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第百五話 リータとの再会

「リータ……?」


僕は彼女の顔を見てそうつぶやいた。リータは笑顔で僕にうなずくと、マストロヤンニの方にすぐに顔を向けた。マストロヤンニはいきなり現れた少女が自分の魔法を打ち消したとわかって憤慨している様子だった。しかし、次の魔法はなかなか放たれなかった。それもそのはずだ。マストロヤンニもすでに僕と同じでボロボロの状態でいることに変わりはないのだから。彼はようやく次の魔法を放とうとしたが、それが放たれることはなかった。なぜなら、マストロヤンニが魔法を放とうとした瞬間、彼の周りが紫色に光ったからだ。彼はそれを見て魔法を放つのを止めた。すぐに紫色の光を放っている魔法陣から、天使が現れた。


」今は退いた方がよさげだから、退くよ「


天使はそう言うと、すでに完成していた魔法陣にマストロヤンニを引っ張った。その後、地面に落ちている彼の大剣を魔法で手元に手繰り寄せると、マストロヤンニを抱えたまま瞬間移動の準備を始めた。リータはそれに向かって魔法を放とうとしたが、いきなり現れた天使に戸惑ったのか、魔法を放てないでいた。すると、後ろから叫び声が聞こえた。


「おおおおおおおお!」


つるぎが刀を抜きながら瞬間移動しようとしている天使とマストロヤンニに対して切りかかろうと、叫びながらジャンプしているところだった。つるぎは刀を上から振りかぶったが、天使たちの瞬間移動の方がつるぎの刀よりも一瞬だけ速かった。つるぎが振るった刀は、そのまま空を切るだけだった。そして、戦場と化していた辺り一帯に静寂が訪れた。僕は、つるぎが無事なのを確認すると、そのまま意識を自分の支配下から手放した。



気が付くと僕は柔らかいベットの上に横たわっていた。目を開けてもそこには暗闇が広がっていたが、背中の感触からそれがわかった。僕はまだふらふらとする重い頭を持ち上げながら、水が飲みたくて立ち上がった。「明明光アノク」であたりを照らすと、そこは僕たちが借りた宿の一室だった。二つ目のベットにはつるぎとリータが仲良く抱き合いながら眠っていた。僕は二人を起こさないように忍び足でそっと歩きながら、水差しを探し始めた。しばらくして水差しを発見し、金属のコップに水を注ぐ。そして一息で飲み干すと、もう一度空になったコップに水を注いで、今度はちびちびと飲んだ。その後、まだふらふらとする頭を抱えながら、ベットに戻って眠った。


翌日、僕はリータの声で起こされた。


「カイトさん、もうそろそろ起きてください。もうちょっとでお昼になっちゃいますよ!」


「う……」


「私お腹すいちゃいました。ね、カイトさん!」


わっさわっさと僕の身体を揺らしながらリータは僕を起こそうとしてくる。僕は観念して目を開ける。日の光が部屋に入り込んできていて、なんだかとてもすがすがしい気分になれるような光景だった。


「あー……」


僕がうなりながら起き上がると、もうすでに起きていたらしいつるぎが声をかけていた。


「おはよう、海斗。起き抜けで悪いのだが、これから昨日の状況を話しに冒険者ウーノンに行かねばならないので、君も一緒に来てくれないか」


「あー……うん……」


僕はそう返事をしながらいまだに少しふらふらする頭を無理やり覚醒させるために顔を洗おうと外に向かった。外に出て顔を洗い終え、少しは頭が覚醒してくる。部屋に戻ると、つるぎとリータはもうすでに準備ができているらしく、椅子に座ってゆっくりしていた。僕は急いで準備を済ませ、彼女たちに声をかけた。


「はい、準備できたよ」


「そうか。では行こうか」


つるぎがそう言いながら立ち上がると、リータも元気に返事をしてその後についていく。僕もそんな二人の少し後ろにつきながら、部屋を後にした。


僕たちが冒険者ウーノンに向かっている途中、僕はリータに様々なことを尋ねた。というか、尋ねざるを得なかった。昨日はあのまますぐに気絶してしまったのでいろいろと聞くことが出来なかったが、今はいろんな疑問が僕の頭の中で炭酸水の泡みたいに発生していた。


「……どうしてリータがいるの?」


「どうしてって、ねえ?」


リータはつるぎと顔を見合わせながらそう言った。たぶん、つるぎは昨日のうちにどうしてリータが今ここにいるのかの理由を知っているのだろう。


「私、言ったじゃないですか。あの時、『強くなります』って。その通り私は頑張って魔法の修行を積んで、お二人の迷惑にならないくらいに強くなったということを自覚したから、お二人の元に行こうと思って、来たんです」


「……えっと、つまり……?」


確かに、僕たちがガルティアーゾから出ていくときに、リータは僕たちに強くなることを宣言していた。いや、別に何か彼女の強さに対して不満があるわけではない。昨日の時点で対魔法系第四位魔法「真魔伊理イーリビーメ」を放ち、それが成功していた時点で、リータの魔法習熟度はかなりなものだといえるだろうというのは僕が一番わかっている。対魔法系の魔法は多くある魔法の系統の中でも一、二を争うほどの難しさだ。しかし、いくら何でもこの習熟度に至るのが早すぎないだろうか。


「そりゃあ、相当な修行をしてきましたから。なんて言ったって、私の魔法のお師匠は族長のお母さまですからね」


ふふん、と鼻を鳴らしながらリータが胸を張ってそういった。そういえば、ガルティアーゾの族長であるギルツィオーネの母親は、僕とギルツィオーネが死ぬ寸前の激闘を繰り広げた後、戦闘なんてなかったかのようにきれいさっぱり僕たち二人の傷を治す程の治癒魔法の使い手であった。しかし、だからと言って、とも思ったが、僕は同時に、彼女があのマストロヤンニの魔法の先生であったことを思い出した。そして、まあ、そんなものなのかもしれないなと思うようにした。


「今では私も、竜狩りに参加してますから、もうばっちりですよ!」


リータは自慢げに言う。


「なるほどね……」


僕がそうつぶやくと、彼女は頭をブンブンとふりながらうなずく。何だかそんな様子が懐かしくって、僕は思わず笑ってしまった。


「な、なんですか?急に笑ったりして」


「いやあ、なんていうか。久しぶりだなって思ってさ」


僕はリータの横に付くと、僕よりも低い身長のその頭に手をのせて言った。


「まあ、なんていうか。ようこそ、リータ」


「……はい!」


リータの顔に笑みがこぼれる。僕はつるぎをちらりと見た。つるぎは僕の顔を見ると、小さくうなずいて見せた。僕たちはリータを迎え入れた。

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