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第三十七話 竜狩り見学会・前編

伸ばす系統を決めてから、僕はひたすらエーメス相手に汎用系と雷系の魔法を放ち(雷系魔法はほとんど効果がないが)、治癒系をつるぎに試し、対魔法系をリータに試す日々を送った。もちろん、ちゃんとリータの手伝いもしている。


第四位魔法の威力は絶大で、例の洞窟のドーム空間が壊れないが不思議なくらいだ。もうすでにいくつもの穴が壁に空いている。しかし、そのおかげで、発動時間も短くなったし、威力も増してきている。そんな状況なので、最近では第五位魔法にも着手しようと計画している。


そんなある日、つるぎが僕にこんな話を切り出してきた。


「なあ、海斗。私は明日から竜狩りの地に赴くことになった」


愛刀・神切を手入れしながらつるぎが言う。


「へえ!もう竜を相手にすることが出来るようになったの?」


確かにつるぎの元からしっかりとしていた身体は、ここに来てはるかに、何というか、たくましくなった気がする。まあ、そんなことを言うとつるぎは確実に膨れるので口にはしないが……とにかく戦士としての身体に仕上がっていると素人目に見てもわかるほどなので、ついに竜を狩る日が来たのだと思った。しかし、予想よりだいぶ早い気がする。だから僕は素直に驚いた。


「いや、それはまだだ。だが、その時期も近いからということで、見学をしに行くことになった」


「ふーん」


なるほど。僕はその言葉を聞いて納得した。いくら身体が仕上がっていたとしても、さすがに早すぎるような気がしていたから、ちょっと安心した。見学なら、つるぎも怪我しないだろうし。なんていうふうに半ば他人事のようにその話をとらえていたのだが、つるぎは


「そこでだ、海斗。君も一緒に行かないか?」


と言ってきた。


「え?僕が?」


思わず聞き返してしまう。


「ああ、そうだ」


つるぎの顔はいたって真面目だ。とても冗談を言っているような顔には見えない。


「なんで?」


僕は素朴な疑問を口にする。


「この世界に存在する生物の中で、間違いなく竜はトップの力を持っている。そんな竜を私たちが倒せるようになったら、きっと神を倒すのにも希望が持てる」


「なるほど……つまりは神を倒す前に竜を倒せなければ神なんか殺せないってことを言いたいのか?」


「そうだ。そして、竜を倒せるように今の内から行動を起こすことは決して損にはならないと思うのだ。……神を殺すために」


「まあ、確かにね」


つるぎの言いたいことはよく理解できた。確かに、神を殺すなんて言うバカげたことを最終目標とする僕たちは、とりあえず地上最強の生物くらい難なく倒せるようになっていないとダメだということは、全くその通りだと思う。


「だから、一緒に行かないか?」


つるぎは僕の顔を覗き込む。その顔には僕に対する信頼と、そして少しの不安が見えた。


「別に僕はいいけど……それ、ギルツィオーネとかも来るんだろう?許可とかとってあるのか?ただでさえ僕は魔法を使う男として嫌われているのに」


「いや、とってないが」


あっけらかんとつるぎが言う。


「じゃあ、無理なんじゃないか?」


「大丈夫だ。任せてくれ。君は明日、安心して私について来ればよいのだ」


あはははは、とつるぎは笑っているが、果たして大丈夫なのだろうか……?


「本当かよ……」


僕はそうつぶやきながらも、つるぎについていくことに、異論はなかった。


ということで、僕は急遽明日、竜狩りを見学することになった。




「ここがガルティアーゾ竜狩三番隊の拠点だ!今回はここで竜狩りが行われる。見学者は各自野営の準備を行うように!」


ギルツィオーネの号令と共に、第三十七回竜狩三番隊見学団はバラバラになり、野営の準備に取り掛かる。集落から三時間ほど歩いたところにある、岩山に囲まれた盆地のような場所には、簡易的に作られた建物が並んでいた。たぶんどれも家なのだろう。地面は集落のようには舗装されとらず、砂利のままだ。そして、真ん中には集落と同じく塔が建っている。しかし、高さはコチラの方が低い。どうやらここが、竜狩三番隊の拠点らしい。


第三十七回竜狩三番隊見学団の多くは、僕の知らない人物だった。僕がつるぎの様子を見学しに行った時にいた人たちがいるのだろうと勝手に予想していたが、よく考えれば、つるぎはハイスピードで竜狩りのためのプログラムを受けているのだ。僕が見学したのはまだ初級レベルだったはずだから、当然ここにはいないはず。ということは、今ここにいる彼らは、今まさに上級のプログラムを受けているのだろう。


「おい、貴様!さっさと準備をしろ……って、なぜ貴様がここに!?」


僕がそんなことを考えていると、ギルツィオーネが僕を見つけた。あ、しまった。見つかってしまった!


『バレなければ大丈夫だ。影を薄くしてついてこい』


なんて、つるぎにはめちゃくちゃアバウトな指示を受けてここまでたどり着いたが、ついに見つかってしまった。ついぼおっとしてしまった……


「あ、いや……」


僕が言葉に詰まっていると、


「私が連れてきた!」


というつるぎの声が聞こえた。


「……また貴様か、つるぎ」


ギルツィオーネはつるぎをにらみながら言う。


「別に問題はないだろう?」


睨まれても涼しい顔で受け答えするつるぎ。


「ふざけるな!何度勝手な真似をするなと言ったら気が済むのだ!」


「しかし、この見学は私と海斗の最終目標のための重要な要因の一つだ。止められても決行していた」


「……死にたいのか?」


ギルツィオーネは背中の馬鹿デカい剣の柄に手をかける。


「なんだ?竜狩りの前に人狩りか?」


つるぎも肩にかけてあった神切の柄に手を触れる。いつの間にか一足触発という空気だ。今回見学に来た男たちも何事だと集まってきた。そこに、


「族長。三番隊隊長のセシリオから伝言です」


という声があった。しばらくギルツィオーネは剣の柄を握ったままの体勢を維持していたが、やがて


「なんだ?」


とその声の主に問うた。その人物はギルツィオーネに近づくと、耳打ち。どうやら、機密事項らしい。


「なるほど。すぐに向かう」


とギルツィオーネは言うと。柄から手を放してつるぎに背を向ける。そして、


「好きにしろ。我々はこの期間、その男に一切の手助けをしない」


と言い、どこかへ行ってしまった。


「ふんっ。当たり前だ。海斗は私が世話する」


つるぎはギルツィオーネの背中に舌を出した後そう言った。


「さて、海斗。まずはなぜ見つかった?」


つるぎは急に僕の方を見てにらんでくる。


「いや、それは……ついぼおっとしてて……」


「まったく……まあいい。とりあえず、付いて来い」


つるぎはそう言うと、どこかに向かって歩き出した。僕もそれについてく。何だか大変な見学会になりそうだ……

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