の子が僕の顔めがけて「斬矢凡ヴァーユ」を放ってくる。僕はそれを楽々かわす。いい加減にこの状況を何とかしないといけないので、僕はつるぎに向かって叫ぶ。


「おーい、つるぎ!もう終わりにするよ!」


「何!もうか?」


「うん。もう」


「……わかった」


つるぎはそう言うと、連続で繰り出されていた火の玉を避けるのを止め、刀を引き抜く。そして、火の玉を切りつけ消していきながら、相手との距離を詰める。僕はそれを確認して、僕の相手である男の子に向き直る。すると、その男の子は何やら魔法を放つために集中していた。僕はそれを見て対魔法系第四魔法「真魔伊理イーリビーメ」の発動を準備する。男の子は、発動が出来るようになったのか、ニヤリと顔を歪ませ、叫ぶ。


「くらえ!『矢轟雨臨シールパ』!」


真魔伊理イーリビーメ


僕が彼の魔法発動と同時に「真魔伊理イーリビーメ」を発動すると、途中で彼の魔法が止まる。


「え!?」


自分の魔法が止まって驚いているところに僕は追い打ちをかけるように汎用系第四位魔法「断槍凡鋼カールラ」を放つ。全長1.7メートルの槍が僕の右手から出現。僕が手を振ると、空気を切り裂く音をさせながら、男の子に向かって槍が向かう。


「ひっ!」


とっさに目をつぶった彼のすぐ真横を、槍が高速で通過。後ろの壁に激突して、壁の一部を破壊する。


「はい。君の負けだよ」


僕はそう言いながら、男の子に近づき、目を瞑ったままの彼の肩をたたく。


「ぎゃあっ!」


彼は僕に肩をたたかれて驚いたように叫ぶと、恐る恐る目を開けて、自分の身体が何ともなっていないことを確かめる。僕はつるぎの方が気になってそちらの方に目をやる。すると、もうすでに終わっていたようで、倒れている女の子の横につるぎが立っていた。僕はつるぎに向かって目で大丈夫か聞いてみた。すると、どちらも大丈夫だという答えが返って来て、一安心した。たぶん、横で転がっている女の子は気絶しているだけなのだろう。僕は男の娘にこれ以上反抗されないために、言う。


「君、相手が僕で良かったね。ほら、君の仲間」


そう言って、視線を誘導させる。


「僕の仲間、手加減できないからさ。可哀そうに……」


僕がそう言うと、彼は転がっている女の子の元にかけ出そうとする。


「おっと、動かないで!」


僕は彼に向かって叫んだ。


「これ以上君に何かされたんじゃあ、僕だって手加減できない。そのまま動かないでじっとしていてくれないかな?」


僕の言葉に彼の動きが止まる。可哀そうだけど、こうするしかない。僕は持っていたロープで彼の身体を縛り上げ、身動きが出来ないようにした。そして、つるぎの元に駆け寄る。


「大丈夫なの?その子」


「安心しろ。みねうちだ」


「みねうちでも痛そうだけど」


「だから気絶しているんではないか」


「あ、痛みで気絶したの?」


「本当は首筋を打って楽に気絶させようと思ったのだが、少し外しちゃって……」


「可哀そう……」


「まあ、彼女たちが私たちをいきなり襲ったのが悪い」


「それはそうだけどさ……」


僕たちは言いながら、先ほどの男の子をここに連れてきて、座らせる。そして、尋ねた。


「いきなり襲ってきたのはなんで?」


しかし、彼は口を割らなかった。僕たちは顔を見合わせて肩をすくめる。


「じゃあ、もう一人の方から聞こうか」


「そうだな」


僕が治癒系第三位魔法「舞天癒輪舞サーンダルーフォーン」と治癒系第三位魔法「痛経鎮寓侃イェークン」を発動させようとすると、


「お、おい!生きてるのか!?」


と男の子が聞いてきた。


「生きてるよ」


僕はそう答えながら、治癒系魔法を発動していく。


「でも、さっき死んだって……」


「言ってないよ。僕が言ったのは、僕の仲間は手加減できないから可哀そうだって言っただけだ」


「何?そんなこと言ったのか?」


僕がそう答えると、つるぎが割って入ってきた。


「……」


「言ったのか?」


「……言ったよ」


瞬間、頭に鈍い痛み。つるぎが僕の頭をはたいてきた。


「ほらね。できないでしょ」


僕はそう言いながら、転がっている女の子をひもで縛り、少しだけ電流を流す。すると、


「うがっ!?」


という声とともに、女の子が跳ね起きた。女の子はきょろきょろとあたりを見渡し、男の子を見つけると、


「あんた、何つかまってんのよ!さっさと逃げるわよ……って、アタシもつかまってる!?」


と叫んだ。少し元気にさせすぎたかなぁと思いつつ、僕は彼女に向かって尋ねる。


「ねえ、どうしていきなり僕たちを襲ってきたの?」


彼女は僕の顔を見ると、ぷいとそっぽを向いたが、その視線の先につるぎを見つけると、慌てて口を開いた。


「それは、お師匠様に留守を頼まれたからよ!」


「お師匠様って?」


僕が尋ねると、


「私のことですよ」


という声が後ろから聞こえてきた。

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