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第五十三話 この世界の広大さよ

特に何事もなく夜は更けていった。僕とつるぎは交代を繰り返しながら野生生物なんかがこちらに来ないように見張っていたが、何の気配もしなかった。たぶん、最小限の自衛手段しかもっていないこの人たちはいつも通る道として、知りうる中で出来る限り安全な道を使っているのだろう。朝が来ると、ミーニャの母親たちは起きて出発の準備をし始める。僕も夜の間中点けていた焚火の後片付けをした後、眠っているつるぎを起こす。


「おい、つるぎ。朝だぞ」


僕は、つるぎが眠っている簡易テントの入り口部分の布を開き、声をかける。


「……う~……」


「うなり声なんて上げてないでさっさと起きろ」


「……が~……」


「だからうなり声は良いっつうの」


「そうか?」


そう言ってぱっちりと目を開けたつるぎと視線が合う。


「もう行くって。早く準備しないとおいていかれるぞ」


それは困るな、と言ってつるぎは起き上がると、そのまま這って簡易テントを出て、立ち上がり伸びをした。


「おはよう、海斗」


伸びをし終わったつるぎは、僕の方を見てそう言う。


「おはよう、つるぎ」


僕もそれに返事をする。そして、急いで二人してテントなんかを片付ける。片づけをしていると、朝だというのに日が照って、汗ばんでくる。今日も昨日と同じく晴天で、旅井をするには絶好の日和だった。


「さあ、行くよ!」


ミーニャの母親の号令で、マクラレがのっそりと動き始める。僕たちは一番最後に位置している荷台に飛び乗る。昨日と同じリズムで刻まれる体の振動が、今日はなんだかやけに心地よかった。




ガルティアーゾの集落からでも見えていたミグーノ山脈をどうやって超えるのかと思っていたら、トンネルが掘られていた時にはとてもびっくりした。本当に長い、しかし整備されているトンネルを進んでいくと、わずかに光の点が見えてくる。


「もう少しで出口だね」


ずっとガタガタ音が響いている空間に、ミーニャの母親の声が響く。点に見えていた光が徐々に大きくなっていく。


「さあ!見えてきたよ!」


先頭にいるミーニャの母親が大きな声で僕たちに呼びかけてくる。何事かと思ってバランスを崩さないようにしながら荷台の上で立ち上がって前方を見る。僕たちを乗せた荷台がトンネルを抜け切ると、そこには大きな街が目下に広がっていた。


「すごいな……」


見渡す限りに広がっている家々の屋根の鮮やかさが、僕たちの目に飛び込んできては、久しく見ていなかった色彩を振りまいていく。特に、多くの建物に使われている明るい赤色が、網膜をこれでもかというほどに刺激してくる。


「うむ……これは、すごいな……」


つるぎも目の前の景色に圧倒されているようだ。


「今目の前に広がっている街は、ワルフラカ帝国最南端に位置する、アニゴベっていう街だよ」


「アニゴベ……」


つるぎがつぶやく。


「あれが、ワルフラカ帝国の一部ってことですか!?」


僕は大きな声で尋ねる。


「そうだよ!ワルフラカ帝国は、ここからずっと北まで続いているんだ。私たちは知らないけど、北の方には氷の山がいくつもあるらしいって話さ!」


「そうなんですか……」


今目の前に広がっている街が、ワルフラカ帝国に存在する街のほんの一つだとすると、ワルフラカ帝国というのは、いったいどれだけ大きいんだろうか。あまりにも広大すぎる、壮大すぎる話に、頭がクラクラとしてくる。


「でかくないか?」


僕は思わずそうつぶやく。


「ああ、でかいな」


つるぎも僕に同意してくる。バカみたいなやり取りだが、そうなってしまうのも仕方がないくらいに、僕たちは圧倒されていた。思えば、僕たちがこの世界に来てから半年がたとうとしているが、僕たちはガルティアーゾのことしか知らなかったし、知りえなかった。そしてこうして初めてガルティアーゾの外側に出て、僕たちは、この世界の壮大さを思い知らされているわけだ。


「……これは、なかなか一筋縄ではいかない感じがするな」


つるぎがそう言う。


「うん……そうだね」


その言葉に僕もうなずく。ワルフラカ帝国だけでも、これほど広大なのだ。リータが最初にここの世界について教えてくれた話によれば、他にもまだまだ国があったはずだ。それらがワルフラカ帝国と同じくらいの大きさを持つような国だったら、この世界はとんでもなく広大なことになる。そして、その分だけ僕たちが神を殺すための手段を見つけるのに困難を要することになるのだ。


「心してかからねばなるまいな」


「うん……」


僕たちはだんだんと近づいてくる街を目の前に、そんなことを確認し合うのだった。




…………


」うん?「


」どうした?ヒーサ?「


」何か、我々に敵対する者の気配がしなかったか?「


」したか?俺には感じられなかったけど……「


」貴様は気を抜きすぎなのだ、コウカ「


」そんなこと言っても、感じなかったものは感じなかったんだからしょうがないだろ「


」……まあ、良い「


」で、その気配って、マキケサラム様が逃したっていう、例の女の気配か?「


」そこまではわからん。我も、かすかに何かの気配を感じただけだ「


」いや、じゃあ俺と大して変わんないじゃん……まあいいや。そういえば、その例の女、お前はまだ生きていると思うか?「


」当たり前だろう。死んだのなら、マキケサラム様がわかるはずだし、我々が地上に降り立って捜索することもないだろう「


」まあ、確かになぁ「


」マキケサラム様の拘束が緩かったとはいえ、自力で脱出した女だ。我々の脅威に十分なり得る「


」案外もうなっていたりしてな「


」質の悪い冗談を言うのはよさないか、コウカ!「


」はいはい、悪かったって……あーあ、さっさと見つけてぶっ殺して帰りたいなー「


」それは我も同感だ「


…………

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