友人は死んでいた
1階の受付の横にある大きなテレビが置かれてある場所に固定電話はあった。テレビの前には入院中の患者だろうか、数人が座ってテレビを見ている。僕は取り敢えず財布に入っていた小銭を固定電話に入れると友達の携帯番号を入れた。
「お掛けになった電話番号は、現在電波の悪い場所にいるか、電源が入っておりません、もう一度…」
ガチャ
その後、何回かかけてみたが通じることは無かった。
「次のニュースです。今朝未明、行方不明になっていた。東京都に住む浅野涼太さんが近隣の山奥で遺体で発見されました。涼太さんに目立った外傷はなく、警察は事故として捜査しています」
テレビから流れてくるニュースに僕は耳を疑った。浅野涼太、それは間違いなく涼太だった。そこに映し出されていたのは、2人で行った廃病院があった場所の付近。
「し、死んだ?涼太が?」
僕は何が何だか分からず、座り込む。あの時一緒に車に乗っていたのに、なんでそれがあの病院の近くで遺体で見つかるんだよ。なんなんだよちくしょう!!
「鈴木健太君だね?」
突如名前を呼ばれて顔を上げるとスーツ姿の大人がこちらを見下ろしている。
「私はこういうものだけど、少し話しを聞きたいんだが」
見せられたのは警察手帳だった。
「はい…」
その警察の話では涼太に外傷はなく、事故だと断定されたらしいのだが、あの夜一緒にいた僕に事情聴取を取りに来たらしい。
「すると、あの晩君は涼太君と一緒にあの廃病院に行って、その帰りにはぐれたと?」
「…はい」
本当は一緒に車に乗った、そう言いたかったが皆の話しを聞く限り、乗っていたのは僕一人だったらしいし誰も信じてはくれないだろう。
「何かその時言ってなかったかい?」
「何か…、そう言えば携帯を落としたから取りに行くって」
「携帯?あの廃病院にかい?」
「はい」
「どこに落としたか分かるかな?」
「えっと、確か2階の203号室でした」
それを聞いた警察は、もう1人に何やら耳打ちすると、もう1人は病院を出ていった。
「他になにか言ってなかったかな」
「いえ、特には…」
「そうか」
「あの、涼太はなんで死んだんですか?」
「うーん」
警察は少し話ずらそうな顔をすると、しばらく考えた後話しを切り出した。
「ちょっとショックかもしれないど、浅野涼太君は森の中で身を屈めたまま何かに怯えるようなそんな形で丸くなったまま死んでいたんだ。最初は君を疑ったんだがね、どうやらあんな状態で殺すなんてことは無理だと判断したんだよ、死因はなんらかによるショック死としか言いようがないね」
「そんな…」
「そう言えばもう1つ聞きたいんだけど、涼太君はその時、怪我とかしていなかったかい?」
「怪我ですか?いえ…」
「ふむ、実はねその時発見された遺体の足が2つとも折れていたんだよ、それが不可解でね。そんな足でどうやってあそこまで歩いたのか、あそこで折れたにしてはそんな原因はないわけだし」
「分かりません」
「そうか」
その時、病院を出ていったもう1人の警察が戻つてきた。そして再び耳打ちするとまた話し出す。
「今部下がその廃病院にいましてね、その203号室に行ってみたんだけど、何も無かったそうだ。因みに彼の遺体の所持品にも彼の携帯は無かったそうだから一体何処に落としたのかね」
そう言うと警察は立ち上がる。
「いやぁ、ご協力感謝します。また何か思い出しましたらこちらに掛けてください、どんな些細な事でもいいですので」
渡された名刺には電話番号が書かれてある。僕は部屋に戻ることにした。まさか涼太が死んでいたなんて、しかもあの森の中で、あの時一緒に車に乗ったのは一体誰だったんだ。
ふと自分の病室の前で立ち止まる。2階にある階段を登って3番目のその部屋には203号室と書かれてあった。