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第三十六話 得意な魔法系統・決定

つるぎとどの魔法系統を得意分野にするかについて話し合った次の日。僕はさっそくリータを呼んで、すべての系統の第四位魔法のうち、簡単そうなものを順番に試してみることにした。そういうことでしたら、とリータは僕をあの洞窟に連れて行った。


洞窟に一歩足を踏み入れた途端、ひんやりした空気が肌に触れる。僕は思わず身震いしてしまう。リータを見ると、彼女は何食わぬ顔で洞窟をぐんぐんと進んでいた。この冷たさを、なんとも思っていないようだ。僕の身体だけが、この冷たさに反応している。きっと、僕はこの洞窟に足を踏み込むことで、エーメスを、エーメスとのあの戦いを思い出し、心の底で恐れているのだろう。


だけど、今日はエーメスと戦うわけじゃあない。大丈夫だ。僕はそう自分に言い聞かせ、一度深く呼吸する。先ほどまで僕の身体を震えさせていた空気が肺の中に飛び込んでくる。酸素が血液を通して体の中を駆け巡り、脳にまで到達する。その瞬間、僕は少しだけ、穏やかな気分になった。そしてリータの後を追いかけた。


相変わらず広々とした空間が突如として目の前に現れる。そして、その空間には丘のようにそびえるエーメスの姿。


「さあ、カイトさん!ここなら何も気にせず第四位魔法を使えます。存分に吟味してください!そして私に第四位魔法をたくさん見せてください!」


「なんだ、やっぱり第四位魔法が見たかったんじゃないか」


「えへっ」


リータがペロッと舌を出しながら言う。可愛い。


「じゃあ、安全な位置に移動して、危なくないようにして見てて」


「はい!」


元気な返事と共にリータは僕から離れていく。僕はその間に、本をめくり、最初に放つ魔法の呪文を確認する。


「カイトさ~ん!大丈夫ですよ~!」


結構な距離離れた所からリータが僕に声をかける。


「わかった!じゃあ、行くよ」


僕は目をつむってイメージする。超速で飛び出す槍の姿を!


断槍凡鋼カールラ


汎用系第四位魔法「断槍凡鋼カールラ」を発動。僕の掲げた右手に長さ1.7メートルほどの槍が超速で生成される。そして僕が腕を振り下ろすと、豪速で槍が発射。誰もいない方向に向かって飛ばされた槍は、そのまま壁に激突した。ドンッという音がドーム状になっているこの空間に響き渡る。槍が激突した際の砂煙が消えると、壁の状態が目に入った。壁には亀裂が入り、岩がボロボロと崩れている。それもそのはずだ。「断槍凡鋼カールラ」はエーメスの肩部分を貫いた魔法だ。むしろ壁が壊れていないので、僕は安心した。ここの空間を形成している岩々はそれほどもろくないってことになる。だったら、僕の魔法試し打ち大会はまだ終えなくても良いということだ。僕は続けて二つ目の魔法を放つ。


焔魔白厳ザリチュ


炎系第四位魔法「焔魔白厳ザリチュ」によって、白い炎が放射される。太陽と同じ色をしたその炎が、勢いよく地面の土を溶かしていく。


「あっつ!?」


僕はそのあまりの熱に驚き、魔法を中断してしまう。空気がまだ熱い。灼熱どころではない。僕は急いで水系第二位魔法「小水タキミー」を連続で発動。少量の水を発生させる。瞬時に蒸発する水たち。僕は構わず発動し続けた。しばらくすると、空気がようやく灼熱程度の暑さに下がる。


「大丈夫ですか~?」


遠くからリータの声が聞こえる。ということは、今の僕の熱いという声はあそこまで聞こえていたということだ。自分ではそんなに大きな声を出したつもりはなかったが、どうやらめちゃめちゃ大きな声を出してしまったようだ。ちょっと恥ずかしい。僕はその恥ずかしさを悟られないように、リータに向かって軽く手を振って大丈夫なことをアピールする。


僕はいまだに熱いその場所から離れて、次の魔法を放つ準備をした。




しばらくして、僕は一応、一部の系統を覗いたすべての魔法を試し終えた。結論としては、第三位魔法までにもある系統である汎用系、水系、炎系、雷系、治癒系の第四位魔法は問題なく発動できた。しかしながら、炎系は熱さによって途中で発動を止めたり、水系も思ったほどの威力が出なかった。逆に、汎用系と雷系の魔法では、徳のこれと言った問題もなく、攻撃魔法というのにふさわしい威力を出せた。


そして第四位魔法から追加されている系統の魔法では、光系、闇系、怪奇系は問題なく発動できた。また、幻影系、非汎用系、対魔法系、変異系はリータに手伝ってもらい、対人戦で確かめることにした。なぜなら、これらはすべて対人や対魔法、対自分用の魔法であるからである。


召喚系の魔法は発動自体はできたが、何も召喚することはなかった。というのも、召喚系の魔法は自分で捕まえた魔物や野生生物を異空間に閉じ込め、それらを呼ぶための魔法であるからである。僕は魔物も野生生物も今まで捕まえたことがないので、召喚できなかったのだ。


「じゃあ、対人戦の相手よろしくね、リータ」


「はい!頑張ります!」


ということで、やたらと頑丈な壁に向かって魔法を放つのはこれでおしまいにして、今度はリータに手伝ってもらい、残りの魔法系統を試すことにした。


「じゃあ、最初は幻影系から……『濃影分麓身メーミョウ』」


僕は幻影系第四位魔法「濃影分麓身メーミョウ」を発動。この魔法は相手の目に自分を多く見せるという、いわばお手軽に影分身が出来るという魔法だ。しかし、自分ではどうなっているのかわからないため、リータの反応が重要になってくる。


「おおお~!カイトさんがいっぱい!」


リータははしゃいだように叫んでいる。ということは、とりあえず魔法の発動には成功しているみたいだ。


「どのくらいの人数僕が見えている?」


僕はリータに尋ねる。


「えっと……六人です!」


結構な数見えているんだな。せいぜい四人くらいだと思っていたけど、そのくらい見せられるのであれば、相手をかく乱させるには便利かもしれない。しかし、これは超高速で移動して分身を作る、いわゆる影分身ではないので、魔法を同時に放ったりはできないのである。これが出来たらめちゃめちゃ優れた魔法になるのだが、そううまいことはいかないみたいだ。


「じゃあ、どれが本物の僕だかわかる?わかったら本物の僕に触れてみて」


「はい」


僕がそう言うと、リータは僕がいる方向とは違う方向に向かって歩いていく。お?リータ、そんなところに僕が見えているのか。リータは次々と違う空間に向かって歩いていく。そして、最終的に僕の所へ。しげしげと僕を見つめるリータ。ちょっと、というかだいぶ恥ずかしい。そして、


「わかりました!」


と言うと、そのまま僕の肩をポン、と叩いた。


「これがカイトさんですよね?」


「あら、正解」


僕は「濃影分麓身メーミョウ」をストップする。


「あ、消えた」


魔法をストップさせたのと同時にリータが言う。たぶん、分身が消えたのだろう。


「なんでわかったの?」


僕はリータに尋ねた。


「ああ、それは、カイトさんの目ですよ」


「目?」


「はい。他の分身は私が近づいてきても目が泳いでいませんでしたけど、本物のカイトさんは目が泳いでましたから」


「あ~、なるほどね」


僕、目が泳いでいたのか。確かに、リータにまじまじと見られてかなり恥ずかしかった。だから、無意識のうちに目線が動いてしまっていたのだ。こういう細かいところで本物の自分がバレてしまうのか……それに、自分では分身がどこにいるのかわからないところも厄介だ。もしかしたらわかる方法があるのかもしれないが、この系統の魔法は扱うのが難しいというのが僕の正直な感想だ。


「じゃあ、次いこうか」


「はーい」


「じゃあリータ。僕に軽めの魔法を打ってみて」


「え?大丈夫なんですか?」


「うん。次に試すのは対魔法系魔法だから」


「なるほど……」


「軽くで頼むよ!」


「わかりました」


リータはそう言うと、右手を胸の高さまであげて「斬矢凡ヴァーユ」と唱えた。その瞬間、僕も対魔法系第四位魔法「入入邪雰思アータヒメー」を発動。リータの魔力を阻害する。そして、十分な魔力がないまま矢が発射。僕は軽く身体をひねってそれを避けた。


「今のどんな感じだった?」


僕はリータに魔法発動時の感覚を尋ねる。


「そうですね。途中まではうまくいっていたんですけど、やっぱりカイトさんが唱えた瞬間からうまくいきませんでした」


「なるほど。だから、威力の弱い矢が放たれたんだな」


「たぶんそうです」


対魔法系の魔法は本当に魔法に特化した魔法が多い。中でも相手の魔法発動を邪魔するものが多いのだが、第四位魔法でもここまで効果があるとは思いもよらなかった。これは習得しておくと便利かもしれない。


「わかった、ありがとう。じゃあ、次にいこう」




こうして残り四つの魔法系統もすべて試し終えた。非汎用系魔法は普通に使えたが、効果はいまひとつ確認できなかった。また変異系の魔法は、まだイメージがつかめていないのか、それとも僕の身体自身が拒んだのか、発動することが出来なかった。


「結局、何にするか決まったんですか?」


洞窟を後にした僕たちは集落に帰るために草原を歩いていた。空はまだ、少し明るい。


「そうだね。まあ、汎用系と雷系を攻撃の魔法の軸として、そこに治癒系と対魔法系を加えて、ほかの系統の魔法はちょこちょこと出来るようにしようかなって感じだね」


「なるほど、流石です!確かに、カイトさんほとんどの系統の魔法を発動させていますからね。使える魔法はいっぱいあったほうが良いですもんね!」


「うん。あ、そういえば、ほかの魔術師って得意な系統の魔法ってどのくらい持ってるの?」


「人にもよりますけど、平均して二つくらいだと思いますよ」


「ということは、四つを目指している僕は多いってことか」


「まあ、そうですね。だけど、カイトさんならできますよ!」


リータは握りこぶしをブンブン降って僕を応援してくれる。


「……うん、そうだね」


僕は上りかけている少しだけ光る月を見ながらそう返事をした。

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