第百十二話 聖戦・Ⅳ
エーメスは自身の岩でできたこぶしを振るい、神聖ミギヒナタ国の兵士たちをなぎ倒していく。ハルは拳銃を使い、敵に発砲している。リータはエーメスを制御しながら、自身も魔法を放ち敵を寄せ付けないでいた。僕とつるぎは、新しい敵がこちらに向かってきていたことに気を取られ、一瞬だけマビエトから意識がそれてしまった。マビエトはその隙を当然のごとく狙ってくる。変異系第四位魔法「根軟足醍」によって軟体動物のそれへと変身させた足を使い、つるぎと僕を同時に攻撃してきた。僕は汎用系第四位魔法「白壁洞牟」でその攻撃を防いだ。すべて筋線維で出来ている足が繰り出す攻撃は、金属でできた壁を一瞬にしてへし折る。僕は繰り出された足がギリギリ届かない範囲まで逃げ出し、その足に向かって雷系第四位魔法「即愁電什南過」を発動した。強力な電圧を誇る雷撃が軟体の足に着弾。筋線維の塊にいくつもの電流が流れていく。しかし、マビエトは足からプスプスと白い煙を出しながらも攻撃の足を緩めることはなかった。つるぎも足攻撃に苦戦しているようだ。右に左に攻撃をかわすだけで精いっぱいの様子で、なかなか攻撃に転じられないでいた。
「つるぎ!」
僕はつるぎに叫ぶと同時に汎用系第四位魔法「矢轟雨臨」を発動。無数の矢が一斉にマビエトに向かって放たれる。僕の声を聞きつけたつるぎは、すぐさまマビエトから離れた。そのおかげで、僕の放った矢が当たることはなかった。マビエトは足での攻撃を中断し、僕が放った矢を対処し始めた。光系第四位魔法「楽光壁鑿」を自身の目の前に展開し、矢の猛攻を防ぐマビエト。つるぎはマビエトが矢を防いでいるうちに、いったん離れた距離を詰めなおし、剣を振るう。マビエトはつるぎの動きをいち早く察知していたようで、光系第四位魔法「規光櫂脱」による光線をけん制に利用しながら、なかなか距離を詰めさせないでいた。マビエトは矢をすべて防ぎきると、再び足の攻撃を開始した。つるぎはその足攻撃と光線を器用に交わしながら、少しずつではあるが、マビエトに剣が届く距離へと近づいていた。僕もすぐにつるぎのサポートが出来るようにマビエトに近づくことにした。つるぎへと襲い掛かる足攻撃をけん制するように、僕は汎用系第四位魔法「断槍凡鋼」を放つ。放ったうちの一本がマビエトの足に命中した。つるぎはそれを見て、僕の槍が当たった足に狙いをつけると、それに向かって斬撃を放つ。槍が命中したことにより少しだけ重さが変わった足は、ほんのちょっとだけ動きの流れが変わる。マビエトの無意識の足の制御のゆるみをつるぎは目ざとく見つけ、つるぎは愛刀・神切を素早く振るう。刀が完全に振られた後、先ほどまで猛威を振るっていた一本の足先が地面に吸い寄せられるように落ちていく。
「ぐぬぅ!?」
マビエトがうめき声をあげる。天使に対して何らかの能力があるつるぎが振るったその一撃は、初めて天使の身体に傷をつけることに成功した。普段は一切痛みを感じないマビエトが、痛みを感じたことによって一瞬だけひるむ。つるぎはさらに懐に潜り込もうと刀を携えながらマビエトに向かって走る。僕も「断槍凡鋼」でつるぎを援護する。マビエトは、自身に向かってくるつるぎを見て、「規光櫂脱」を放とうとする。しかし、その魔法が減少としてこの世界に現れるよりも早く、僕が対魔法系第四位魔法「真魔伊理」を放った。出るはずの光線が発射されず、つるぎとマビエトの間に刹那の静寂が訪れる。超速でつるぎが刀を横に一閃。再び「規光櫂脱」を放とうと右手を出していたダネールの、その右腕を裂くように切断。マビエトの細い腕が、二つに割れる。
「がああああああああ?!?!」
マビエトは裂かれた腕を自身の方へ引き戻しながら、「規光櫂脱」を放つ。つるぎはそれをステップで回避。さらに切りかかった。しかしながら、マビエトの足攻撃が横からいきなり飛んできた。つるぎはそれを避けることができず、吹き飛ばされてしまう。僕も、その足攻撃に対応することができないでいたため、それに魔法を放つことは出来なかった。
「つるぎ!?」
僕はつるぎが吹き飛ばされた方へ急いだ。つるぎは立ち上がりはしていたが、横腹を抑え、険しい表情をしていた。僕はすぐさま治癒系第四位魔法の「麓痛衫幻空」と「傲督癒尽幔」を発動し、痛みを鎮痛化させ、見えない傷を癒し身体を修復させる。マビエトの方を見ると、先ほどまでぱっくりと二股に裂けていた右腕がくっついていた。マビエトの身体が紫色の光を放っている。
「マズい!」
つるぎが僕の腰を持ちながらその場からジャンプする。僕は汎用系第五位魔法「空糸操天門楊」を発動させ、その場からできるだけ遠くに逃げられるようにジャンプした僕たちの身体をさらに浮かせ、可能な限りジャンプの飛距離を伸ばした。そして、背後から灼熱波が到達。神変系最終位魔法「魔儘光傳闇剛」によって放たれた高出力の黒い光が先ほどまで僕たちがいた場所を消し飛ばす。その光線によって漏れ出た熱が僕たちの身体を強く押す。浮いていた僕たちの身体はそれによって大きく動かされ、マビエトからさらに距離が生まれた。僕はそこで「空糸操天門楊」を止めるため、右手を強く握った。魔法が途切れ、僕たちの身体が先ほどジャンプしていた高さから、地面へと戻される。地面に降り立った僕たちは、熱によって溶かされた背中を治癒魔法で治しながら痛みを止め、マビエトと対峙した。