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第三十五話 一人で戦うわけじゃない

「ただいま~」


「あ、おかえりなさい、つるぎ」


「おお、もう帰っていたのか。珍しいな」


僕が家でどの魔法系統を得意分野にするか悩んでいると、つるぎが帰ってきた。つるぎは愛刀の神切をテーブルの上に置き、そのままドカッと椅子に座る。


「はー、今日もくたくただ……」


「お疲れ。じゃあ、治癒魔法かけるから」


「うむ」


僕は読んでいた本を閉じ、つるぎの後ろに立つ。最近は魔法による現象を反映させることが出来る範囲も広がってきた。


舞天癒輪舞サーンダルーフォーン


治癒系第三位魔法「舞天癒輪舞サーンダルーフォーン」を僕が唱えると、白っぽい光がつるぎの身体全体を包む。それと同時につるぎの肌に合った無数の擦り傷がシュウシュウと音を立てながら消えていく。


「うわ~……間近で見ると、やっぱり傷の治っていく様を見るのは気持ち悪いな」


つるぎが自分の腕の傷を見ながら言う。


「じゃあ、見るなよ」


「いや、でも、見たいのだ」


「なんだそれ」


「だって、自分の生肉を見るって、すごい機会じゃあないか。わかるだろう?この気持ち!」


「わかんないけど」


「ええ?嘘だ!生肉って普段見られないけど、それが見られているという奇跡!圧倒的に死が近いのに、そこに確かに息づいている生の美しさ!それがわからないというのか?!」


「え、うん」


確かにつるぎは昔から筋肉の模型とかが好きだったけど、まさかここまでだったとは……僕は適当に返事をしながら、治癒系第三位魔法「痛経鎮寓侃イェークン」の準備をする。


痛経鎮寓侃イェークン


先ほどと同じようにつるぎの身体を白い光が包む。


「なぜ、その美しさがわからないのだ……」


僕が魔法をかけ終わると、つるぎは少ししょんぼりとした様子で神切を手入れし始めた。どうやら、生肉の美しさを語り伝えるのはあきらめたらしい。僕も読みかけの本を再び読み始める。さて、どの系統が良いだろうか……


「何を読んでいるのだ?」


つるぎが僕に背を向けて神切の手入れをしながら聞いてくる。


「え?ああ、これ?これは、第四位魔法の比較的簡単な部類の魔法が系統別に載っている本だよ」


「ほう。第四位魔法か……強いのか、それ」


「まあ、一応上位魔法には入ると思うよ。六番目が最終位魔法だし」


「なるほど。その第四位魔法を習得するためにその本を読んでいるということか」


「それもそうなんだけど、とりあえずどの系統を重点的に習得するか決めようとしているんだ」


「国数英の三教科から得意科目を作ろう、見たいな感じか?」


「まあ、間違ってはいないけど」


「どんな系統があるのだ?」


手入れが終わったらしいつるぎは、再び神切をテーブルに乗せ、椅子に座るとそう聞いてきた。


「珍しいね、そんなに魔法のことを聞いてくるなんて……興味あるの?」


「それなりにはな。なにせ、一緒に戦う相棒が得意分野を決めるのだ。興味がない方がおかしい」


ああ……たしかに。つるぎのその言葉を聞く今の今まで、すっぽりと僕の頭から抜け落ちていたけど、そういえば、僕一人で戦うわけじゃあないんだ。今はそれぞれ別々に訓練しているけれど、いずれはつるぎも一緒に戦うことになる。すっかり忘れていた。ということは、つるぎと一緒に戦うということにも意識しながら得意な魔法系統を決めなければならないということだ。


「ところで、得意な分野はいくつほど作れるのだ?五教科中三教科か?」


「いや、割合的には五教科中一教科だと思う」


「なんだ。それでは過酷な受験戦争を突破できないぞ!?」


「受験ではないけど……でも、確かにその割合だと戦いにおいては不利になるかもしれないな」


「まあ、五教科中一教科しか得意科目がないのなら、ほかの教科で足を引っ張らないように、それらをどれもそこそこの実力にすればよいだけだ」


なるほど。つるぎの言うように、他もそこそこ使えるようにしておくという手もありだな。そもそも、僕がどのくらい得意系統を作れるかはわからないし、僕にそこまでの能力があるかもわからない……そういえば、ほかの魔術師ってどうしているのだろうか?


「ふふっ。ずいぶん悩んでいるな」


つるぎが僕の顔を見ながら言ってくる。


「え?まあね」


「久しぶりだ。君のそんな顔を見るなんて。高校受験の時以来ではないか?」


「あー、そうかも」


たしかにあの時は必死だった。奨学金枠を目指していたし。なにより、僕と一緒に高校に通うことを楽しみにしていたつるぎが悲しむところは見たくなかったから。


「まあ、私の要望としては、治癒魔法がすごくなったら安心だな。前衛の私が怪我をしたら即座にそれを治せるようになれば、とりあえずは死なないだろう」


「……そうだね」


「それとも二人そろって前衛になるか?確か、攻撃系の魔法も使えるのだろう?そのポンチョの元の姿をしたやつを倒したって話だし。それに、古代兵器とも戦ったのだろう?」


「うーん……そうだけど……」


僕はつるぎの言葉を受けて、さらに深く悩んでしまう。たしかに、僕たちはこの世界で生き残ることを第一目標にしている。それを達成しながら最終目標を達成するためには、治癒系魔法を向上させることは必須だろう。だけど、攻撃魔法も必要だ。今のところ魔法を使うような魔物には出会ったことがないけれど、もしそんなやつに出会ったら、魔法で対抗しないといけなくなるだろう。


「まあ、最終的には海斗の好きにすればよい」


つるぎが僕の肩をたたきながら言う。


「さっきは私が怪我をしたら治してくれと言ったが、そもそも私が敵の攻撃に当たらなければどうということはない。そのために私も訓練している。海斗、これは君自身の選択だ。私のことを中心にして考えなくても良い」


「……僕は……」


つるぎは笑って僕の目の前に掌を出し、言葉をさえぎる。


「さて、私は着替えて湯浴みをしてくる。その後晩御飯にしよう」


つるぎはそう言って、二階に上がると、すぐに戻ってきてそのまま外に出ていった。僕は、一人椅子に座ったまま、つるぎが帰ってくるまで考え事をしていた。

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