第三十二話 身体も鍛えないといけない
エーメスのいる洞窟から集落に帰るまでの道すがら、リータは先ほどよりも気分が落ち着いたのか、先ほど僕が死の淵に瀕した際に放った第四位魔法の話をし始めた。
「カイトさんが最後に放ったあの魔法って、何なんですか?」
「ああ、あれか?あれは、確か汎用系第四位魔法の『断槍凡鋼』だった気がするけど……」
「第四位魔法ですか!?すごい、いつの間に……?」
「いや、あれは意図してあの魔法を打ったんじゃなくって、たまたま勝手に体が動いたからというか、頭が動いたからというか」
「それでもすごいですよ!一体いつ呪文を覚えてたんですか?」
「覚えてたわけじゃないけど、あの呪文を見たのはつい最近だよ。『傀儡の精製と土に魂を吹き込む術 』を読む前に読んでた本に書いてあった気がする。その本の題名が何だったかは覚えてないけど」
「そうなんですか。でも、よかったです。カイトさんが覚えていたのが攻撃系の魔法で。これが治癒魔法とか、幻影系の魔法だったら、もしかしたらカイトさん死んでいたかもしれませんから……」
「確かにそうだな……というか、幻影系とかあるんだ。知らなかった」
「ありますよ。第四位魔法からは、第一位から第三位の魔法にはなかった幻影系や非汎用系、対魔法系などに分類される魔法が出てきます」
「へー、そうなんだ。なんか、急にいっぱい出てくるんだな」
「そうですね。第四位魔法からは要求される魔力や技量が高い代わりに、絶大な力を発揮できるものが多いんです。基本的に第四位魔法からは戦闘でしか使用されません。なので、先頭に特化したモノやその魔法に対抗するための魔法なんかが多くあって、第四位魔法から急に魔法体系の種類が多くなるんです。ですので、闘いをするような魔術師、つまり戦闘魔術師を目指すには第四位魔法を習得してからが本番なんてことも言われているんですよ」
「なるほどなぁ……」
第四位魔法からは戦闘用の魔法が多いのか。確かに、僕が放った、あのエーメスの岩を貫通するほどの槍を発射させる魔法は、戦闘用魔法以外の何物でもない。戦争が起こったから科学技術が発展したなんて話があるけれど、この世界の魔法も、戦いによって発展しているんだな……
そんなことを思いながら歩いていると、集落の入り口に到着した。
「やっと着いたな。なんだか行きよりも長く感じたな。普通は帰りの方が早く感じるもんなんだけど」
「そうですね。私もやけに長く感じました。いつもならもっと早く着いているはずなんですけど」
リータが心なしか疲れたような顔で言う。ああ、そうか。僕は気が付く。行きが早くて帰りが遅く感じた理由。そういえば、行きはリータがせかせかと歩いてたから早く感じたけど、帰りはゆっくり歩いていたからか。
リータを彼女の家まで送り、僕が家に帰ると、すでにつるぎの姿があった。今日は珍しく早く帰宅していたらしい。
「おお、おかえり、海斗」
つるぎは愛刀である神切を手入れし終えたところなのか、ちょうど鞘に刃を入れているところだった。
「ずいぶん遅くに帰ってきたな。何処へ行っていたんだ?」
「ああ、その話なんだけどさ……」
僕はつるぎに、今日起こったことを話し始めた。
「……ってことがあったんだ」
僕がいつもの通り、つるぎに治癒魔法をかけながら今日起きた出来事を話す。
「ほう、なるほど。人型の古代兵器か……それにしても、話を聞く限り相当強かったらしいな。そのエーメスという古代兵器は」
「そうだね。メチャメチャ強かった。僕の第三位魔法では全く太刀打ちできなかったから……もっと強くならないと」
「うむ。まあ、魔法の強さも確かに重要だ。それもそうなんだが、君の話によると、まともに相手の攻撃も回避できなかったようだな」
「そ、それは……そうだね」
「君も、もっと普段から体を動かすべきなんじゃあないか?流石に私並にトレーニングしろとは言わないが、せめて格闘の基本や、ガルティアーゾの戦士が持つ基礎体力位は、魔法を使う君でも持っていた方が良いと思うぞ?」
「……おっしゃる通りです」
本当におっしゃる通りだ。正論過ぎてぐうの音も出ない。
「だろう?身体がすべての資本なんだから。特に私たちは、元の世界に帰るまで絶対に死んではならない。身体はいくら鍛えていても損にはならない。それどころか、もしかしたら強い魔術師と戦うようなことになった時には、魔法で勝てなくても殴り勝ち出来るかもしれないからな」
「流石にそれは無茶じゃないか……?」
「まあ、とにかく。戦える体にはしておいた方が良い。なんだったら、身体を鍛えてほしいと私からアニェッロあたりに話を通しておこうか?」
「そうだね……そのアニェッロが誰だか知らないけど……じゃあ、よろしく頼むよ」
「うむ、任せておけ」
つるぎは深くうなずく。
「ああ、そういえば、先ほどの海斗の話で思い出したが、この前ガークアを私一人で倒したぞ」
「ガークア?何それ?」
「こちらも人型の生物だ……怪物と言っても良いかもしれんな。さすがに君が対峙したエーメスよりはサイズは小さいが、確か2メートル半くらいの身長があってな。体中毛むくじゃらですすけた茶色みたいな色をしているのだ。ガルティアーゾの男たちよりも筋肉隆々で、とにかく威圧感が半端じゃなかったな。顔なんかは人間に似ても似つかない不細工な顔で、ファンタジー映画に出てくるトロールみたいな顔をしている。しかし、トロールほど知性が弱くなく、たまにこざかしい手を使ってくるのだ……ああ、思い出しただけで腹が立ってきた」
「でも、倒したんだろう?」
「そうだな。倒さなければ私が死んでいた」
「そうだたのか」
「ああ。あの時首より少しでもずれていたら、私は今頃ここにはいなかったな」
「ってことは、首切ったの?」
「うむ。スッパリ真っ二つに切れたぞ」
「え!?首切断したの!?」
僕はその言葉に驚く。ガルティアーゾの男たちよりも筋肉隆々な怪物の首を一刀両断してしまうなんて……
「そうだな。私も驚いた。これもひとえに神切の切れ味が良かったことによるものだ……」
「そうなんだ……
いや、本当に驚いた。まさか、つるぎがそんなに強くなっていたなんて。僕は自分の手を見つめる。やはり、最低限戦える体にしなければいけないみたいだ。




