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第百十五話 もとの世界へ・結末

「勝った……んですかね……?」


光が収まった後、リータが呟く。つるぎが僕たちの方へと歩いてくる。その手には何か握られていた。


「それは?」


僕はつるぎに尋ねた。


「神が消えた後に残っていたものだ。これが、神のコアなのだろう。天使と同じように」


つるぎの掌には、紫色に光る水晶があった。つるぎはそう言うと、その水晶を宙に放り投げた。そして、刀を目にもとまらぬ速さで抜刀。


バキッ


という音と共に、水晶から完全に光が消える。


「……神は、死んだ」


つるぎが言う。僕たちは、神を殺した。




「さて、これからどうやって元の世界に帰るかということだが……」


しばらくした後、つるぎがそう口を開いた。


「どうやってやるのだ?」


「……」


「……」


僕とリータは黙ってしまった。なぜなら、どのように元の世界に帰るのかということを知らないからだ。


「まあ、だよなぁ」


つるぎは黙った僕たちの顔を見て苦笑しながら言う。


「……あれ、けど、なんかこの前つるぎ、言ってなかったっけ?」


「ああ、言っていたぞ。神がシステムをいじれば帰れるとな」


「じゃあ、そのシステムとやらをいじれば良いんじゃない?」


「そのシステムはどこにあるのだ?」


「……」


「……」


再びの沈黙。


「……もしかして、神って殺しちゃダメだった?」


「……そのことを考えるのはよそう」


僕の発言につるぎがそう言った。そして三度目の沈黙。その後には、なかなか言葉が続かなかった。当然だ。元の世界に帰るために神を殺したのに、神を殺したから元の世界に帰れないなんて。僕たちはなんてことをしてしまったのか。もしかしたら、僕たちは目標を立て間違えたのかもしれない。そんなふうに僕は思い始めてきた。最初から僕たちの目標は神を殺すことだったが、もしかしたら元の世界に帰ることを目標にすればよかったのではないか。いや、おおもとの目標はもちろん元の世界に帰ることだった。それは間違いない。……訳が分からなくなってしまった。頭が混乱している。しばらくすると、リータが僕たちが立っているところとは離れたところで、声を上げた。


「あれ!?」


僕たちはその声に反応してリータの方へ顔を向ける。


「どうしたのだ、リータ?」


「これ……」


リータは地面を指さしている。僕たちはリータが指さしているものを見るためにリータのそばに寄った。リータが示していたものは、地面に転がったワームキューブだった。


「あれ、本当だ……どうして」


僕はそう言いながら、その小さい透明の箱を手に取った。確かにワームキューブだ。どうしてこんなところに落ちているのだろう。これはハルが神の能力を封じた時のものなはずで、僕たちが魔法を放った時にハルと一緒に崩壊したものだと思っていたけど……そういえば、今僕たちが立っているこの場所は魔法の軌道とは少し外れている。ということは、ハルがわざわざワームキューブを別の場所に放ったということだ。それには何か意味があるのではないだろうか。だって、ハルがわざわざそうしたってことは、よほどの意味がある……


「あ」


僕は非常に間抜けな声を出してしまった。


「どうした?」


つるぎが僕に尋ねてくる。


「もしかしたら元の世界に戻れるかもしれない」


僕はつるぎに向かってそう言った。


「どういうことだ?」


「このワームキューブだよ」


僕は、ワームキューブがここにあった意味を身長に読み解きながら口を開いた。


「僕たちが最後の攻撃を仕掛けられるように、ハルはこのワームキューブを使って神の攻撃を無力化した。それは覚えているよね?」


「当然だ」


つるぎが言い、リータも頷いている。


「このワームキューブは、本来ならその後僕たちが放った魔法で消滅しているはずだったんだ。だけど、そのワームキューブは今ここにある。たぶん、ハルがわざと消滅しないように、魔法の軌道ではない場所に置いたんだ。普通なら、そんなことをしなくてもいい。まして、自分の意識が入ったチップを僕に渡さなきゃいけない状況が同時に起こっている状況だ。だけど、わざわざハルはそれをした」


僕はハルのチップをポケットから取り出しながら言う。


「……それで?」


「このワームキューブは、神の力が閉じ込められている。ハルはわざわざそれを残している。この二つから導き出されることは……」


僕は勿体つけて言う。


「今、僕たちは一度だけ神の力を使うことができるってことだ」


しばらくの静寂の後、つるぎは僕の襟元をつかみながら言う。


「それは本当か!?」


「たぶんだけど、できると思うよ……っていうか、痛いよ」


僕は何とかつるぎの手を襟首から離すことに成功すると、服を整えながら言った。


「でも、どうやってですか?」


リータがそう尋ねてくる。


「ハルは、魔法の研究をしていた。だから、神の攻撃が本質的には魔法と同じだっていうことをわかっていたんだと思う。もし、神の力が魔法と同じであれば、僕とリータはこの力を操ることができるはずだ。だから、この力を開放して、操り、元の世界へのチャンネルをつなぐ」


「……なるほど」


リータがうなずく。


「……できるのか?」


つるぎが少し不安そうに尋ねてきた。僕は笑顔で答える。


「出来るよ。だって、一応僕も魔法をこの世界に来てからずっと勉強してきたからね」


嘘だ。出来るかどうかなんてわからない。自信もない。神の力なんてそんな未知数なもの、僕が上手に操れるだなんて思えるはずがない。だけど、操らなくてはいけない。そうしないと、元の世界に戻れない。だったら、やるしかないし、できると無理やりにでも思い込むしかない。魔法は、想像力と魔力の融和が重要だ。それが重なり合って初めて現実世界に現象を具現化できる。幸いなことに、魔力の方は神の力という絶対的なものがワームキューブに閉じ込められている。あとは、僕の想像力だけだ。


僕は覚悟を決めてワームキューブをそっと両手で包み込んだ。そして、ワームキューブを開放する。途端にものすごい力が放出される。それに一瞬圧倒されてしまう。魔力に圧倒されてしまいそうになるのは初めてだった。


「ぐにっ」


口から変な音が漏れ出る。僕は歯を食いしばりながら、脳内で世界を構築する。僕はすべての時空を操るために、自分が神であるということを想像しながら、僕たちが異世界に転移するきっかけとなったあの時の光景を鮮明に思い出した。そして、その時の思い出をベースに事実を改変していく。徐々に、光景が現実世界へと現れる。その光景は、トラックの正面。そして、よけきった姿の僕とつるぎだ。僕たちは、元の世界に戻る!


「おお……」


つるぎの声が聞こえた。大きな穴が空間に訪れる。その穴の奥には横断歩道。きっと、僕とつるぎがこれに入れば、トラックを避けた後の世界が始まる。元の世界での時間が始まる。僕は集中力を維持しながら、その穴に近づいた。つるぎも、その穴に近づく。


「リータ」


つるぎはリータを呼んだ。リータは黙ってつるぎの元による。つるぎはリータを黙って抱きしめた。しばらくして、僕の元にもリータが来る。僕も黙ってリータを抱きしめた。またしばらくして、僕がリータを話すと、リータの目には、涙が溜まっていた。しかし、それはまだ流れていなかった。リータは笑いながら言う。


「さよならは、やっぱり言いません。また、会いましょう。……私、また会えるって、信じてます!」


僕たちは、その言葉の力強さに、しっかりと頷いた。


「必ず、また会おう」


つるぎが目に涙をためながらそう言った。


「その時まで、元気でな」


僕もリータにそう声をかける。


「はい!」


元気なリータの声を聞いて、僕はリータに向かってほほ笑んだ後、背を向けた。そして、僕たちは、穴に一歩踏み込んだ。



引っ張られる感覚。そのすぐ後に、背後に大きなトラックが出現したのがわかった。トラックは大きなブレーキ音を立てながら止まった。僕の隣にはつるぎがいる。その姿は、僕たちがトラックにひかれる前の時と同じ格好だった。


「大丈夫か!?」


トラックの運転席から運転手が出てきて、そう言った。


「え、ええ……大丈夫です」


僕はつるぎに立ち上がらせてもらいながら言った。しきりに謝ってくる運転手を何とかいなして、僕たちは横断歩道を渡りきる。僕たちは、トラックに轢かれることなく横断歩道を渡り切ったのだ。


「……帰って……きた」


つるぎがポツリと呟く。横断歩道は赤に変わり、数台の車が通った。すでに僕たちが来た穴は存在しておらず、いつもの光景だけがそこにはあった。僕はポケットをまさぐった。制服なんてさっきまで来ていなかったのに、そこにはちゃんと、ハルのチップがあった。僕の身体にはまだ、リータのぬくもりがあった。


「……本当に、帰ってきたんだ……!」


僕とつるぎは思わず抱き合った。次の季節を確実に感じさせる熱い風が僕たちを包んだ。




梅雨の終わりかけ。じめじめとした空気が肌にまとわりつく。雨は降っていないが、いつ振ってもおかしくない曇天模様だ。隣で歩くつるぎの二の腕がちらりと見える。つるぎが一番最初に見せようと言っていた夏服は、そろそろ僕の目になじんできた。ふと気持ちが現世に引き戻される感覚。ポケットのスマホが振動していた。見ると、それはハルからだった。


「どうしたの?」


僕はハルからの着信に出た。


『ニュースを見たか?』


あっちの世界にいた時よりも、人間らしい声を手に入れたハルがいきなりそんなことを言う。その声は少女の声なので、つるぎがじろりと僕の方を見てきた。元の世界に戻ってきて、無事に(?)ハルが僕のパソコンで意識を取り戻したあと、今の状態ではしゃべれないというハルに僕がわざわざボイスソフトを買ってやったのだ。僕は口パクで「ハルからだ」というと、納得しているのかしていないのかわからない表情で頷きながら、電話を促した。僕は頷いて会話を続けた。


「ニュースは、朝ちょっとしか見てないけど……でも、どうして?」


ハルは普段電話をしてこない。僕が家にいるときは話すが、外に出かけているときは、スマホにメッセージを送ってくる。一体どうしたのだろうか。僕がハルに尋ねて、ハルが何かを言いかけたその時、つるぎが叫んだ。


「海斗!」


僕は、その言葉に反応して、つるぎが示したものを見た。そこには、見たこのとのある生物がいた。しかし、その生物は、この世界では絶対に見ることができないものだった。電話越しにハルの言葉が聞こえる。


『……うの世界の生物がこっちの世界に来ているらしい』


その通りだった。僕たちの目の前には、向こうの世界の生態系の頂点に立つ、竜が高熱の蒸気で出来た息を吐きながら鎮座していたのだから。


to be continue・・・・・・?


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