第百一話 対神聖ミギヒナタ国・再戦
僕らはいろいろなものを買った後、宿屋に部屋を取り、今度こそ燃えないようにと祈りながら、とりあえずはハルと合流するために北区に向かった。サルビア地区は相変わらず閑散としていて寒々しい様子だった。人影はなく、まるでここだけがゴーストタウンみたいな印象を僕たちに抱かせてくる。確かに、さっき受付嬢が言っていた通り、今のリグディルーベはマストロヤンニたちのテロ行為のせいで、そもそも外を出歩く人が少ない。しかし、ほかの地区はここまでではないだろう。しかも、この北区はそれがいつもの風景のように見えるのが、なおさら物寂しさを引き起こしているのだ。僕たちはハルを探しながら歩いた。しばらくすると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ココダヨ」
僕たちはその声に気が付いて、振り返った。
「ハル!」
「ナンダヨドウシタンダ?マダワカレテイチニチモタッテナイゼ?」
「ああ、それなんだが……」
つるぎは春の言葉を受けて、今リグディルーベがマストロヤンニたちのテロに合っているということ、僕たちはそれを撃退するつもりだということ、そしてそれが終わったらすぐに神聖ミギヒナタ国に行くつもりだということを伝えた。
「ナルホドナ」
「そうなのだ。そして、ハルに一つ話があるのだが」
「ナンダ?」
「君はこの後どうするつもりだ?つまり、私たちが神聖ミギヒナタに行くとき、この前みたいに私たちと共に行動するか、それともここにとどまるのかということだ。私たちの目的は元の世界に帰ることだ。そして、そのために神聖ミギヒナタ国に行く。君の目的はたしか、魔法の科学的研究だろう?つまり、これから先、私たちと一緒に居なくてもそれはできるということだ。私たちはもちろん今までの君に感謝している。だからこそ、私たちは無理にハルについてきてくれとは頼まない。君には君の人生がある。だから、どうするつもりか教えてくれないか?」
つるぎの言葉を受けて、ハルは少しだけ押し黙った。そして、すぐにディスプレイに怒った表情を映して言った。
「オイオイソンナミズクサイコトイウナヨ!オレトオマエタチノナカダロ!?オマエタチトイッショニイクニキマッテルジャナイカ!ダイタイカミヲコロスナンテムチャクチャイッテルヤツニツイテイカナイトイウハンダンヲクダスホドオレノカイロハクサッチャイナインダゼ!?」
「……そうか」
僕とつるぎはハルのその言葉を聞いて、顔を見合わせた。そして、同時に笑顔を見せる。
「よかった。ありがとう、ハル」
僕はハルに向かってそう言った。
「カンシャナンテヨセヤイ!オレハサイショカラスキデヤッテンダゼ」
「うん……ありがとう」
「……」
ハルは照れたような表情をディスプレイに浮かべる。そして、思い出したように話し始める。
「アア、デモ、アトフツカダケマッテクレナイカ?」
「二日?なんで?いや、良いけどさ。というか、たぶん二日じゃミギヒナタに行くことはないと思うけど」
「イヤ、イロイロトコッチニモジュンビガアルカラサ……ア、アトハコレダナ……」
ハルはそう言うと、何か機械製のモノを僕たちに渡してきた。
「なにこれ?」
僕はハルからそれを受け取った後、それをしげしげと眺めながら尋ねた。
「ソレハオレトノツウシンシュダンダ。タブンコノマチノハンイクライダッタラオレニメッセージガトドクトオモウゼ」
「なるほど。何かあった時は、これでハルに連絡を入れれば良いわけだな」
「ソウイウコトダ」
「オッケー。ありがとう。じゃあ、なんかあった時は連絡するよ」
「オウ」
ハルはそう言うと、「ジャア」と言って、どこかに行ってしまった。
「さて。ハルにも会ったし、今日はもう切り上げて宿に戻ろう」
ハルを見送った後、つるぎはそう言った。
「良いよ。そろそろ疲れてきたし、今日はもう休もう」
そして僕たちは宿へと戻った。
翌日、僕たちはリグディルーベの西側に位置するルナグシ地区を歩いていたところ、南の方からものすごく大きな衝撃音を聞いた。
「つるぎ」
「うむ」
僕たちは、その音が聞こえた方向へと走って向かった。衝撃音の発生地点は僕たちがいたところからさほど離れていない場所だった。そこには、見覚えのある金髪の少女、ヴィエリオール。そしてそれを取り囲むような魔物たち。その隣にはこれまた見覚えのあるフルプレート装備の巨大な男、ジギルウォーク。そして、神聖ミギヒナタ国のマークの入った服を着ている兵隊らしき人間たちと、それと戦っている冒険者、そしてマストロヤンニと二体の天使の姿があった。マストロヤンニは、おそらくは『ゾゴバットの花』と『ラジウルス盾団』の党員であろう多くのメンバーたちと戦っている。第五位魔法を両側から放たれながらも、それらを一方は受け止め、一方は回避してやり過ごしている。そして、その魔法を放った者に切りかかっている。ヴィエリオールは従えている魔物を天使にけしかけていた。ジギルウォークは天使から放たれる魔法をすべて受け止めて耐えている。
「海斗」
「うん」
僕たちはその光景を見て、瞬時に行動を開始した。つるぎは天使たちの方へ。僕はマストロヤンニの方へとそれぞれ走っていく。マストロヤンニは、彼の身長と同じくらいの大剣を振り回しながら、冒険者たちをなぎ倒していた。
「おい!お前もっとかく乱させるように動けよ!」
「ふっ。知らぬ。我々は一歩も動かずして勝利することを目指しているのだからな!」
そんなマストロヤンニの攻撃の中で、平然と動き回って回避している者と、すべてをガードして受け止めている者がいた。たぶんあれは、それぞれの党にいる最高位冒険者のうちの一人だろう。
「クッソ。これだから筋肉教のやつらとは一緒にやりたくなかったんだ!」
「それは私たちも同じだ。小娘の下についているような軟派な男と共闘なぞ望んでおらぬ」
「あんだって!?誰が軟派男だって!?」
先ほどまで動き回ることによって攻撃を回避していた男の方が、その言葉によって足を止める。その隙をマストロヤンニが見逃すはずはなく、豪速で鋭い金属の塊をその人の頭に振り下げる。
「だったら俺も受けてやるよ!」
彼はそう言うと、持っていた両手剣でマストロヤンニの攻撃を防ごうとする。マストロヤンニの鉄槌は、そんな彼の心意気を打ち砕くかのように、掲げられた両手剣を粉砕していく。
「うっそだろ!?」
彼はすぐさま後ろへと引くが、マストロヤンニの剣は自動追尾システムがついているかのように正確に彼ののどを貫こうと伸ばされる。
「ぐぅ?」
彼はそれを身体を極限までそらすことによってギリギリ回避する。伸ばし切られたマストロヤンニの腕は、そのまま反らされた身体に向かって降ろされた。しかし、彼はそれすらも回避していく。
「はあ!」
マストロヤンニの側面を突く槍の一撃を、先ほどまでマストロヤンニの攻撃を拗ねてガードしていた方の男が放つ。マストロヤンニは蹴りを放ち、槍の先を上にずらすことによって回避する。そして、剣を水平に振り、放たれた槍を半分に切断していく。
「なに!?」
その男は驚愕したような声を出しながら、一歩だけ後ずさりした。僕は両手剣を粉砕された方の男がもうすでにマストロヤンニの射程から外れていることを確認した後、すぐに汎用系第四位魔法「矢轟雨臨」をマストロヤンニに向かって放った。マストロヤンニはすぐに自身の前に大剣を引き寄せ、その大剣の腹で矢を防ぎながら、後方へと飛んだ。