死者からの電話
病室に戻るとベットに横になる。真っ白な天井にはしみひとつない。僕は1つため息をつくとベットの横にある机に目をやる、そこには事故の時の僕の所持品だろうか乱雑に散らばっている。
ふと携帯が気になり手を伸ばす。電源を入れようとするがやはりなんの反応もない。
でも確か1度だけ夜中に鳴ったよな、電池が切れたのか?そう思い充電器を差し込むと、割れた液晶に充電中の文字が浮かんだ。
どうやら携帯は無事なようだ。改めて電源を入れると着信が数件着ていた。
1件は母親からだった。そう言えば親はこの事故の事は知っているのだろうか、母子家庭の僕は母がいつも仕事で忙しくあまり会う機会もなかったが、おそらく今も仕事が忙しくてなかなかお見舞いにも来れないのだろう、そう思った。
「他にも着信があるな…え…?」
着信履歴には、涼太そう書かれていた。涼太が俺に電話を?僕はここが病院だと言うことも忘れてリダイヤルしてみた。
プルルル、プルルル、プルルル
なんの反応もない、僕は諦めて通話を切ろうとした時。
ガチャ
誰かでた、恐る恐る声を出す。
「あの、涼太?」
そんなはずは無い、それは分かっていた。涼太は数週間前に死んでいる。だけど、それなら誰かが携帯を拾ったのかもしれない。しかし、携帯からはなんの反応もない。よく聞いてみると何か聞こえる。
キィキィ
その音に聞き覚えがあった、ボクは直ぐに通話を終了すると携帯を投げ捨てた。
次の日、警察にこの事を話すことにしたのだが、そこで信じられない事を聞かされる。
「君のこの着信履歴、おかしいんだよねぇ」
「な、何がおかしいんですか?」
「いやね、これ、着信きたの涼太君の死亡推定時刻から、2日後なんだよねぇ」
なんだよそれ、つまり死んだ奴から電話が掛かってきたってことか?
「誰かが拾った携帯で悪戯してるのかねぇ、貴重な情報ありがとね、また何かあったら宜しく」
その夜はなかなか寝付けなかった。当然だあんな話しを聞かされたのだから、時計を見ると0時を回ろうとしている。病院内は既に消灯時間を過ぎており、シンっと静まり返っている。その時だった。
ブーーー、ブーーー、ブーーー
突如携帯がなり始めた。携帯画面を確認する。
着信、涼太
ありえない、こんな事はありえないよ。
ブーーー、ブーーー、ブーーー
誰かが涼太の携帯を拾ってイタズラしてるんだ。きっとそうに違いない、僕は自分にそう言い聞かせ通話を押した。
「おい、誰だか知らないけどその携帯は涼太のだぞ」
「おぉ、やっと繋がったぜ、和也か?」
携帯から聞こえてきたのは涼太の声だった。僕はその有り得ない状況に声が出なかった。
「あ…え…おま…」
「お前今何処だよ、1人で逃げちまってさぁ」
「び、病院だよあの後事故にあって…」
「ふーん、何処の病院?」
「きの…」
その時、直感的に言ってはいけないそう思った。今通話で話している相手は涼太じゃない、涼太は死んだんだ。
「そ、それよりお前は何してんだよ!」
「俺か?実は俺も足を怪我してよぉ、入院してるんだわ」
怪我?入院?あの時涼太は怪我なんてしてなかったし、ましてや既に死んでるんだぞ、そこで警察の言葉を思い出す。
「実は涼太君の両足が折れてましてね」
心臓はバクバクと弾けそうなくらい鼓動を立てるが、何故か携帯の通話をきることができない。
キィキィ
またあの音だ、車椅子の音が電話越しに聞こえてくる。
「なぁ、何処の病院なんだよ」
「なんで、なんでそんなの聞くの」
「だって、お前の顔見に行けねーじゃん、1人で逃げやがって、許さねーか…プッ」
慌てて通話を切ると電源を切った。布団にくるまりガタガタと震える。電話越しに聞こえてきたあのキィキィという車椅子の音が耳にこびり付いて離れない。