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第五話 異世界転生

結論から先に申し上げると、僕は死んだが死んでいなかった。何を言っているかわからないかもしれないが、僕にもよくわかっていない。僕がわかっていることは、「僕」というある種目に見えていなかった存在、つまり記憶や感情や理性なんかと、「僕の身体」というもののつながりが保たれたまま、僕たちが轢かれたであろう少し大きい通りの横断歩道ではないどこか別の場所に存在しているということだけだ。僕は自分の身体をペタペタと触ってみる。とりあえず怪我をしている部分はないらしい。顔にも触れてみるが、こちらも大丈夫なようだ。目鼻口耳全部そろっている。だいたい、今の自分の状況が目に見えているという時点で目玉がついているということは間違いないのだ。割と大きめのトラックに真正面からぶつかった割には目玉が破裂しないで済んでいるのは、人体の奇跡といえるだろうか。というか、目だけでなく、どこも怪我をしていないということが奇跡みたいなものだ。日ごろの自分の行いに感謝したい。ところでここはどこなのだろうか?僕はきょろきょろとあたりを見渡した。すると、すぐ近くでつるぎが倒れているのを発見した。


「おい、つるぎ!」


僕は急いで駆け寄る。つるぎからの返事はない。僕は呼吸を確かめた。


「スー……スー……」


息をしている音がした。僕はほっとしながら、寝ているつるぎを起こした。


「おい、起きろつるぎ」


「うーん……?」


「俺たちまだ生きてるらしいぞ」


「……ああ……そうか……」


「そうだ」


「スー……スー……」


「だから起きろって!」


「うるさいなぁ、生きているから寝ることもできるのだぞ?」


「いきなり正論言うのやめてくれる?」


僕とつるぎは互いの身体に異変がないかどうかを確認し合うと、自分たちが今いる場所はいったいどこなのかという疑問を解消するために動き始めた。


「立っているということは、地面らしきものがあるということだな」


「そうだな……見た感じも白ばっかだし……無菌室みたいだな」


「お、あそこに何かあるぞ」


そう言ってつるぎが指さしたところに、大きな扉がポツンとあった。


「急だなあ、おい。なんだこれ」


「どうやら扉のようだな」


「……開けてみるか?」


「開けてみてくれ」


「え、僕が開けるの?」


「当たり前だろうが。もしかして、得体のしれない扉をか弱い女の子に開けさせるほどお前の性根は腐っていたのか?」


「いや、僕よりつるぎの方が強いじゃん……まあ、開けるけども」


僕はしぶしぶ、そして恐る恐る扉のドアノブに手をかけ、扉を引く。しかし扉は開かない。


「あれっ、なんか開かないんだけど」


「押してダメなら引いてみればいいんじゃないか?」


つるぎに言われて、今度は扉を押してみる。すると、扉はゆっくりと開いた。


「本当だ、開いた」


「ここは西洋式の建物の中なのかもしれないな」


「なんで?」


「開き戸は西洋式の建物の中に多い気がするぞ。少なくともウチには一つもないな」


「いや、お前ん家は開き戸なんて一つもないじゃないか。全部引き戸じゃん」


「まあな」


そんなくだらないやり取りをしながら、扉をくぐる。すると、目の前にはさっきと同じような白ばかりの空間が広がっていた。ただ、先ほどの空間とは一つ違って、その空間の真ん中に、椅子のようなものに座っている人らしき姿が見える。


「……人か?あれ」


「とにかく確認した方が良いのではないか?ほら、先に行ってくれ」


「わかったから押すなって」


僕はつるぎに押されながら、真ん中に鎮座している人影の元へと向かった。僕たちが人影のすぐ近くまで来たところで、その人影が突然動き出した。


「うわわわっ」


「ちょっ、海斗、いきなり動くな」


「しょうがないだろ、だっていきなり動くもんだから……」


僕が驚いて後ずさりすると、後ろに引っ付いていたつるぎが抗議の声をあげた。落ち着いてその人影を見てみると、どうやら僕たちと同じ人間の姿をしていることに気が付いた。何となく西洋系の血が入っているような日本人っぽい顔立ちをしており、いわゆるイケメンという分類に入るであろう感じだ。髪の毛は金色で肩まで長さがある。そして、それが口を開く。


」やあ、君たち。もう目が覚めたんだね「


まるで、耳を通してではなく、頭に直接語り掛けてくるような、そんな声だ。何となく認識がしづらい。言葉と言葉のほんのちょっとの間を聞いているようで。でもそれが言葉だとわかっているのに、脳がそれを理解することをこばんでいるような、そんな不思議な感覚。


」いきなり驚かせてしまってすまないね。僕はこうしないと君たちと会話をすることが出来ないんだ「


「……あなたは何者だ?」


つるぎも、顔をしかめながら、それでも口を開いてそれに尋ねる。


」私は神だよ。私が死ぬ直前の君たち二人をここに連れてきた「


「「はぁ!?」」


僕たちの口から一斉にそんな言葉がこぼれた。



自称「神」だというそいつに面喰い、多少動揺しつつも僕は質問する。


「さっき死ぬ直前に連れてきたって言ってたよな?それってどういう意味だ?」


」どういう意味もこういう意味もない。たまたま君たちがトラックにはねられる直前のシーンを見かけて、気まぐれで助けた。ただそれだけ「


「つまり俺たちはあそこで本当は死ぬはずだったってことか?でも生きてる……いや、俺たちは生きてるのか?」


」そうだね。君たちは死ぬはずだった。君たちは今生きているのかという質問だけど、君たちが生きてるという実感を持っているならそれは生きていると言ってもいいんじゃないかな?そこら辺の人間の感覚は、私にはわからないよ。神なんでね「


「……これから僕たちはどうなる……?」


僕が自称「神」に尋ねると、自称「神」は少しの間黙った後、こう答えた。


」うーん……まあ少なくとも君は、もともと住んでいた世界とは違うところに行ってもらうよ。そこで勝手に頑張って生きて。隣の美人さんは、僕のそばに置いておこうかなぁ。天使に昇格させるのもありだね。とにもかくにも、女の子の方はここにいてもらおうかな「


「なんだと!?」


なんだって?元の世界ではない別の世界に飛ばされるだって?冗談じゃない。元の世界に返してくれ。そんなことを思いながらも、あまりにも衝撃的な発言に僕が押し黙っていると、先ほどまで黙っていたつるぎが口を開く。


「元の世界に帰ることはできないのですか?」


」基本的にはできないね。まあ、私がシステムを一時的に書き換えればできるかもしれないが「


「そのシステムを書き換えるにはどうしたらよいのです?」


」神である私の気が向いたら書き換えられるけど……でもそんなことにはならないから安心して君は僕の元で天使になればいいんじゃないかな?「


「それは謹んで辞退させていただきたいのですが、要はあなたをシステムを書き換えたくなるように仕向ければいいんですね?」


」だからそれは無「


「ッッッッッラァァァァァ!!!」


会話の途中、つるぎはいきなり自称「神」との間合いを詰めると、思いっきり右腕を振りかぶって、自称「神」の顔面目掛けてこぶしを突き出した。


「つ、つるぎ?!」


僕は突然のことについていけず、ただ闇雲につるぎの名前を叫ぶ。見ると、自称「神」の顔につるぎのこぶしは届いていなかった。不自然につるぎの腕が空中に固定されている。つるぎの方は自分の腕が動かないのか、必死に右腕を動かそうとしている。一方で自称「神」の方は、涼しい顔をして立っている。


「クソッ!」


」いきなり殴ってくるなんて危ないなぁ。どうしたんだい、急に?「


「うるさい黙れ変態が。うら若き女子高生を自分のそばに置くために、本人に確認も取らずに天使にさせるだと?気持ち悪いにもほどがあるだろうが」


」なにそんなに怒ってるんだい?君は天使になることで何不自由なく暮らせるんだよ?「


「お断りだね、そんなことは。だいたいあの時海斗と一緒に死んだのならそれはある意味私の本望だったんだ。それを余計なことしくさってからに……決めた。私も海斗と一緒に、知らない世界で勝手に生き延びる」


」えー、それは困るなぁ「


烈火のごとく怒りをぶつけるつるぎと、それをうすら笑みを浮かべながら見る自称「神」。僕は何をすればよいのかわからず、ただそこに立っているだけという状況になってしまった。すると突然、自称「神」が僕の方を向いた。


」つるぎちゃん。君に行かれちゃうと困るから、腕が動かないうちにこの海斗君には先に別の世界に行ってもらおうか。そうしたら君もあきらめがつくだろ「


「や、やめろ変態が!ク、クソッ……!」


つるぎはさっきよりさらに激しく、空中に固定されてしまった右腕を自由にしようと踏ん張っている。


」じゃあね、海斗君。次は僕の見てない時に死んでね「


自称「神」が指を鳴らすと、僕の立っているところにいきなり大きな穴が出現した。僕は


「あ」


と情けない声を出しながら下に下にと落ちていく。すると上から


「おおおおおおおおお!!!」


というつるぎの声が聞こえてきた。そして次の瞬間


「海斗!」


という叫びと共に、僕が落ちた大きな穴から僕めがけて、つるぎが飛び込んできた。


」お、おい「


自称「神」が初めてうろたえたような声を出した。落下している僕の胸に、つるぎが飛び込んでくる。


「大丈夫か?つるぎ」


「ああ、もちろんだ。心配ない」


僕はなんとかつるぎを抱き留めながら尋ねる。


「良かった……でもどうして?」


「どうして、だと……?この前も言ったじゃないか。ずっと一緒にいたいからだぞ?」


「……そうか」


「そうだとも……一緒に連れて行ってくれるか?別の世界に」


つるぎは僕の顔をまっすぐ見てくる。僕は少しだけつるぎを抱く力を強めると


「……うん、もちろん」


と答えた。


僕たちが落ちた穴はとっくの昔に小さくなって見えなくなっていた。僕たちは互いに抱き合いながら、永遠にも似た時間、ずっとずっと落ち続けていった。

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