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第百二話 災厄の巫女

私は二体の天使たちの方へと走って向かいながら、どちらの方を先に片付けるべきか悩んでいた。私の考えが正しければ、昨日海斗と話したように、私には「天使」や「神」に対抗出来る能力がある。だから、天使と戦うことに関しては正直何も思っていなかった。マストロヤンニと戦う方が何倍もしんどい状況になるだろうということが直感的にわかっていた。

私の目の前には、おそらく自分の手下なのであろう魔物を天使と戦わせている金髪の少女と、すべての魔法による攻撃を大きな盾で防いでいる大男、そしてそれらの仲間であろう人間の何人かが天使たちに肉薄する姿があった。私は海斗に覚えられていた金髪の少女の方を後回しにすることを決意した。これは決して私的感情によるものではなくて、彼女が自分自身ではまだ戦っておらず、余裕がありそうに見えたからだ。本当に嫉妬とかではない。本当に。

私は変異系第五位魔法「変魔竜甲頭ヴーリトラ」によって腕を竜の頭へと変形させた天使が放つ超高火力な火炎を真正面から受け止めているジギルウォークめがけてトップスピードで走り出した。肩掛けの鞘を肩から外し、腰にまで持っていく。走ったままその刀の柄に手をかける。


「ぐおおおおおおおおお!!!」


圧倒的火力に必死に耐えているジギルウォークの叫び声が途切れたと同時に、私は盾の中に納まるために少し曲げてあった彼の背中の上を走った。


「あと二秒だけ耐えろ」


私はジギルウォークにそう言うと、そのまま彼の頭を蹴って飛ぶ。ジギルウォークと天使の間の距離は約6メートル。


「はあああああ!」


私はジギルウォークの頭から放物線を描いて天使の元へと向かう。下で吐かれている炎が一瞬だけ揺れる。きっと私とジギルウォークのどちらに火炎を放つか迷ったのだろう。私はその一瞬の迷いを見逃さなかった。


「っらああああああああ!」


刀を勢いよく鞘から抜刀。その威力を生かして、瞬間的に発生する力を最大限にまで高める。私と竜の頭に変形した腕が交差しそうになる。私は無理やり左足でその腕を止めると、刀でもってその腕を切る。超速で振るった刀はバターを切るよりも滑らかに腕を切断する。私が最後まで刀を振るい終わるのと同時に腕が重力に従い落下していく。そして切断面からは、まるで原油のような黒くドロッとした液体がこぼれる。


「あ?」


天使が腕を切られたことを認識すると同時に私は次の動作に入る。横に振るった腕を戻し、がら空きになった胴体めがけて突きを繰り出す。


「おおおおおおおおお????」


天使はなおも混乱したような声を出していた。しかし、私の突きにはしっかりと反応しており、狙われていた胴体が瞬時に別のものへと変形する。変異系第四位魔法「格骨独牢コージン」によって胴体がすべて硬い外骨格のようなものに覆われてしまう。私の繰り出した刃が天使の肉体に届く前に覆われてしまったので、刀とその外骨格がぶつかり合い、金属同士がこすれ合うような甲高い音があたりに響いた。


「ちっ」


私は伸ばした腕を急いで戻し、体勢を整える。天使は私をようやく認識したのか、切断された腕からもう一度腕を生やしながら一言だけ言葉を発した。


」誰かと思いきやあなたでしたか。『災厄の巫女』「


「何?『災厄の巫女』だと?」


私は刀を構えながら聞き返す。


」……「


その天使はそれ以上しゃべらなくなってしまった。代わりに強力な魔法を次々に放ってくる。


「くっ」


私は急いで後ろに下がり、ジギルウォークの後ろに隠れる。ジギルウォークはすぐさま盾を構えてその攻撃を防いだ。


」……らちが明かんな「


天使は何か言うと、それまでしていた魔法攻撃をいったんすべて止めた。


「……なんだ?」


ジギルウォークは盾から少し顔を出して、天使の様子を見ていた。私もそっとのぞき込んでみる。すると、その天使がなにやら魔法陣を出しながら両腕を上げているのが見えた。


「マズそうだな……ヘンリエッタ!」


ジギルウォークはその魔法陣の意味を瞬時に悟ったのか、誰かの名前を大きく叫んだ。すると、後ろから幼い少女の返事が聞こえてくる。


「はぅい、ジギルぅウォークぅ様ぅ」


少々癖のある声の持ち主であるその少女はいつの間にかジギルウォークの後ろに隠れている私の後ろにぴったりとくっついていた。


「今すぐ私に最大限の防御魔法をかけろ!」


ジギルウォークが叫ぶ。天使の魔法陣が紫色の怪しい光を発しながら書きあがっていく。


「はぅ~い」


ヘンリエッタは返事をすると、ジギルウォークに様々な魔法をかけ始めた。変異系第四位魔法「工巨連着ヨトゥン」によって、ジギルウォークのただでさえ大きな体がさらに一回り大きく、変異系第三位魔法「筋鰐剛楼《ボル―》」によって、さらにその大きくなった身体を支える筋肉が肥大化した。そして、変異系第四位魔法「左慈牙鋼エンブラー」によって身体が硬質化していく。いつの間にか私にもその硬質化の魔法が掛けられていたようで、思ったように身体が曲げられない代わりに、金属のようにカチカチになっていた。私がヘンリエッタの方を見ると、ヘンリエッタは口だけを曲げて笑顔らしきものを作った。そしてその瞬間、今までで一番強い紫色の光が辺りを染め、神変系最終位魔法「怒天神使紫光《アル―マ―ロス―》」が私たちに向かって放たれる。


「ぐぅうん!」


途中までの空間自体を消し飛ばすほどの威力を持った紫色の光がジギルウォークの盾をものすごい勢いで押す。その光線によって盾が徐々に削られていっている。ジギルウォークは足腰を踏ん張らせると、その光に対抗するために押し返した。私もジギルウォークの腰を押して、その抵抗に加担する。


「ぐおおおおおおおおおおお!!!」


さらにジギルウォークの身体が大きくなる。メキメキと音を立てていたフルプレートの鎧がついにはじけ飛び、さらに肥大化した筋肉がさらされる。


「はああああああああああああああ!!!」


肥大化した筋肉の力を最大限引き出したジギルウォークの抵抗は、紫色の破壊光線を徐々にではあるが押し返していく。


「なあああああああああああ!!!」


そして、今日一番のジギルウォークの叫び声と共に大きく一歩、前進した。その瞬間私の足の筋肉が肥大化したのがわかった。そして、ついに紫色の魔法陣が上空から消え去り、それとともに破壊光線が消えた。私はすぐにジギルウォークの後ろから飛び出し、いつの間にか肥大化していた足で地面を蹴る。硬質化魔法の効果が切れていたので、すぐに体が動いた。いつもよりも大きな力を地面に伝えている私の足は、先ほどのの二倍の速さで私を天使の前へと連れていく。


「おおおおおおおおお!」


神変系魔法を放った後の硬直状態である天使に向かって、私は刀を横なぎに一閃。胴体にあった外骨格もろとも切断。上半身と下半身とに分割した。


」が「


奇妙な音を口から出した天使の上半身が、地面に吸い込まれていくように落下する。切断面からはやはり黒くて粘性の高い液体があふれている。上半身だけの状態で何とか腕を動かし、天使が地面を這いずり回ろうとしていた。上半身から徐々に下半身が生えてきている。私はそんな天使の背中に刀を突き立て動きを阻止する。天使の情けない叫び声が鼓膜を揺らす。そして、今度はその刀を抜いて、傷口を足で踏みつけ、上半身が動かないように固定する。足の下で動く天使を無理やり押さえつけ、私は頭に刀を突き刺した。ダャスッという音とともに、刀が頭を貫通し地面に突き刺さる。今までさんざん暴れていた足元の天使は、もう二度と動かなくなった。


「はあ……」


私は大きく一息ついた。いつの間にか足の筋肉の肥大化が消えている。ジギルウォークの方を見ると、立ったまま気絶しているジギルウォークと、そんな彼のそばに立ちながら私に手を振っているヘンリエッタの姿があった。そして、そういえばあの金髪の少女はどうなったかと思って、そちらを覗いてみた。すると、もうすでに半分以上の魔物が見るも無残な姿で倒されており、残りはよくわからない不定形の魔物とその金髪の少女だけだった。私はヘンリエッタに手を振り返すとすぐにそちらに向かった。

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