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第百九話 聖戦・Ⅰ

スッキリとした冷たい空気が肺の中に入り込み、僕の淀んだ空気をすべて一掃する。日差しが僕の顔に少しだけ差し、その部分が温かい。朝。僕たちはついに神聖ミギヒナタ国に突入するときが来た。帝国兵隊の士気も、山頂の時と比べたら、ずいぶんとみなぎっているように見える。副隊長が号令をかける。それに反応して素早く兵士が隊列を作る。僕たち冒険者は一番端っこで列何だか列じゃないんだかよくわからない感じで、それでも一つにまとまった状態でその号令を聞いていた。副隊長であるクレトが何かを叫んでいる。しかし、僕にはよく聞こえなかった。その言葉を受けて、兵士たちが右手を高く上げて叫ぶ。その叫びは、ここが今から戦場になることを、はっきりと予感させるような、そんな覚悟を持った者の声だった。目の前には神聖ミギヒナタ帝国。元々レーレン公国の領地に一部であったので、レーレンで見たことのあるような、極めて僕たちがいた世界に近い街の作りがされてあった。建物もそうだ。ツーバイフォーみたいな感じで、これといった個性は遠目から見たかぎりでは感じられないものばかりなようだった。


「今見た感じでは、もともとここにレーレンの人たちが住んでたんだろうなっていう街の作りになってるね」


「うむ。この分だと、昨日海斗が話したような戦のための仕掛けが街にあるということはなさそうだな」


「そうだね」


僕とつるぎがそう話しているうちに、一番隊が僕たちの先頭に立ち始めた。一番隊隊長のチッパがさらにその先頭に立つ。そして、副隊長・クレトが号令を出した瞬間、怒号を上げながら街に突撃していく。それに続けて二番隊三番隊が神聖ミギヒナタ国に流れ込んでいる。


「ぐあうっ!」


という叫びが聞こえたと思ったら、オケーノが走り出していた。鎖を持っていたシャミティエットはどうしたのかと思ったら、シャミティエットはオケーノの背中にまたがっていた。きっと、シャミティエットがオケーノをけしかけて、走り出させたのだろう。他の冒険者たちは、そんな二人を見て自分たちもと、それぞれ駆けだした。街の中ではすでに戦いの音が聞こえてくる。僕たち四人は、すべての冒険者が走り去った後、ゆっくりと神聖ミギヒナタ国へと入った。


神聖ミギヒナタ国の中には、円に羽が交差してあるマークがあしらえてある服を着た人間たちが、武器をもってワルフラカ帝国兵隊の兵士たちと戦っていた。そんな中、僕たちが見覚えのある白い人型のシルエットがあった。その数は、僕たち冒険者の数程だった。そして、当然のようにマストロヤンニの姿もあった。この前はボロボロだった身体は、今では綺麗に回復していた。いち早くマストロヤンニに気が付いたジギルウォークが、マストロヤンニに向かって突進していく。どうやらジギルウォーク率いる「ラジウルス盾団」の人たちは、今回は守り主体ではなく、攻め主体で行くようだ。そしてそれにヤギバ・グルドアが追従する形でマストロヤンニに斬撃を放っている。四本の腕から放たれる目にもとまらぬ速さの斬撃を、マストロヤンニは防いでいた。ご老体のサガダルは相変わらず人に背負われている。未だに何かを攻撃しているような気配はなかった。ミナレは赤い布をはためかせながら、


「この前の奴を探しな!」


と手下に向かって叫んでいた。この前の奴とはきっと、この前戦った天使のことなのだろう。ミニッタがヴィエリオールの周りを跳ねまわり、向かってくる敵を撃退しながら移動していた。ヴィエリオールは天使たちと対峙している。この戦いに、冒険者の中では一番乗りしたオケーノとシャミティエットは帝国兵隊の間を縫うように移動しながら、敵を攻撃し続けていた。オケーノが敵の喉笛に噛みついている間に、シャミティエットがモーニングスターのようなものを振り回し、他の敵を頭から粉砕していた。先ほどまで存在していた静寂な朝は、はるか彼方の過去に置き去りにされてしまったかのように姿を消した。僕たちはそれを横目に見ながら、神のいる場所へと通じていそうな場所を探し始めた。

街のだいぶ入り口のところで戦闘が激化していたが、僕たちはそれを迂回することによって、神聖ミギヒナタ国の奥の方へと入り込んでいった。すると、僕たちによくなじみのあるこの街の作りにそぐわない、いびつな形をした大きな建物が一つだけ存在していた。


「いかにも怪しいな」


「だね」


僕たちはその建物に入ろうとした。しかし、その瞬間、建物が紫色の光を放った。


「うわっ?」


僕たちは思わずその建物から離れた。そして、紫色の光が静まる。そして、その建物の中から、今までで一番大きな天使が現れた。


」私の名はマビエト。神より承った天使長の役目を全うしに来た「


その天使が翼を広げた。言葉と言葉の間に存在するような声が頭の中に響きわたる。


」お前たちは、ここで、死ぬ「


その発言と共に神変系最終位魔法「魔儘光傳闇剛マチュルフシーチカ」による黒い光線が放たれる。僕とリータは汎用系第四位魔法「白壁洞牟ジャヤンタ」をそれぞれ三重ずつ展開し、その光線を防ごうとした。しかし、あっという間に貫通されてしまう。けれども、僕たちにはそれだけの時間があれば、それを回避することは可能だった。僕たちはそれぞれ左右に分かれてその破壊光線を避けた。僕はすかさず汎用系第四位魔法「断槍凡鋼カールラ」を発動。全長1.7メートルの槍が豪速で放たれる。マビエトがその槍を素手でつかもうとした。その瞬間、つるぎがマビエトの懐へと駆けだす。マビエトは変異系第四に魔法「根軟足醍メロウフ」によって自分の足をナイタイ動物のようなものへと変化させ、つるぎの行く手を拒んだ。ここでの戦闘がばれてしまったのか、周りから敵の声が聞こえてきた。リータはそんな声を聞きつけて、召喚系第四位魔法「導喚亜牢穴ヌノオシトリ」を発動させた。そして、見覚えのあるヤツを召喚させた。リータは続けてそいつを起動させるために叫んだ。


眠起界動流科アールマロース!」


リータの叫びに呼応したかのように、岩の塊が次第に人型へと変化していく。それは、ガルティアーゾの近くにあった洞窟の奥に存在していたエーメスだった。


兵守兵攻シェムハザー


さらなるリータの指令によって、エーメスは僕たちの周りに近づいてきた敵たちを排除しようと動き出した。

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