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第二話 海斗

僕たちの通う私立海琳高等学校はいわゆるおぼっちゃまお嬢様学校というわけではないが、それなりの数お金持ちの子息子女が存在しており、その人たちの家からの援助によって運営を成り立たせている、らしい。本当のところはどうなっているかわからないが、確かにほかの学校に比べてスコラシップ制度が充実しているし、学校の設備もちゃんとしている。僕がこの学校に通えているのも、この隣にいるつるぎのようなお金持ちのおかげである。というのも、僕の家は貧しくもないが特別裕福というわけでもなく、この学校に三年間通うためのお金があるかと聞かれればノーと言わざるを得ないような状況だ。しかし、つるぎの勧めもあって、つるぎに勉強を教えてもらいながら自分なりに必死に勉強し、この学校の支給型奨学金の枠を勝ち取ることが出来たのだ。校門をくぐりながら僕はなにげなくつるぎに聞く。


「なあ、そういえば、どうしてつるぎは僕にこの高校を勧めたんだ?」


「おや?言ってなかったか?ずっと一緒にいたいからだぞ?」


「ぶっっ!?」


思わずマンガみたいに吹き出してしまった。またつるぎがニヤニヤと顔を歪ませる。


「小さい頃から一緒だったから高校も一緒の方が楽しいと思って君を誘ったんだぞ?何か噴き出すようなところがあったか?」


「あ、いや、そういうことね……別にないよ……」


「そういうことねとはどういうことだ?……あ、まさかずっと一緒にいたいというのが私からの愛の告白にでも聞こえたのか?」


はははっ、思春期め、と楽しそうに笑いながら、ひとしきり僕をイジることにも満足した顔をした。昇降口に到着すると、僕たちは下駄箱で上履きに履き替える。


「では、私は今からトイレに行くのでここでしばしお別れだ。くれぐれも遅れた理由は『おばあさんを助けていたから』だと言うんだぞ?」


「へーへーわかったわかった。早くトイレに行って来いよ。じゃあな」


僕はつるぎと別れると、自分の教室へと向かった。


教室まで行くと、黒板にチョークでものを書いている音が廊下まで響いているのがわかった。僕は教室の後ろの扉から、音をたてないようにそっと教室へ入る。


「おはようございます新山君」


「っ」


カタカタと黒板にものを書いているその背中から声が発せられたので、軽く驚き、一瞬立ち止まってしまった。よく見ると古典の中谷ではないではないか。中谷だと思ったから多少の遅刻は大丈夫だと思っていたがよりにもよって英語の桜井だとは。というか、どうして桜井がここにいるのだ?黒板を見ると、英語が書かれているので、どうやら今は古典ではなく英語の時間らしい。確かに今日の時間割には英語があるが、なぜ一時間目の今に授業を行っているのだろう。


そんなことを考えていると、カチャン、とチョークを置く音とともに桜井がまっすぐ僕の方を見てくる。


「おはようございます。新山君」


「お、おはようございます」


「遅刻ですよ?どうしましたか?」


「ああ、えっと、その、学校に来る途中でおばあさんを助けていて……」


「ほう、それは素晴らしいことをしましたねぇ、新山君」


「はあ……」


「ウチのクラスの九重さんもあなたと一緒におばあさんを助けたのですか?」


「えっ……?まあ、いや、はい」


いきなりつるぎの名前を出されて動揺してしまった。しかし、桜井は


「そうですか」


とおもむろに名簿を取り出し、


「本当は遅刻ですけど、出席にしておきますから安心なさい」


と言った。


「あ、ありがとうございます」


「お礼はその助けたおばあさんに言いなさい。さあ、席について」


「あ、はい……」


僕が席に着くと、桜井は何事もなかったかのように授業を再開した。この授業で一番多く指名されたのは、当然のように僕だった。



「いや~災難だったなあ、海斗」


一時間目の授業の後、そういいながら僕の席にニヤケ顔で近づいてきたのは高校一年の時からの友達である博樹だった。


「本当だよな……一時間目は古典だから多少遅れても大丈夫かなと思って行ったらこのザマだよ」


「ほんと、可哀そうなヤツだな、お前は」


「ああ……そういえばなんで一時間目が英語だったんだ?」


「ああ、なんか中谷が病院に寄ってから来るらしくって、急遽英語になったんだと」


「ふーん、そうか。まあ中谷もおじいちゃんだしな……」


「そうだな……で、お前の遅れた本当の理由ってなんだよ?」


「は……?言っただろ?おばあさんを助けたからだって……」


「本当にそんな理由なのか?」


「そんなってなんだよ……本当にその理由だよ。つるぎが助けるって言うから、しかたなくさ」


「ああ、九重さんが助けたのか……さすがだなぁ、生徒会長は」


いや、一応僕も助けたことになってるんだけども。いつの間にかつるぎだけになってないか?


「…………」


「あんだよその目は」


「いや、別に。ただ、そんなに尊敬するような程のやつじゃないぞ、つるぎは」


「お、なんだ?嫉妬か?『俺が一番九重さんを知ってますよ』アピールか?」


「そんなんじゃねーよ」


「おいおい、別に隠すこたぁ無いじゃないか。そりゃお前も男だ。しかも、相手は学校一の秀才で美少女と来たら、つまりはそういうことだろ?」


「どういうことかはわかんないけど、そういうことではないということはわかる」


「またまた、恥ずかしがっちゃってぇ~」


「お前が何を言っているかわからん」


僕は席から立ち上がると、博樹を置いてトイレに向かった。博樹との会話で、僕が周りからどう思われているのか、何となくわかっってしまった。僕は、別段つるぎに対して特別な感情があるとは思っていないが、どうやら周りはそうじゃないらしい。なんだか急にこっ恥ずかしくなって、何となく早足になりながらトイレへと向かった。

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