第百話 帝都の現状
僕たちはミギヒナタに進軍するための準備を整えようとした。しかし、ここ最近まともに冒険者ウーノンで依頼を受けていなかった僕たちの軍資金は底をつきかけていた。なので、僕たちはとりあえずお金を稼ぐために冒険者ウーノンへと足を運ぶことにした。冒険者ウーノンは相変わらず人が多かった。「凪のシュロツィア」の団員に絡まれたら面倒だななどと思いながらも、僕たちはカウンターに足を運ぶ。すると、受付をしている女性がつるぎの姿を見て驚いたような顔をした。そして口を開く。
「生きておられたのですか……?」
「うん?」
つるぎが聞き返すと、その受付嬢は話し始めた。
「神聖ミギヒナタ国の一隊が引き起こした事件で、『凪のシュロツィア』のミナレ様他何名かはご存命であることを確認しましたが、お二人は確認できなかったので、てっきり……」
「なるほど。勝手に死人にされていたということか」
「いえ、死亡者リストには載せていませんが、行方不明リストには……」
「では、見つかったのだから良かったな。その行方不明者リストからは私たち二人の名前は消しておいてくれ。それで、いくつか簡単な依頼を受けたいのだが……」
つるぎがそう言って依頼を受けようとすると、受付嬢は申し訳なさそうな顔をしながら言う。
「申し訳ありません。ただいま、帝から勅令が出ておりまして、その内容が最高位冒険者は例外なく全員神聖ミギヒナタ国の侵入者を排除することをなによりも最優先せよというモノになっています。ですので、最高位冒険者であるツルギ様には、他の依頼をご紹介できないのです……」
「だが、こちらとしても、金がないので準備が出来ないのだが」
「それでしたら、冒険者ウーノンが融資いたしますが、いかがでしょう?」
「利子はいくらだ?」
「最高位冒険者様ですと、無利子でお貸しできますよ」
「……無利子か……どうする、海斗?」
「良いんじゃない、借りても。だって、他の依頼は受けられないわけでしょ?」
「はい。その通りです」
「なら借りるしかないよね。あ、そうそう、ミギヒナタの連中が事件を起こしてから、何かこの街に動きはあったの?僕たち、ちょっと潜伏してたからさ」
僕は受付嬢にそう尋ねた。帝王からの勅令が出るなんて、よっぽどのことがない限りないはずだ。ということは、僕たちがレーレンに言っている間にそのよっぽどなことが起きたのだろう。
「はあ、わかりました。では簡単にですがご説明させていただきます」
そう言って彼女は話し始めた。まとめるとこんな感じだ。
僕たちが神聖ミギヒナタの連中と戦った後、「凪のシュロツィア」は半壊。マストロヤンニとあの天使二体は、ちょくちょくこの帝都でテロ行為を行っていたらしい。最初は僕たちが止まっていた宿のように建物がいくつか燃やされたりするだけだったが、次第に都民にまで手を出すようになったらしい。そこで、帝の勅令が出て、最高位冒険者が総出で撃退することになったらしい。しかし、なかなかそれが出来ないでいる状況が続いており、今、都は恐怖に沈んでいるらしい。
「そんなに強いの?」
「ええ。『ゾゴバットの花』や『ラジウルス盾団』などの最高位冒険者ぞろいの党が総出でかかっても、なかなか撃退できていないことからも、相当な強さだということが言えます」
「ああ、『ゾゴバットの花』って、確か金髪の女の子の」
「ええ、そうです」
僕が思い出していると、つるぎが
「女の子のことだけはしっかりと覚えられるのだな」
と言ってきた。
「いや、そんなんじゃないよ。確かその女の子とゴリゴリのおじさんが一触即発だった時に、いきなりつるぎがどこで依頼を受けられるのかって聞いて、すごい空気になったのを覚えてたから、たまたまその子のことも覚えてただけだよ」
「ふーん……」
つるぎは口をとがらせながら僕の方をちらりと見たが、すぐに受付嬢の方に向き直って口を開いた。
「では、とりあえず融資を受けよう。金を貸してくれ」
「承知いたしました」
しばらくして、お金が入った袋を何個か持ってきた受付嬢がやってきた。
「とりあえず今お貸しできるのはこのくらいですね」
「わかった」
つるぎはそう言いながら、渡された袋の中身を一個一個確認していく。そして、再び口を開く。
「あと一つ聞きたいのだが、その勅令の依頼は達成するとどうなるんだ?」
「はい。一応、今お貸ししたお金の何倍かの報酬金と帝から特別な褒章がいただけるらしいです」
「なるほど。わかった」
そして、つるぎはすべての袋を抱えると、受付嬢にお礼を言って出入口へと向かった。僕も受付嬢にお礼を言って、つるぎの後に続く。
「さて、図らずともすぐにミギヒナタに行ける準備ができるだけのお金が集まったが、この後はどうしようか」
「どうしようかって、マストロヤンニたちを撃退するんじゃないの?」
「それなんだが、そんなことはせずに神聖ミギヒナタ国に進軍するのも良いのではないかと私は思っているのだ」
「なんで?」
「だって、ここでマストロヤンニたちが暴れているうちにミギヒナタに行った方が、手ごわい相手が少なくて済みそうではないか」
「いや、つるぎはあれを忘れてるよ」
「あれ?どれだ?」
「あいつらは、瞬間まではいかないけど、とにかく長距離をすぐに移動できる能力があるじゃないか。だから、たぶんここでマストロヤンニたちが暴れていても、すぐに神聖ミギヒナタ国に帰ってこれるんじゃないかな。あと、今思ったけど、たぶんマストロヤンニたちはテロ行為をしているとき以外は神聖ミギヒナタ国に帰ってるよ」
「ああ、そういえばそんな魔法が使えるのだったな、やつらは……」
つるぎは小さくうなずきながらつぶやく。
「だから、ここであいつらを倒しちゃって、借金も返してスッキリしてから神を殺して元の世界に帰ろうよ」
「うーむ……まあ、その方が良いか」
「うん。僕はそう思うよ」
「わかった。では、そうしよう。ただし、この金でとりあえずいつでも神聖ミギヒナタに行ける準備だけは今のうちにしておこう」
「良いよ」
こうして僕たちはとりあえずお金を手に入れたのでミギヒナタに進軍するための準備をし始めた。