第四十三話 エーメス再戦
愛刀・神切を一度だけ大きく振るい鞘に収めると、つるぎはこちらに向かって歩いてきた。
「いやいや。なかなかの強さだな、エーメスは」
一つにまとめている髪が左右に揺れる。僕とリータは驚きで、ただただ無言でつるぎを迎え入れた。
「どうしたんだ?呆けた顔をして」
僕とリータの顔を見て、つるぎが不思議そうな顔をする。
「いやいやいや。呆けた顔をするなという方が無理な話だろ」
僕は呆れながらつるぎに言う。リータもそれに続く。
「そうですよ、つるぎさん!あんなに強いエーメスを、あんなに早く倒しちゃうなんて、凄いです!」
「そうか?私にはまあ、なんだ、確かになかなかの強さだとは思うが、なにも倒せないほど強いというわけではなかったように感じたが……」
「それは、つるぎが倒したスピードが早すぎたからだと思う」
「早すぎた?」
「うん。早すぎた」
僕がつるぎの疑問に答えようとすると、リータが割って入ってきた。
「エーメスはそもそも侵入者を排除するための目的で作られた古代人型兵器です。エーメスは殺すことを最初の目的にはされていないので、侵入者の強さがわかるまではある程度の強さで強さをとどめるんです。そこに神速でつるぎさんがエーメスを切ってしまったために、つるぎさんのレベルに強さを合わせられず、戦いに終止符がついてしまったんです」
「なるほど……」
つるぎはリータの説明を聞いて頷くと、口を開いた。
「ということは、本来はもっと強いということか?」
「そういうことになります」
「そうかそうか」
その言葉を聞くと、嬉しそうに何度も小刻みに頷くつるぎ。そして、僕の方に向って言う。
「今度は君がエーメスと戦って見せてくれないか、海斗」
「え、僕?」
「そうだ。エーメスがどのくらいまで強くなるのか見てみたいしな」
「いいけど……」
僕はちらりと上半身と下半身に分けられ、さらに上半身を二つに切られてしまったエーメスを見る。
「今すぐには無理そうだよ?」
「あっ」
僕の視線に気が付いたのか、つるぎは「そういえばやっちゃってたな」といったような顔をした。僕とつるぎの視線がリータに注がれる。僕たちの視線を受けて、リータはやれやれといった顔をしながら言う。
「直せますし、直しますけど、そんなすぐに出来るわけじゃあないので少し待っていてください」
リータはそういうと、動かなくなったエーメスのそばに駆け寄っていった。
「あれ、本当にどうにかなるのか?」
「わかんない。けど、リータが直るって言ってるんだ。大丈夫でしょ」
「……そうだな」
僕たちはリータが忙しそうに動き回っているのを見ながら二人でのんきに話をした。
「さあ、直りましたよ!」
リータが声を上げる。その横には、先ほどまで切られてバラバラになっていたエーメスの姿などはどこにもなく、あるのは新しく生まれ変わったエーメスだった。切断面が見えないくらいに接合をされており、心なしかエーメスが嬉しそうに見えた。無機物なのに。
「さあ、思う存分やっちゃって下さい!カイトさん!」
リータははしゃいだ様に言う。
「はいはい……」
僕は復活したエーメスに近づく。リータがエーメスに起動の言葉を唱える。
「兵守兵攻《シェムハザ―》」
リータの号令によりエーメスが敵を排除するモードへと移行。戦いに巻き込まれないようにとリータが脱兎のごとくこの場から逃げる。僕は、つるぎとリータが安全な場所に移動したことを確認した後、魔法を発動。
「断槍凡鋼」
汎用系第四位魔法「断槍凡鋼」により、僕の右掌に全長1.7メートルの槍が出現。末端まで出来上がった瞬間に僕は腕を振るう。風を切る音と共に槍が豪速でエーメスの胸部分に発射される。エーメスはものすごい速度で発射されたそれをパンチで粉砕。僕は構わず第二射目を放つ。エーメスが二本目の槍を軽々とよけると、今度は攻撃に転じてくる。轟音を響かせながら距離を詰めてくる。僕はだんだんと縮んでくる距離を何とか広げるようにと後ろ向きに走りながら汎用系第三位魔法「斬矢凡」を三重展開し、少しでもエーメスの邪魔をする。ドンッ!という音と共にエーメスが飛翔。僕を押しつぶそうとこちらに向かって飛んでくる。僕はそれをあえてエーメスの飛んできた前側に走ることで回避。背後で爆音。エーメスの着地する音が、ドーム状の空間に響き渡る。僕は振り向きざまに「断槍凡鋼」を放つ。着地したエーメスは飛んできた槍に反応するが、巨大な体が災いして完全には回避できないでいた。槍がエーメスの肩に着弾。鈍い音と共に槍が岩を削る。がしかし、完全には削りきれなかったようで、エーメスの肩を構成している岩を穿つことなくそのまま槍の進行が止まる。エーメスは肩の槍を気にすることなくこちらに向かってくる。今度は先ほどの速さの比ではない。僕はエーメスの進行を止めるために汎用系第三位魔法「緑壁籠諏」を展開。発生した土の壁はすぐさまエーメスの突進によって破壊される。僕は横に飛ぶようにしてよける。僕が先ほどいた場所にエーメスのこぶしが振るわれる。こぶしがそこに来ることを予想していた僕は、汎用系第四位魔法「鋼磔糸蓑白」を発動。エーメスが振り下ろしたこぶしを「断槍凡鋼」を作り上げている素材と同じ金属でできた糸で捕らえ、拘束する。一瞬腕が抜けなくなったエーメスは、その固い糸を破壊しようと、空いている片方の手でもって引きちぎる。その作業を時間にすれば約二秒。それほどエーメスは剛腕だった。しかし、今の僕にとって、二秒というのは長すぎる時間である。第五位魔法を瞬時に頭の中にイメージ。思い浮かべるのは、「断槍凡鋼」によって放たれる槍よりももっと大きなモノ。
「地杭背鋼凡負!」
直径18センチメートル、長さ2メートルの槍が出現。一見すると、「断槍凡鋼」による槍の大きい版のように見える。しかし、その槍にはいくつもの突起がついており、抜けないような返しの役割を担っていた。さらにその槍のお尻の部分には釘のように広がった部分があり、槍が抜けないようにしてある。エーメスがこぶしの糸をちぎったのと同時に発射。次の瞬間にエーメスはその槍によって体を貫かれ遠くにあった壁に磔状態にされた。エーメスは自分を貫いて固定している槍を抜こうと必死でもがいているが、返しのせいで抜けないでいる。
「眠寝界静流科」
そこにリータの声が響く。すると、先ほどまで槍を抜こうとしていたエーメスの動きが急に止まった。
「いつの間にそんな魔法を扱えるようになったんですか?カイトさん!今の、第五位魔法ですよね?」
「そうだね。今のは第五位魔法だ。けど、これは前から練習してたから、大したことはないよ」
リータが興奮した声で僕に近づいてくる。
「いや、凄かったぞ。やはり、魔法というのはすごいものだな……それに、戦闘には海斗がいなければなと改めて思った」
つるぎも僕を手放しでほめてくる。なんだか照れ臭い。
「で、エーメスの力を見てどうだった?」
照れくささを紛らわせるために、僕はつるぎに尋ねる。
「ああ。かなり強かったな。たぶん私が対峙していた時よりも数倍エーメスの動きが良かった。あれが本来の力か」
「そうだね」
僕たちは遠くで壁に打ち付けられたエーメスを見た。
「この強さなら、本当に十分私たちの連携の練習相手が出来るだろう」
つるぎはにやりと顔を歪ませた。




