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第四十五話 連携

しばらくしてエーメスが直ったという知らせをリータから受けた。僕たちは再びエーメスと対峙する。僕が放った汎用系第五位魔法「地杭背鋼凡負アデカガーワ」によって穿たれた胴体は、僕の発生させた槍はそのままに、そこをさらに補強する形で岩が詰めてある。こぶしには岩のかけらが散りばめられており、鋭利さを増している。足はつるぎに切断されたことを考慮してか、一回りほど太くなっているような気がする。


「なんか、さっきよりもデカくなってない、エーメス?」


「もちろんですよ!お二人と戦うんですから、なるべく太く大きな体にしないと二秒と持たないですから!」


リータはエーメスの岩肌をまるでペットをなでるかのような手つきで撫でながら、僕たちに向って言う。


「まあ良いではないか。君の破壊力のある魔法と、私の破壊力のある剣でなぎ倒してやろう」


「自分で破壊力ある剣とかよく言えるな……」


「事実だからな!」


つるぎは胸を張りながら言う。


「さいですか」


「じゃあ、いきますよ~」


僕たちが軽口をたたき合っていると、リータがエーメスを発動させる準備が出来たことを僕たちに告げて来た。


「はーい!オッケー!いつでもいいよー!」


僕は戦いに巻き込まれないように離れていたリータに向かって言う。


「わかりました!じゃあ、『兵守兵攻《シェムハザ―》』」


リータがそう唱えると、エーメスが動き出す。


「さあいくぞ、海斗」


「うん」


僕たちは構えた。つるぎが愛刀・神切の柄を握ったままエーメスに向かって直進。僕はつるぎの後ろから汎用系第三位魔法「斬矢凡ヴァーユ」を三重展開。矢を発生させ、それらをエーメスに向かって三方向に向かって放つ。エーメスが腕を薙ぎ払うようにして矢を叩き落とす。懐に入ったつるぎが刀を抜き一閃。エーメスの身体に刃が刺さる。しかし、リータによって厚みを増したエーメスの胴体に進行を阻まれてしまう。


「くっ!?」


つるぎは進まない刀を無理やり引き戻そうとする。しかし、エーメスのこぶしの鉄槌がつるぎを襲った。つるぎは一度剣から手を放し、エーメスの股の間を前転でもって回避。僕は汎用系第四位魔法「断槍凡鋼カールラ」を発動する。追撃を仕掛けたエーメスに向かって槍が放たれる。エーメスがそれをこぶしで破壊する。


「前より強くなってるな」


以前のエーメスだったら、僕の槍をこぶしで躱すことはできたであろうが、破壊することはできなかったはず。しかし、今槍は目の前で間違いなく破壊された。つるぎは僕の創り出した一瞬の時を見逃さず、エーメスの懐に再度入る。そして刺さったままになっている刀をつかむと、そこだけ無重力になってしまったかのようにつるぎがふわりと舞う。刀の柄に手をかけたまま、腕の力だけでエーメスの胴体に足をつける。


「ぬおおおおおお!」


エーメスの攻撃にこれ以上さらされないように、つるぎはエーメスの岩肌に張り付くような格好になって、剣を取り返そうとする。途中で刃が止まったままの刀を、元の方向に戻すのではなく引き抜こうとしていた。僕はつるぎに当たったらダメなのでエーメスに対してあまり迂闊に魔法を放てないと思い、どうすればよいか戸惑ってしまった。


「はあああ!」


エーメスがつるぎを放そうとしているが、それを意に介さず短い気合の声と共につるぎが刀を引き抜く。引き抜いた足の力そのままにエーメスを蹴り引っ付いていたつるぎが離れる。空中で後転しながら体制を整えて見事に着地。間髪入れずに再び切りかかる。僕もつるぎがエーメスから離れたことによって僕も再び攻撃魔法を放てるようになった。僕は「断槍凡鋼カールラ」を連続で放ちながらエーメスの動きを制限する。つるぎがエーメスの腕に向かって斬撃を放つ。狙ったのは腕の一番細い部分。どうやらつるぎはまず最初にエーメスの武器であるこぶしを無力化しようとしているらしい。エーメスの左腕がすぱりと切れる。左こぶしが鈍い音を立てて地面に落ちる。少しだけ地面が振動。左のこぶしがなくなった。これならエーメスの攻撃が予測しやすい。なるほど、つるぎが狙っていたのはエーメスの攻撃方法を限定させることによって、自分たちがエーメスの動きを読みやすくすることだったのか。つるぎが考えていることがわかると、途端に僕の思考もクリアになる。これがつるぎの言う「連携」か。右腕を使わざるを得なくなってしまったエーメスの攻撃が単調になる。僕たちはエーメスを段々と壁際に追い詰めていった。


「海斗!磔にするんだ!」


だいぶ壁に近くなった地点で、つるぎが僕に向かって言う。


「わかった」


「ただしさっきとは別の方法でやってくれよ。もうあの固い槍を切るのはごめんだ」


「……わかった、やってみる」


僕が先ほどと同じ汎用系第五位魔法「地杭背鋼凡負アデカガーワ」を放とうとするとつるぎが僕に釘をさしてきた。……となると、このエーメスを磔にするには多少頑張んないといけないな。


つるぎが残るこぶしと対峙しながら壁際まで追い詰めていく。僕も「断槍凡鋼カールラ」で援護射撃。そしてエーメスが壁に近づいたところで、まずは右足に向かい汎用系第四位魔法「鋼磔糸蓑白アーホソニーティル」を発動。壁から生えるようにして出現した金属の糸が、エーメスの足首部分に巻き付きそのまま動きを封じる。右足が封じられたのを確認すると、つるぎはわざとエーメスのこぶしの攻撃範囲に入る。しめたとばかりにエーメスがつるぎに向かって腕を振り上げた。僕はそのタイミングを逃さず、再度「鋼磔糸蓑白アーホソニーティル」を発動。腕が頂点に上がったタイミングで壁から金属糸が発生。そのまま壁に固定する。そして、間を置かずに左足の動きも奪う。気が付くとエーメスは完全に動けなくなっていた。唯一自由の利く左腕の先にはこぶしがない。なので、僕と戦った時のようにこぶしで無理やり引きちぎるということはできないでいた。エーメスは何とか逃れようと暴れるが、「鋼磔糸蓑白アーホソニーティル」によって生み出された糸が、まるで地面に根を張っているかのような強靭でもって磔状態を維持している。


「ふう、なんとかエーメスの身体の被害を最小で無力化できたな」


「そうだね」


つるぎがそうつぶやく。僕はつるぎに同調するようにうなずいた。リータがやってきてエーメスを鎮める。先ほどまで暴れていたエーメスはその言葉を聞くとすぐにおとなしくなり、最後は動かなくなった。


「お見事ですね、二人とも!」


リータがそう言いながら僕たちの所に駆け寄ってきた。


「いや、まだまだだったな」


つるぎはぴしゃりと言い放つ。


「そうですか?」


「ああ、そうだ。海斗、君はなぜ私がエーメスに張り付いていた時魔法を放たなかった?」


つるぎは僕を問い詰めるような口調で尋ねる。


「それは、危ないと思ったから……」


「だろうな。だが、あそこで攻撃の手を緩めてはいけない。私のことは気にするな、とは言わない。しかし……」


つるぎは僕に近づき、少し早口になりながらそうまくしたてると、急に立ち止まって僕から数歩離れた。そして振り向く。


「どうか私を信頼してくれ。私が君の魔法に巻き込まれずにうまくやるということを」


つるぎの真っすぐな瞳が僕の瞳を射抜く。


「……うん」


「まあ、悪い事ばかりではなかった。後半の方は、連携らしいものは取れていたと思うぞ」


つるぎはまだ僕の顔を見ながら、それでもさきほどの鋭い視線ではなく、優しい眼でそういう。


「ああ、つるぎが腕を切ってから」


僕がそうつぶやくと、つるぎがウンウンと頷く。


「あの時は少しだが、私と海斗の思考がリンクしたような感じがした。あの感じを目指して今後もやっていこう」


「うん、そうだね」


お互いに頷き合いながら、僕たちはあの時の感覚をもう一度思い出していた。


「なんにせよ、収穫があったのは良かったです!」


リータが僕とつるぎの腕をつかみながら言う。


「じゃあ、帰りましょう?もう夕方ごろだと思うので」


「ああ、そうだな」


リータに促されて僕たちも帰ろうとする。


「あ、でも、エーメスこのままでいいの?」


僕はふと気になってリータに聞いた。


リータはあっというような表情を浮かべた後、少し悩んでから、


「……何とかしてから帰りましょうか」


と言った。こうして僕たちは本日三回目のエーメス修復を終えてから帰路についたのだった。

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