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第四十七話 海斗対族長・ギルツィオーネ

ギルツィオーネが間合いを詰めてくる。僕はその間合いの間に汎用系第三位魔法「緑壁籠諏プーシャン」を発動。しかし、ギルツィオーネは体当たりで難なく土の壁を壊す。僕は続けざまに汎用系第三位魔法「斬矢凡ヴァーユ」を三重展開。そして発射。空気を切り裂きながら飛翔する矢はしかし、ギルツィオーネには届くことなく消えていく。綺麗に真っ二つに両断された矢が、そこだけ見えない空気があるかのように止まって、地面に吸い込まれる。ギルツィオーネの手には、彼の身長ほどもある大剣が構えられていた。僕は後ろに後ずさり、ギルツィオーネと距離を開けながら汎用系第四位魔法「断槍凡鋼カールラ」を展開しようとする。


「あれっ?」


僕はそこで、決闘中だというのにもかかわらずおかしな声を上げてしまった。僕の方にじりじりとにじり寄ってきていたギルツィオーネも、僕の声を聞いて足を止める。そういえば今僕は普通にエーメスと対峙しているときのような感じで第四位魔法を展開しようとしていたけれど、人間に向かって第四位魔法なんて放ったらいったいどうなってしまうのだろうか。よく考えなくても普通に死ぬんじゃないか?だって、今僕が展開していた「断槍凡鋼カールラ」は岩を貫くほどの威力だ。死ぬも死ぬ。大死ぬ。


「海斗!」


僕がそんなことを考えていると、不意に耳につるぎの叫び声。僕が考え事を中断して現実に戻ってくると、目の前には刃。


「のわっ!」


僕はとっさに水系第三位魔法「灑水《シャーシ―》」を下に向かって放ち、刃の届く範囲から緊急離脱。遅れて空気が切れる音が小さく鈍く聞こえてくる。そしてギルツィオーネの振るった大剣が地面をまるで紙のようにいとも簡単に切り裂く。


「何を呆けているんだ?」


大剣を持ち直しながら、ギルツィオーネが僕に向かって尋ねる。僕は体勢を整えながらそれに応える。


「ああ、いや……その、あんたを殺してしまわないか心配になって、つい……」


そんな僕の言葉を聞くと、ギルツィオーネの顔が笑いと怒りでごちゃまぜになった、何とも言えない表情を見せた。


「ほう?殺してしまわないか心配、だと?お笑いだな。さっき死にそうになっていたのはお前の方なのに」


ギルツィオーネはそういうと、また膝と腰を落とす。今度は僕もそれに反応して「緑壁籠諏プーシャン」を多重展開。壁を三枚ほど発生させる。今度もすべて破壊されるだろうかと思いながら身構えていると、視界の妙なところから影。そちらの方向を見ると、ギルツィオーネが僕の展開した壁を飛び越え、大剣を振り上げていた。


「うっそ!」


僕は驚きながらも、雷系第三位魔法「鳴雷甲迅ビークシン」を空中のギルツィオーネに向かって放つ。電撃だから当たったら死んじゃうかもしれないけれど、気にしていられない。ギルツィオーネに雷撃が直撃したかに思えた。しかし、ギルツィオーネは振り上げていた剣を自身の目の前に持ってきて、大剣の腹部分で電撃を受ける。


「!?」


僕はそれを見て驚いてしまった。僕が知っている限りでは、一応このガルティアーゾの戦士たちが使っている大剣を形成している金属には電気が通ったはずだ。本来ならば、電撃を受けた大剣はそのまま持ち主の腕まで電流を伝えるはずだった。しかしながら、ギルツィオーネは電撃を受けたそぶりは見せていない。ということはだ……


「きっと魔法を打ち消すような対魔法用の何かがあの剣にあるってことだ……」


空中から頭をかち割ろうとしてくるギルツィオーネの大剣をすんでのところで躱し、僕はもう一度「鳴雷甲迅ビークシン」を放つ。ギルツィオーネは先ほどと同じように大剣の腹で電撃を受け止める。やはりそうだ。ギルツィオーネの大剣には、何か魔法を打ち消すような加工が施されている。となれば、電撃ではなくもっと物質的に攻めるしか方法はない。僕は「斬矢凡ヴァーユ」を三重展開し、三方向に向かって撃つ。流れるような剣さばきでギルツィオーネが矢を切断。さらに加速した巨体が迫ってきた。僕は身体をひねって回避しようとしたが、遅れてしまった。刃自体にはまともには当たらなかったが、衝撃により吹き飛ばされてしまう。


「うえぇ……痛ったい……」


上手く着地できず尻もちをついてしまう。衝撃をまともに受けた身体から、痛みがとめどなく溢れてくる。とりあえず立ち上がり応急措置的に治癒系第三位魔法「痛経鎮寓侃《イェ―クン》」を身体中にかける。痛みがだんだんと和らいでいく。たった一振りの剣の衝撃だけでこのザマだ。まともに喰らったら骨ごと切られてしまうだろう。これは、相手が死んじゃうかもなんて思っている場合ではない。僕も第四位魔法を使わなければ、僕が死ぬ。僕は汎用系第四位魔法「断槍凡鋼カールラ」を発動。全長1.7メートルの槍を右掌に出現させる。そして、発射。空気を鈍く切り裂いた音と共に、ギルツィオーネの肉を穿たんと躍動する。ギルツィオーネは豪速で放たれた槍に反応し、剣先を槍先に当て槍をそらせる。僕は剣が跳ね上がってがら空きになったギルツィオーネの胴体に「鳴雷甲迅ビークシン」を放った。当たったと思ったが、ギルツィオーネは槍をそらしていた大剣を引き戻し、大剣の腹の部分で電撃を受け止めてしまう。僕は止まることなく汎用系第四位魔法「鋼磔糸蓑白アーホソニーティル」を発動し、ギルツィオーネの足を止めようと地面から金属の糸を発生させる。左足は拘束することが出来たが、右足には逃げられてしまった。そして、左足を拘束していた糸もすぐに断ち切られてしまう。僕はその間にもう一度だけ「鳴雷甲迅ビークシン」を放ったが、予想通り剣の腹で受けられてしまった。


「私に魔法は効かん」


ギルツィオーネは口角を歪ませながら言う。その声色は勝ち誇ったものだった。しかし、僕はあまり魔法が効かないということに関しては絶望していなかった。僕は四回の「鳴雷甲迅ビークシン」であることに気が付いた。矢や槍などの物質的な攻撃は剣でいなされてしまうし、電撃は剣の腹部分で受けられてしまう。しかし、ギルツィオーネは電撃魔法を受ける際に妙な行動をとっているのだ。それは、必ず大剣の決まった面でしか電撃を受けないということだ。ギルツィオーネは必ず剣を、僕から見て左側の面にして受けていた。もし、ギルツィオーネの剣が魔法を打ち消すような効果があったら、わざわざそんなことをするだろうか?いいや、そんな面倒くさいことはしない。一瞬でも遅れてしまったら、自分が死ぬかもしれないのにもかかわらず、特定の面だけでしか攻撃を受けないなんてことをするはずがない。つまり、同じ面で電撃を受けていたのは何か理由があるからだということになる。そして、その理由はたぶん、その剣の面しか魔法を打ち消す効果がないからだと考えられる。もし本当に今僕が考えたことが正しかったら、僕に勝機は巡ってくる。しかし、それにはおおいなる代償がついてくるだろう。まあ、つるぎを渡さないと息巻いたのだから、最後まで格好つけなきゃな。僕はこれから自分の身に起きるであろう痛みに覚悟を決め、雄たけびを上げながらギルツィオーネに向かって走り出した。


「うおおおおおおおおおお!!!」


そして汎用系第一位魔法「明明光アノク」を右手に展開。普通の光量よりも少しだけ上げ、右手を引く。


「ふんっ!死にに来たか」


ギルツィオーネは先ほどの表情を崩さず、右腕一本で大剣を掲げた。そして、僕が剣の間合いに入ると勢いよくそれを振り下ろす。僕は左肩に喰らうであろう痛みに、先に歯を食いしばっておきながら、「明明光アノク」を止めて「鳴雷甲迅ビークシン」を展開。次の瞬間、鎖骨からこの世のものとは思えないほどの激痛。そしてそれがどんどん下に向かって続いていく。ギルツィオーネによって僕の左腕が肩から切断された。僕は悲鳴を上げたいのを歯を食いしばって我慢する。そして、剣が僕の身体を通り抜けるのを確認してから、僕は剣の腹部分を触る。その面は、僕から見て右側だ。すかさず「鳴雷甲迅ビークシン」を発動。瞬間、電撃が剣を通ってギルツィオーネの身体を襲う。


「があ???」


ギルツィオーネは苦悶の表情。当然だ。電撃が走るとは思ってもいなかったのだろう。急いで大剣の柄から手を放そうとするギルツィオーネ。しかし、電気が身体中の筋肉を支配してしまい、うまく手を扱うことが出来ないらしくなかなか手を離せないでいた。


「ぬごああああああああ!?」


電撃はなおもギルツィオーネの身体を蝕む。僕は必死に切断された左腕の痛みに耐えながら電流を流す。ちらりと横目で左下の方を見ると、さっきまでつながっていた僕の腕がゴロンと無感情に転がっているのが見えた。さっきから何かあたたかいなと思っていたのは、切断面から流れた血だということに今気が付いた。そして。ギルツィオーネの膝が急にがくんと折れたかと思うと、そのまま前のめりに倒れる。それを見て、僕も魔法を止める。魔法を止めた途端に身体の全てから力が抜けていくのがわかった。そして、ギルツィオーネに重なるようにして僕も倒れた。地面はひんやりとしていてとても気持ちが良く、つい目を閉じてしまった……

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