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第百十話 聖戦・Ⅱ

一番隊隊長のチッパは、帝国兵団の中でも屈指の実力者だと言われている。仲間内では隊長、副隊長と合わせて「三鬼」と呼ばれている。今はその「三鬼」の名が伊達ではないということを、存分に見せつけている。次々と切りかかってくる敵を返り討ちにしている。敵の血に染まりながらそれでも進軍を止めようとしないその姿はまさに「鬼」という異名がふさわしい。


「ひるむな!押し込めぇ!」


他の兵士たちにげきを飛ばしながら、どんどん奥へ進んでいくチッパ。そこに、天使が現れた。


「お前が例の白い生物兵器か」


チッパは剣を構えなおすと、目の前の天使に切りかかった。


「っらあ!」


雄たけびを上げながら剣を振りかぶるチッパ。対して天使の方はチッパの攻撃に何の反応をも見せなかった。妙な違和感を覚えながらもチッパはそのまま斬撃を繰り出す。そして、剣先が天使の身体に当たった。その瞬間、チッパの身体は後方へ吹き飛ばされていた。


「なっ!?」


身体を空中でうまく制御しながら与えられた衝撃を逃がし、きれいに着地するチッパ。彼は戸惑っていた。確かに彼は白い生物兵器に剣を当てた。しかし、相手は攻撃を喰らった様子はなく、逆にパッチの方が吹っ飛ばされたのだ。


「どういうことだぁ……?」


パッチは再び剣を構えながら、ゆっくりと間合いを詰める。しかし、今度はそう簡単に切りかかりには行かなかった。パッチは先ほど自分が何をされたのかもう一度思い返し、考えていた。自分が切りかかろうとして、相手の身体に剣が触れた瞬間、身体が吹き飛ばされていた。どれだけ詳しく思い出そうとしても、彼に思い出せるのはそれだけだった。実際、彼が思い出せること以外には何も起こっていなかったのだ。


「わけがわかんねぇぞ……おい」


チッパはそう呟くと、考えてもしょうがないと先ほどのことを考えることをあきらめ、いつ襲い掛かってくるかわからない相手に神経を集中させ始めた。チッパと対面している天使は全く動こうとする気配はない。チッパはそれに苛立ちを覚えたのか、先ほどと同じように天使に向かって切りかかった。先ほどと同じスピードで、同じ威力で斬撃を天使の身体に叩き込む。しかし、その衝撃が天使に伝わることはなく、なぜかチッパの身体が吹き飛んだ。来るのだろうとわかっていても、その衝撃をよけきれないチッパ。彼はめげずにさらに連続して斬撃を繰り出した。そして、それと同等の衝撃が彼の身体を襲う。天使はただ立っているだけだが、チッパには確実にダメージが蓄積されていた。


「マジでなんなんだよぉ!?」


チッパは叫びながら、さらに乱れ打ちを放つ。攻撃をするたびに衝撃が発生するが、彼はそれをこらえながら斬撃を放ち続けた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


彼は、斬撃の手を止めた。天使はまだ動かない。チッパの身体はすでにボロボロだった。


「はぁ……はぁ……やるじゃねえか……この俺の身体に……傷をつけるなんてよぉ……」


チッパは上がる息を抑えながら、言葉を放つ。


「こんなことできんのは……帝国じゃあ隊長と何人かの冒険者、それに俺自身くらいだぜ……」


そして、彼は剣を再び握りなおした。後方から爆発音が弾けた。チッパはその音自体には反応しなかったが、その爆発音のすぐ後に自らの視界を横切ったものには反応した。フルプレート装備の巨大な身体が宙を舞う。そして、天使に直撃した。しかし、天使は何の反応も示さず、巨体はさらにチッパの方へと吹き飛ばされた。


「くっ!?」


チッパは自分の方に来たその巨体を躱した。だしゃんという音を立てながら、その巨体が重力により落下する。


「ぬおお……」


フルプレートの隙間から漏れだすのは人の声。その巨体は少しだけ時間を置いた後、勢いよく立ち上がると言った。


「まさかこの私がここまで吹き飛ばされるとは……」


「ジギルウォークか?」


チッパは飛ばされてきた巨体に声をかけた。


「その声は、チッパか?」


ジギルウォークはチッパの方を見た。


「吹き飛ばされてるけど、そっちの状況は大丈夫なのか?というか、なんでお前が吹き飛ばされてるんだ?」


「大丈夫かと言われれば、大丈夫ではない。私が吹き飛ばされるほどなのだからな」


ジギルウォークはそう言うと、腰を低く落とし足の筋肉に力を籠め、飛ばされてきた方へと走っていった。


「……大丈夫じゃない、か」


チッパは自分の目の前に立ちはだかっている天使を見た。


「俺もだよ、ちくしょう!」


そう言うと、チッパは天使に向かって再び切りかかった。



敵の軍勢の中を縦横無尽に駆け回りながら、敵を殺し続けているのはオケーノとシャミティエットのペアだった。まるで獣のように手と足を地面について走り、敵の喉笛をかみちぎるオケーノと、そのオケーノの背中にまたがり、敵の頭を潰していくシャミティエット。残虐極まりない二人の行為は、もはや敵に対する攻撃ではなかった。いうなれば、それは虐殺行為だった。


「てき、ぜんぜんへらねーじゃん」


シャミティエットはマスクに着いた敵の脳漿を拭いながらつぶやいた。それに呼応するように、オケーノも叫ぶ。


「こんなちっちぇとこに、こんなににんげんがいるのはおかしくねーか?なあ、おけーの?」


「うるぅが!」


辺り一帯の敵をすべて殺した彼らは、死体の山に囲まれながらのんきにおしゃべりしていた。すると、先ほど敵が出てきた家々から、再び敵が現れた。


「おおう?」


シャミティエットはそんな声を出しながら、不思議そうにその家を見た。


「どんだけはいるいえなんだぁ?ひゃくにんはいってもだいじょうぶってか?」


シャミティエットはオケーノから降りると、オケーノに指示を出した。


「おけーの。くさりをはずすから、あのいえのなかをみてこい」


指示されたオケーノは、鎖が外されると嬉しそうに家から出てきた敵を噛み殺しながら、その敵が出てきた家の中へと入っていく。しばらくして、オケーノの鳴く声があたりに響いた。シャミティエットはその声を聞いて、周りの敵を殺しながらゆっくりとその家へ向かった。


「どうした、おけーの?」


吠え続けるオケーノにそう声をかけながら、シャミティエットが家の中に入っていく。そして、驚嘆の声を上げた。


「おお……!」


思わずつけていた仮面を外すシャミティエット。シャミティエットとオケーノの目の前にあった光景は、紫色に怪しくきらめくいくつもの結晶が、同じく紫色の光によって神聖ミギヒナタ国の兵士を作りあげているという風景だった。光が上に投射されると、そこから人間の顔が発生し、光が地面を当てる頃には足を含めたすべての身体が出来上がっていた。


「すげーじゃん!にんげんせいぞうせきなんて!」


シャミティエットは興奮した様子でその結晶を手に取った。すると、その結晶は光を投射するのを止めた。しかし、紫色の光は湛えられたままである。シャミティエットの顔は、笑顔で歪んでいた。


「おけーの。もしかしたらおまえになかまができるかもよ」


人間製造石の紫色の光がシャミティエットの顔を怪しく照らした。悪魔のような邪悪な笑顔のまま、シャミティエットはオケーノに向かってそう言った。オケーノは、嬉しそうに吠えると、他の結晶を口にくわえ、シャミティエットの元へ運んだ。

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