第四十一話 昏睡の原因
「リーター!いるかー?」
僕はつるぎと一緒にリータの家を訪ねた。
「え?カ、カイトさん!?」
ドア越しから漏れるそんな言葉とともに、バタバタと足音を立てながらリータが姿を現す。
「よう」
「カイトさん!起きたんですね!良かった!」
僕の顔を見るなり、興奮した様子で僕の手をつかんでブンブンと振り回しはじめるリータ。
「詳しいことを海斗に話してやってくれないか」
つるぎがそう言うと、
「あ、つるぎさん!わかりました……ささ、どうぞどうぞ!」
と言って、リータは僕たちを家に招待してくれた。
「いやー、ごめんごめん。三日も寝ちゃっててさ。授業、大丈夫だった?」
案内された椅子に腰かけながら、僕はリータに尋ねる。
「それは心配ありませんよ!……ミーニャちゃんは『なんでカイトがいないのよ!』ってお冠でしたけど」
「ああ、何となく想像つくよ」
ミーニャのプンスカ怒っている顔がありありと目に浮かぶ。なんでかは知らないけれど、ミーニャは僕によくなついてくれている。まあ、なついているというよりかは、新しいおもちゃが手に入って喜んでいる子供にも見えるんだけど。
「誰だ?そのミーニャというのは」
ああ、そうか。つるぎは知らないんだっけか。不思議そうな声でつるぎが尋ねてくる。
「ミーニャって言うのは、僕が手伝ってるリータの魔法の授業にいつも出てる子で、このポンチョを作ってくれた人の娘さんだ」
「ほお……なるほどな」
「魔法にも熱心で、カワイイ子ですよ」
リータも補足説明を入れる。
「ふーん……」
つるぎは横目でぎろりと僕のことを見つめながら、そうつぶやくと、僕の足を思いっきり蹴る。
「痛って!?」
「大丈夫ですか、カイトさん!?やっぱりどこか痛むんですか!?」
思わず大きな声で痛がった僕を心配してリータがあたふたし始める。
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっとテーブルに足ぶつけちゃって……」
僕は急いでリータをなだめにかかる。今すぐにでも治癒魔法を発動させんという勢いだったリータを落ち着かせる。リータは疑いのまなざしで僕を見ながらも。
「……そうですか?」
と言いながら、いったんは落ち着く。僕は抗議のまなざしをもってつるぎを見る。しかし、つるぎはそれを無視しながら話を始めた。
「で、リータ。海斗に詳しい話をしてあげてくれないか。私の口から説明するより、わかりやすいだろうし、質問もしやすい」
「そうですね。では、私なりの見解ですが、どうしてカイトさんが三日間も眠ったままになっていたのかということを再度カイトさんも交えてお話しさせていただきたいと思います」
「うん。よろしく」
僕がそう言うと、リータはうなずき、一つ大きく息を吸った。
「つるぎさんのお話から、カイトさんは第四位魔法を多く使っていたと聞いています。また、黒竜と同じくらいの大きな岩を持ち上げたとも聞きました。カイトさん、それは間違いないですか?」
「うん。間違いないよ」
第四位魔法を何発撃ったか正確には覚えていないが、とにかくたくさんはなった記憶がある。さらに、第三位魔法の多重展開もした。それに、岩を持ち上げた魔法は第五位魔法だ。
「それほど大きな岩を持ち上げた魔法って、何を使ったんですか?まさか、『浮浮物宙中象』じゃあないですよね?」
「違うよ。汎用系第五位魔法の『空糸操天門楊』だよ」
「第五位魔法ですか!」
リータは僕の言葉に驚く。その驚きも無理はない。実際に発動したとき、僕も驚いた。第五位魔法を発動できているということに。
「なるほどなるほど」
リータはフムフムと頷きながら、説明を続ける。
「たぶんカイトさんは、黒竜といういきなりの大物との対決という極限状態で、ある種の覚醒状態に入っていたのだと思います。いくらカイトさんでも、普通の状態でいきなり第五位魔法が使えるとは思えませんし。で、その覚醒状態は魔法を放つには最高の状態なんだろうけど、脳と身体に大きな負担がかかるのでしょう。実際第五位魔法は相当脳と体に負担がかかる魔法ですし……それに加えて、黒竜の攻撃もありますからね。なので長めの休養をということで、カイトさんの脳と身体は三日間の眠りについたのだと思います」
「なるほどね」
僕はリータの説明に、一応は納得した。確かにいきなり第五位魔法を発動させるなんて、無理な話だ。しかし、僕は第五位魔法である「空糸操天門楊」を発動させたことに変わりはない。ということは、それを可能にした存在がいるということだ。その存在というのが、覚醒状態に入った脳だという話は一応筋が通っている。
「ということは、今のところ海斗の脳に異常はないということか?」
つるぎがリータに尋ねる。
「まあ、異常はないと思いますけど……でもどうでしょう。覚醒状態が今後癖になっていったら、身体の怪我と同じで、脳の能力を最大限引き出して三日間昏睡みたいな状態になってしまう可能性は十分ありますね」
「それは嫌だな。普通に」
僕は思わず顔をしかめる。魔法を放つたびに昏睡状態になっていたら、倒せるものも倒せなくなってしまう。
「どうすれば良いと思う?」
僕はリータに尋ねる。
「そうですねぇ。第四位魔法も使えない私が、あんまり適当なこと言えないですけど。でも、次の覚醒状態に入らないうちに第五位魔法を普通に扱えるようにすればよいと思いますよ。そうすれば、そもそも覚醒状態になることなく敵を倒せますし」
「それは確かに」
ということは、結局地道に第五位魔法を習得するほかないということだ。まあ、今までとやることが変わらないのはありがたい。僕がふとつるぎの方を見ると、つるぎは何やら深刻そうな顔をしていた。
「どうした、つるぎ?」
「え?ああ、ちょっとな……」
そしてそのまま口をつぐむ。僕とリータは顔を見合わせるが、つるぎがどうしてこうなっているのかわからない。しばらくして、つるぎがおもむろに口を開いた。
「前に海斗が言っていた、例の洞窟に案内してほしいのだが、お願いできるか?」




