第百七話 帝国からの徴集
受付嬢の彼女の話によると、二週間ほどしたら僕らが帝国側から神聖ミギヒナタ国への進軍に際して上位の冒険者を連れて行くうちの一組として呼ばれるだろうと言っていた。ふたを開けてみれば三日もあけずに帝国側からの誘いがあった。僕たちは一もなく二もなくすぐにその進軍に乗っかるという返事をした。そして、さらにその三日後である今、僕たちは神聖ミギヒナタ国に向かっている最中である。ワルフラカ帝国にこんなに兵隊がいたんだと思うほどの人数が隊列を作って行進している。ざっと見たところ、二千人は超えているだろうと思う。目指すは神聖ミギヒナタ国である。ミギヒナタに行くのに、少し大きな山を越えなければいけないらしく、皆の荷物を積んだ馬車が何台も歩いている。これだけ兵隊の数が存在しているのであれば、もう少し前からワルフラカ帝王がすんでいる帝都・リグディルーベで起きていたミギヒナタによるテロ行為をどうにかすればよかったんじゃないかと思った。自分の身は完全に安全だということをわかっていたからこそあえて金のかからない街の冒険者を使ったのだろうか。それならひどい話だなと思ったが、僕はそれを口にはしなかった。僕たちのほかに呼ばれた冒険者が何グループかいた。その中には「ゾゴバットの花」のリーダーであるヴィエリオールとその仲間や「ラジウルス盾団」のリーダーであるジギルウォークとその仲間、「慶光なる獅子」の賢人・サガダル率いる軍団や「ショートリッツ」の剣豪であるヤギバ・グルドアとその仲間たち、「クランストカール」の野人・オケーノ、そして「凪のシュロツィア」のミナレとその仲間たちがいた。ミナレは僕の顔を見ると、相変わらず真っ赤なローブのようなものにくるまれたパツンパツンの身体を強調させながらこちらへとやってきた。
「生きてたのね、坊やたち」
ミナレが海辺の町に吹く潮風みたいにしっとりした声で僕に話しかけてくる。僕は少し警戒しながら言葉を紡ぐ。
「ええ、まあ、おかげさまで」
「噂ではアンタたちがあの白い生き物を一体殺しったって聞いたけど?」
「まあ、そうですね……」
「何よ、ずいぶんと歯切れが悪いわね。別に今回は取って食おうってんじゃないんだから、シャキッと話しなさいな」
「はあ……」
「それで、どうやって殺したのよ」
「ああ、それは彼女が一刀両断して……」
そこで僕はつるぎを示した。
「ふーん。坊やじゃないの」
「ええ、僕はあの剣士の方を相手していましたから」
「それで坊やはその剣士を仕留め損ねたってことね」
「……まあ、そうですね」
「ダメじゃない、しっかりしなきゃ」
ミナレは僕の頬を右手の指先でなぞりながらそう言ってくる。
「はあ……」
すると、つるぎが割って入ってきた。
「何の用だ?」
「あら、噂のハンター登場ね。このままだと私も切られちゃうから、ここでおさらばするわ」
うふふふふ、と笑いながら、ミナレは自分たちの仲間がいるところへ戻っていってしまった。一体何をしたかったのだろうか。まあ、おそらく天使の殺し方についてどうにかヒントを得ようと思っていたのだろう。
「何を鼻の下を伸ばしているのだ」
つるぎがそう言うと、いきなりぐにっと脇腹をつまんできた。
「痛った!?」
僕がそう反応すると、つるぎはそのままリータとハルが歩いている少し先へ戻っていってしまった。
「ラジウルス盾団」のジギルウォークは相変わらずフルプレート装備でガチャガチャと音を鳴らしながら歩いていいた。ライドウットは見当たらなかったところを見ると、彼のマストロヤンニから受けた傷はまだ言えていないのだろう。そりゃそうだ。だいたい、あの化け物の斬撃を盾があったとはいえ、喰らって生きてるだけですごいことなのだ。ジギルウォークの後ろには何人かのフルプレート装備の、ジギルウォークに勝るとも劣らない巨大な剣士と、フードをかぶった小さな少女の姿があった。あまりにその身長差が激しかったので、一見すると同じ人間とは思えなかった。「ゾゴバットの花」の方は、凛とした姿勢で歩いているヴィエリオールと、ミニッタの姿をとらえることができた。他にもこの前の戦いのときには見ていない冒険者が何人かいた。「慶光なる獅子」の方を見ると、年齢がいくつかわからない、よぼよぼのおじいちゃんが男の人に背負われながら移動していた。あの背負われているのが「祝いの賢人」ことサガダルなのだろう。自分では長く歩けないにもかかわらず、今回の進軍に参加したということは、よほど強力な魔術師なのだろう。どのような魔法を使うのか個人的にすごく興味がある。腕が四本あるのは「ショートリッツ」の「四囲の剣豪」ことヤギバ・グルドアだ。二つの自前の腕に、もう二つの義腕をつけ、そのすべての手に剣をもって戦うスタイルは誰にもまねできない唯一の戦い方だ。「クランストカール」には、四足歩行をしている「野人」ことオケーノと、それを鎖につないで制御している「野の支配者」シャミティエットのマスク姿が強烈なインパクトを放っている。どの人たちも、独特のオーラを放っている人たちばかりで、なんだか緊張してくる。ここにいる全員が超級の冒険者たちだ。しかも、この行列の前の方には、ワルフラカ帝国騎士団の副団長と一番隊隊長、二番隊隊長がいるらしい。どうやらこの三人は、ここにいる冒険者たちと同じくらいに強いらしい。これだけ多くの戦士が一堂に会しているのだから、案外神聖ミギヒナタ国での戦いも楽かもしれないと、僕は楽観視していた。
しばらくして山脈が見えてきた。この山脈の向こうには、神聖ミギヒナタ国がある。そして、そこには僕たちが殺したい神につながる入り口があるかもしれない。僕たちを引き連れた隊列が山脈を登り始めた。




