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第十三話 どうやら魔力が多いらしい

「なんでそんなに魔力があるんですかって言われても、僕にもわかんないよ」


僕はようやくリータによる揺すり攻撃から逃れるとそう答えた。


「おかしいですよ!だって、カイトさんが元居た場所では魔法は使われていなかったんですよね!?」


「そうだけど……」


「じゃあ、どうしてこんな量の魔力が……?もしかして、私たちが知らない魔力を上げる食べ物を食べていたとか?」


「いや、そんなものは食べてなかったと思うけど」


リータはギャンギャンという擬音がふさわしいくらいに騒いでいる。確かに、僕が「明明光アノク」を唱えた時の発光はまぶしかった。しかし、いくら光量が多かったからと言って、それがすぐに魔力の量と直結するとは限らないではないか。僕があれだけ光らせたのも、偶然なのだろうと思う。僕がそう言うとリータは


「そんなわけないです!この方法はガルティアーゾに古くから伝わる魔力を測る方法なんです。試行回数は多いし、この方法を試して、実際に魔力が多かったことがわかった人は何人もいます。何だったら、もう一度『明明光アノク』を唱えてみてください!」


「うーん……まあ、それは後にして。じゃあ、別の世界から来たと名乗る人物がこの方法で魔力を測ったことは?もしかしたら、つるぎだって僕と同じくらいの、いや、それ以上の魔力があるかもしれないだろ?」


「確かに……言われてみればそうですね……では、つるぎさんが戻ってきたらそれを確かめてみましょう!つるぎさんとカイトさんが同時に唱えれば、偶然か必然かわかりますよ!」


「うん……まあそうだね」


僕は偶然だと思うんだけどなぁ。もしくは直前にLED電球のことを考えたのが良かったのかもしれない。消費電力が少なくて明るく光るLEDを想像して、少ない魔力でも明るく光らせることが出来たのかも。まあ、もしそうだったら、ある意味新しい発見なのかもしれないな。



リータに案内されながら、僕は先ほどまでいた塔からそれほど離れていない場所にある建物に着いた。周りの建物と同じような形をしており、灰色ぽい色をした硬そうな石で建てられている。これはもしかして家なのか?


「ここはこれからしばらくの間、カイトさんとつるぎさんに泊まってもらうための家だそうです。さっき私も聞かされました」


「この家丸ごと?この中にある部屋とかじゃあなくて?」


「はい、そうですよ。何個か空き家があるので、気にせず使っちゃって大丈夫だと思います」


「そうなんだ……」


ただでさえ人口があまり多くなさそうな集落なのに、空き家とかがあるんだな。大丈夫なのだろうかと、勝手に心配してしまう。リータが玄関のドアを開けると、そこには見覚えのある靴があった。


「おっと、ここは土足厳禁だぞ!」


玄関の奥を見ると、声の主は裸足で床を掃除しているつるぎだった。


「つるぎ」


「おかえり、海斗……おや、リータも一緒だったか。よく来たな」


つるぎはさっそくこの家の主のような振る舞いをしている。……床を雑巾がけしながらだけど。


「なんで土禁なんだ?」


僕は靴を脱ぎながらつるぎに尋ねる。


「それはもちろん、私が靴を履いたまま生活するのが嫌だからだぞ」


「ふーん、つるぎってそんな裸足が良かった人だっけ?まあ、わからなくもないけどさ」


「当然じゃないか。畳が死ぬほどある空間で育ったから、スリッパをはくのも本当は嫌だぞ。学校では皆にバレないように授業中にこっそり上履きを脱いでいる!」


ドヤ顔で答えるつるぎ。


「いや、皆上履き脱いでるのは知ってたと思うけど」


つるぎが上履きを授業中に脱ぐ癖は、小学校のころからすでにあった気がする。上履きを脱いだ後、その上履きをつま先で引っ掛けてブラブラさせている姿を後ろから見ていた記憶がある。


「え、嘘……?知らなかった……」


つるぎはショックを受けたような顔をした。しかし、すぐに気を取り直して言う。


「まあ、とにもかくにもここは私たちの家らしい。だから、土禁でも何の問題もないだろう?」


「うん、別に何の問題もないよ」


ふとリータの方を見ると、何やら不思議そうな顔をして僕たちを見ていた。


「どうしたの、リータ」


「あ、いえ……その、靴を脱いで家に上がるなんていう習慣がないもので、少し戸惑ってしまいました……けど、これがお二人にとっては普通なんですね?」


「うん、まあそうかな。つるぎみたいに裸足主義の人は僕たちのいた社会の中でも珍しい方だとは思うけど」


「そうなんですか……じゃあ、お邪魔します!」


「いらっしゃい、リータ。床は私が完璧に掃除したから足裏が汚れる心配はないぞ」


つるぎが誇らしげに言う。


「うわあ……なんだかおもしろい感覚です……いつもは靴で歩いているところを裸足で歩くなんて」


「この解放感がたまらないだろ?」


「はい!何だかいい気分です!」


女子二人が裸足談議に花を咲かせている間、僕はどのような間取りになっているのかを確かめるべく、この家を探検することにした。


今いる一階部分には、玄関があり、少し歩いたところにダイニングのような空間がある。大きめのテーブルと椅子が四脚あるので、たぶんここがいわゆるダイニングなのだろう。その少し奥には台所がある。すぐ近くに大きな水瓶が二つあった。さすがにガスコンロみたいなものは無く、薪で火を起こすタイプだった。火を使う部分だけ色が他のモノとは違う石が使われている。少し黒みを帯びている石が材料に使われており、そこだけ冷たい感じがある。何か意味があるのだろうか?ダイニングに戻ると、階段があることに気が付いた。登ってみると、部屋が二つあることがわかった。それぞれの部屋は同じようなつくりをしており、ベッド、机、椅子、棚が置かれているだけの簡素なつくりをしていた。これでこの家の部屋は全部制覇しただろう。この家は2DKってやつだな。そういえば何かが足りない気がする……ああ、トイレだ。確かに、水道が走っている様子はなかったから、トイレもないだろうと思っていたが、だとすればいったいどこにあるのだろう。あとでリータに聞いてみるか。


僕が二階からダイニングへ戻ってくると、つるぎとリータの裸足談議にも一区切りがついたようだった。僕はつるぎに尋ねた。


「そうだ、つるぎは呼ばれた後何してたんだ?」


「主に話し合いだな。内容としてはここの集落にどれくらいいてもいいのかどうかという話だな。大体半年間はここにいてもいいそうだ。それと、竜狩りの訓練に参加させられたぞ」


おお。なんかサラッと流された気がするけど、ここに半年間もいていいことになったのか……すごい交渉力だな、つるぎは。


「半年間もいていいのか。わかった。……それと竜狩りの訓練ってなんだ?」


「ああ。まあ、大まかに言うと戦士になるための訓練だな」


「それをつるぎが受けるの?」


「ああ、そうだ。この世界には少なくとも人間以外に人間を襲う生物が存在することがわかったんだ。何かあった時に対処できる力は必要だろう。ただでさえ私たちの最終目標は神を殺すことなんだからな」


「まあ、そうだけど……大丈夫そうなのか?」


「まあ、問題ないだろう。どうやら女性が剣を振るうのは珍しいらしくてな。こちらから打診したんだが、思ったよりすんなり稽古をつけてもらうことになったよ。ギルツィオーネは渋い顔をしていたがな」


「へー、そうなんだ……怪我だけはしないように、無理せず頑張ってくれよ」


「もちろん……それで、君はいったい何をしていたんだ?リータと二人で」


何となく怒気を孕んだ声でつるぎは僕に尋ねる。


「僕?僕は普通にリータに魔法を教わってたけど」


「ほう、魔法をねぇ……」


「あ、そうだ!思い出した!」


リータがいきなり大声で叫ぶ。


「なんだよ、リータ。何を思い出したんだ?」


「カイトさん、つるぎさんにも魔法を教えないと!」


「ああ、そういえばなんか言ってたな」


そう言ってリータはつるぎに向かっていきなり魔法についての授業を始めだした。いきなりの授業につるぎは面食らうかと思っていたが、意外にすんなり授業を受けている。それどころかさっそく質問までしている……つるぎの順応性と頭の回転の速さには舌を巻くばかりだ。


「なるほど、だいたい理解した。つまり私も魔力を測ればよいのだな?」


しばらくすると、授業とその他のあらましの話は終わったらしく、つるぎがそんなことを言った。


「じゃあ、さっそくやってみましょう。まずは私がお手本を……」


先ほどと同じようにリータが唱える。


明明光アノク


暖色系の光がダイニングを染めあげる。


「おお、すごいな」


つるぎがつぶやく。しばらくして光が消えると


「じゃあ、つるぎさんもやってみてください!」


とリータが言う。


「では、やってみるか」


つるぎもノリノリで右手を差し出す。そして、ひと呼吸してから


明明光アノク


と唱える。すると、白い光が現れて、リータと同じくらいの強さにまで光った。


「おお!光った光った!」


つるぎは嬉しそうに言う。しばらくして光が消えると、リータは


「つるぎさんは、平均的な女性の魔力の量と同じくらいですね……」


と言った。


「む、今のでそんなものか」


「はい。でも、私もこれくらいですし、こんなものだと思いますよ。普通は」


僕のことをジト目で見ながらリータが言う。


「リータによると海斗の魔力の量はすごく多いらしいじゃないか。どのくらいなのか見せてくれないか?」


つるぎは僕に言う。リータも無言で首をブンブン縦に振っている。


「たぶん、さっきのは偶然だぞ?」


と、本当に偶然とは思いつつも、さっきみたいに光らなかったら何となく恥ずかしいので保険を掛けながら目を閉じる。そして今度はLEDのことは考えずに、普通に掌から光が発せられる場面を想像する。そしていい感じのタイミングで唱える。


明明光アノク


すると、さっき僕が出したのと同じくらいまばゆい光が僕の掌から発せられる。僕は思わず目をつぶってしまう。


「うわ、まぶしっ」


つるぎの声が聞こえる。僕は掌を握って光を消す。


「ほら、やっぱり!カイトさんの魔力が多いんですって!」


リータが興奮したように言う。

「……みたいだな」


自分の掌を見つめながら僕はそう答えた。どうやら僕は人より魔力が多いらしい。

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