始まりはこれだった。
全身が痛い、背中なら足にかけて少し動かすだけでズキズキと痛みが伝わってくる。
目を開けると、霞んでよく見えないが手に着いた血で何が起きたか確信した。
僕は、友達と一緒に車である場所に向かった。そこは昔閉鎖された廃病院で、いわゆる肝試しと言うやつに誘われたのだ。
2人で向かったその場所は、山奥のなんでこんな所にという場所にあった。
「おい涼太、本当に行くのかよ」
「何?お前ビビってんの?」
「ビビってねーけどよぉ、なんかきみわりぃぜ」
「大丈夫、俺前ここ来たことあるし、そん時は何も起きなかったぜ」
そう言うと友達の涼太は病院の中へ入っていった。携帯を見てみると夜中の0時を回ろうとしていた。
「おい、待てよ涼太」
僕も慌てて後をつける。
中は真っ暗で、持ってきた懐中電灯の明かりで内部を照らしてみると、割れたガラスの破片や何かの書類だろうか、辺り一面に散らばっている。
「な?なかなかいい感じだろここ」
「何がいい感じなんだよ」
正直僕はこういった場所は苦手だった、というよりわざわざこんなとこに出向いて呪われるのは馬鹿げていると思っていたのだが、半ば無理やり連れてこられたのだ。
「もう、帰ろうぜ」
「大丈夫だって」
涼太は振り返ると、突然真っ暗な廊下に向かって大声で。
「オーーーーーーーイ!!」
「オーーイ、オーーイ、ォーィ……」
その声は廊下に反響しながら、闇の中へと消えていった。
「な?誰も居ねーって」
キィキィ
突如錆びた歯車のような音が後ろから聞こえ直ぐに振り向く。ライトを照らすと古い車椅子が置かれてあった。
「お、おい今なんか音がしたよな」
「あ?したか?」
「したよ!!、その車椅子の方から」
涼太はその車椅子に近付くと、手で動かしてみせる。車椅子はキィキィと音を立てなんとも不気味だ。
「風かなんかで動いたんじゃねーの?、それかこの病院が傾いてるとかあはは」
「風なんか吹いてないだろ!なぁもう帰ろうぜ」
「まだ来たばっかじゃん、ほら行くぞ」
涼太はどんどん先に進んでいく、僕一人で帰るわけにも行かず。その後をついて行くしかなかった。
「1階は特に面白いようなもんはねーな、となると次は2階か」
2階へ登っていくとまた真っ暗な廊下が両方に続いている。ライトで左右を照らすが、その光は端まで届くことはなく、闇が広がっていた。
2階もしばらく歩き回ったが特に何がある訳でもなかったが、突如ひとつの部屋で涼太が立ち止まった。
「ここ入ってみようぜ」
「札には203号室と書かれている」
ガラガラと横開きのドアを開けると中は薄汚れたベットだけが置かれてあった。
「あーあ、なんかつまんねーな」
涼太はそう言うと一番奥のベットに横になった。
「お、おいそんなことしたらまずいって」
「何が?」
「なんか出たらどうすんだ」
「お化けならむしろ出てきて欲しいんだけどさぁ、その為に来たんだし」
その時だった。
キィキィ
「おい、今聞こえたよな」
「あぁ聞こえた」
キィキィ、キィキィ
さっきの車椅子を動かしているような音が病院内に響いている。2人は慌てて、部屋を出て真っ暗な廊下にライトを当ててみるがそこには何も無い。
「おい、もう帰ろう、十分だろ」
「しゃーねーな」
そう言うと2人で階段を降りる。2階から1階へ向かう階段の丁度真ん中辺りから、1階の方を照らした時だった。2人は思わず息を止めて目を見合わせた。
そこにあったのは、先程の車椅子でしかも不自然なことに階段の3段目の所にあったのだ、まるで登ろうとしているみたいに。
「ッギャーーー!!」
僕は思わず悲鳴を上げてなりふり構わず廃病院を出た。そしてそのまま車のある方へと走り出した。
なんとか車まで辿り着いた時、冷静さを取り戻した僕は涼太の事が気になり後ろを振り向いた。しかし、そこに涼太の姿はなかった。無我夢中で走って来たので、一緒に階段のとこにいたまでは覚えているのだが。
辺りを見回してみるが、山の中、シーンっと静まり返った森にはザワザワと風に揺られた木々の音だけが響いている。僕は慌てて携帯を取り出し涼太に電話をかける。
プルルル、プルルル
4回、5回とコールがなっても誰も出る気配がない。
プルルル、プルルル、プルルル
その時だった。
「おい」
突如後ろから手がかけられ驚いた僕は再び悲鳴をあげた。
恐る恐る振り向くとそこには涼太の姿があった。
「な、なんだお前かよ驚かすなよ」
「わりーわりー、だってお前物凄い勢いで逃げてくんだもん」
「携帯に電話したのに早く出ろよな」
「携帯?、あれ、おかしいな」
涼太はポケットを漁るが何やらおかしい。
「やべ、落としたかも、多分ベットに寝転がった時だ。俺、ちょっと戻って取ってくるわ」
「マジかよ、あそこにもう一回戻るなんて無理だぞ、諦めろよ」
「んな事いったってよ」
「いいからもう帰ろうぜ、携帯ぐらい新しいの買えって!!」
「分かったよ、お前ビビり過ぎ」
僕は涼太の言葉にはもはや耳も向けず、運転席に入ると助手席に涼太を載せ走り出した。
その帰り道だった、カーブで突然ハンドルが効かなくなりそして…
今の状況を確認してみる。全身はミシミシとまるで骨が軋むような痛みだったが、なんとか車から履いでると携帯で119番を押し電話をかけた。そこまでしか記憶にない、気がつくと僕はベットの上にいた。