終わり
「明日には退院ですよ」
看護婦さんからそんな言葉を聞かされて、僕は少し安心した。正直もう病院という所はこりごりという気持ちがあり、あれ以来電話は電源を切っていて鳴ってないが、またいつ掛かってくるかビクビクしながら過ごしていたからだ。
涼太の事は気になったが、それより恐怖心の方が勝っていた。
そんな夜の事、消灯時間も過ぎ僕はなかなか寝付けずにいた。何気なく窓から外を見ると街灯がパチッパチッとついたり消えたりするのが見える。
何気なくボーッと見ていると一瞬人影が見えた気がした。気のせいか、そう思った矢先パチッパチッ、間違いなく誰かいる。こんな夜遅くに病院の前で何してるんだ?時刻は夜中の丁度0時を指していた。
なんとなくじっと見ていると、顔をググっと上げて2階を見上げているようだ。その影は端からゆっくりと何かを探すように見つめている。そして、僕と目が合った。
咄嗟に隠れたが、やはり気になりそっと窓に顔を出す。すると影がゆっくりと病院に向かって歩き出したのだ。勿論病院の門は閉まっている。しかし、その影はまるで門など無かったかのようにスっとすり抜けたのだ。
その瞬間、僕はあの影が人ではないと確信した。まずいものを見た。そう思い布団を被った。
最近立て続けに嫌なことが起きてばかりだ。でも明日には退院できる。今日を乗り切れば全て終わるんだ。そう思い必死に目をつむり身を屈める。
その時だった。
キィキィ
昼間は多くの患者で賑わう病院も、夜の病院はとても静かしんっと静まり帰っている、そんな中その音だけが微かに病院内を児玉していた。
「まさか、いや有り得ない、そんなはずは無い幻聴だ。携帯の電源も切ってある」
キィキィキィ
遠くの方から聞こえる音は次第に僕のいる病室へと近づいてくる。その音はまるで一部屋一部屋確認するかのように、少し動いては止まり、そしてまた動き出しといった様子で廊下に響いていた。僕は慌ててナースコールに手をかける。
「誰か、誰でもいいから来てくれ!!」
しかし、何故かなんの反応もない。
キィキィ
その間にも徐々に近づいて、遂には僕の病室の前でピタリと止まった。僕は激しい恐怖に襲われながらもゆっくりと病室の窓を見る。しかし、そこには人影はない。
ブーーー、ブーーー
突然携帯が鳴った。
「嘘だろ!?電源は切ってたはず」
ブーーー、ブーーー
僕はただただ怖くて布団に包まりガタガタ震える。早く何処かに行ってくれ、そう祈りながら。しかし
カラカラ
病室のドアが開く音がした。誰か入ってきた、ナースコールに気づいた看護婦さん?一瞬そう思ったが
キィキィ
その音で確信した、奴が入ってきた。
ブーーー、ブーーー
キィキィ
やだ、来るな、来ないでくれ。
ブーーーブーーーブッ…
携帯の音が止まった。そして、再び病室内は静寂に包まれる。何処かに行ったか?恐る恐る布団から少し隙間を空けると周りの様子を伺う、病室のドアは開きっぱなしで誰もいない。しかし、僕は見てはいけないものを見てしまった。
ベットのすぐ横に青い車椅子があったのだ、勿論さっきまでは無かった。
「やっと見つけた」
布団の隙間からにゅっと顔が覗き込む、それは涼太…ではなく別の何かだった。青白い顔をしたそれはケタケタと笑いながら布団の中に入ってこようとしている。僕は必死に逃げようとしたが、そいつと目が合った時から体が金縛りにあって全く動けない。奴の青白い手が僕に触れる瞬間意識を失った。
次の日、目を覚ますと朝になっていた。看護婦さんに昨日の事を話したが、ナースコールは鳴っていなかったしそんな車椅子はなかったと言われた。あれは夢だったのだろうか、退院する時看護婦さんから呼び止められた。
「あ、和也君これ、ベットの下に落ちてたけど君の物?」
「それは、紛れもなくあの廃病院で無くした涼太の携帯だった」
~完~