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第五十五話 初めての依頼

「では、早速ですが、一つ依頼をさせてもらってもよろしいでしょうか?」


ダカリットは僕たちに冒険者ウーノンの証であるバッヂのようなものと書類を渡しながらしゃべる。


「なんですか?」


僕が尋ねると、ダカリットは口を開いた。


「先ほど黒竜の被害がこの街に出ていたという話をしましたが、もしかしたらその黒竜は一匹だけではなかったのかもしれないのです」


「というと?」


「ええ。つまり、まだ黒竜による被害が出ているということです」


「一回は被害が治まったんですよね?」


「その通りです。しかし、ここ最近になってからまた被害が出始めて……しかし、直接その黒竜を見たという人間は一人もいないのです」


「え?どういうことですか?」


「毒による作物の被害や主要な道路での毒沼の発生などが主な被害なのですが、その中に人間を襲ったというものがありませんで、誰がこんなことをしたのか不明なのです」


「なるほど……しかし、いつぞやの黒竜と同じような毒を使用しているから、もしかしたら竜である可能性も捨てきれないでいると……」


つるぎがそう言うと、ダカリットは


「その通りでございます」


と言った。


「竜である可能性が否定できない以上、第四位レベルまでの冒険者しかいないアニゴベではどうすることもできませんでした。ガルティアーゾに依頼するのもお金がかかりますし、予算は少ないですしで、どうすることもできなかったのです」


「そうなんですか」


僕はそう相槌を打ちながらつるぎの方を見る。つるぎと目が合う。


「なんだ?」


「いや、どうするって思って」


「どうするもこうするも依頼を受けないわけにはいかないだろう」


「あ、よかった。だよね」


僕はその言葉に安心する。もちろんつるぎが依頼を受けないなんてことはしないと思っていたが、はっきりと口に出してもらえると、なんだかほっとする。


「じゃあ、依頼はお受けします」


僕がダカリットにそう言うと、彼は嬉しそうな表情で


「よろしくお願いします。ではさっそく詳細の方を……」


と、この依頼の詳しい説明をし始めた。




僕たちが詳しい説明を受け終え、案内された部屋から出ると、一斉にこちらに視線が向けられる。そして、冒険者たちが驚いた表情をする。それもそのはずだ。だって、さっきまで何も持っていなかった見慣れない顔の二人が、部屋から出てきたら冒険者ウーノン最高位の証を持っているのだから。あちこちでどよめきが起きているが、僕たちは気にせずに市役所の外に出る。幸いなことに、よくアニメなんかであるような、オラついた人たちに絡まれると言ったようなことはなかった。


「……絡まれなかったな」


つるぎは少し残念そうに言う。


「良かったじゃないか、絡まれなくて。なんで心なしか少し残念そうなんだよ」


「だって、絡まれたら、罪悪感なく絡んできた連中をボコボコにして強さを他の連中に見せつけられるじゃあないか」


「物騒だな、おい」


時折つるぎは本当に物騒な考えをのぞかせる。これは昔っからそうだ。


「最初に力を見せつけたほうが、後々絡まれなくて済みそうじゃないか?」


「まあ、それはそうかもしれないけど……無理に絡まれる必要はないんじゃない?」


「しかし、寝こみとかに襲われてもなぁ……」


「心配ないでしょ。別に野宿するわけじゃないんだし」


「え?そうなのか?」


つるぎは驚いたような声を出す。僕もその言葉に驚く。


「え、だってさっきダカリットさんが宿を手配しておいたからって言ってたじゃない」


「そうだったか?」


「うん。言ってたよ。もしかして、聞いてなかったの?」


「依頼のことについては聞いていたぞ?」


威張るように胸を張るつるぎ。


「いや、他の話も聞いておいてよ……」


「で、どうする?さっそく依頼をこなしに行くか?」


つるぎは僕のお小言を遮るように大きな声で話を変える。


「依頼はこなしに行くけど、その前に荷物を手配してもらった宿に置いて来てからかな」


「ではそうしよう」


つるぎは妙にテンション高く、僕の手を取ってずんずんと進んでいく。


「ちょっと、つるぎ」


「なんだ?」


僕がつるぎを呼び止めると、つるぎが少しむっとした表情でこちらを見てくる。


「いや、宿の場所、そっちじゃなくて、こっち」


僕がそう言うと、つるぎはきょとんとした顔をした後、少し顔を赤らめ、


「さっさと連れてけ!」


と言った。宿までは結局僕がつるぎを引っ張っていくことになった。




「ここら辺がそうかな」


僕たちは宿に荷物を預けた後、さっそく依頼の調査に出かけた。まず最初に来たのは、毒沼が出来て通れなくなってしまった道路だ。


「だが、沼らしきものは無いな……」


「さすがにもうどかしたんじゃないの?よく使うんでしょ?この道路」


「にしては、交通量はまばらだな」


「確かにね……」


つるぎの言う通り、主要な大きな道路だというのに行きかう人々の量は少ない。


「たぶん、黒竜の噂が流れているのだろうな」


「どういうこと?」


「ここに一時出来上がった毒沼が、黒竜の仕業だという噂が流れたら、普通の人はどうすると思う?」


「えっと、なるべく近寄らないようにするかな。万が一黒竜に出会ってしまったら大変だから」


「だろう?たぶん、ここを使っていた人も同じ心理で、今はここを使うのを控えているのだろう。だから、普段は交通量が多いらしいこの道路に人がまばらにしかいないんだ」


「なるほどね……」


僕はつるぎの説明に納得しながら、周辺をよく見る。しかし、何か手掛かりになりそうなものは見つからないでいた。


「さて、次の被害場所に行くか」


つるぎが僕を促す。


「あれ、もういいの?」


「うむ。ここはもう大丈夫だ。たいした手掛かりもないしな」


「あっそう。じゃあ、行こうか」


僕たちは、次の被害場所へと向かった。

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