8話 動物虐待そして謁見へのお誘いと顔面ブリンブリン
「戦域上空偵察より映像来ます!」
オペレーターが甲高く叫ぶ。
ヤタさん。そんなのまでもたせてたのかよ・・・・・・
程なくスクリーンに画像が映る。
・・・・・ドローンだよね?完全にドローンだよねこれ?
「ドローンみたいな映像・・・」
「いえ烏です。証拠をお見せします。」
右手に持ってるヘッドセットになにか支持するヤタさん。
するとスクリーンに烏のつぶらな黒い瞳が写り込んだ。
「あぁ・・・烏だね・・・・・」
映像が地上の状態を拡大表示していく。
逃げ惑う獣とそれを嬉々と追い立て殲滅していく戦乙女達。
うわぁ・・・・まさに動物虐待。
次々に獣たちを蹂躙していく戦乙女達。
10分ほどで残敵掃討が終わり報告が上がる。
「残存敵の存在を認めず!」
「状況終了! 戦乙女は第四中隊を除き、帰陣! 第四中隊は焼却装備に換装後、遺骸の焼却に移れ!」
スクリーンには第四中隊が隊列を整えている映像を映し出している。
なぜ判別がつくのかって? テロップが出ているのだ。”中継:第四中隊”
綺麗に隊列をなしたかと思うと、それぞれの戦乙女が光りに包まれる。
そして・・・・
「・・・・・おい。あれって・・・・・」
「焼却装備じゃよ。」
5列50人の戦乙女だった天女がガス・マスクのような仮面。全身を覆うチャコールグレイの防護服。
背中にはタンクのようなものを背負いそこから伸びたパイプにつながる右手の金属の棒?
棒の先はバーナーの頭のようになっておりチロチロと火が燃えている。
おぞましいく感じる姿の火炎放射器部隊。
それが各個に散開し焼却処理をはじめた。
「ほっておくと疫病の元じゃからの。さて、我々も本陣へ移動するかの。 観測指揮所撤収!」
ウズメがそう下命すると、パッと入り口を向き出ていく。俺たちもあとに続いた。
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本陣天幕前に鎧を着込んだ青年も終わりかけのガッチリとした男が、ビシッっと背を伸ばし立っている。
近づくと、サッと前15度の礼。おぉ・・・・軍人ぽい動き。
顔を上げ少し大きな声で、
「天軍の総司令官ヒロシ様、私はツヴァイス侯爵家副騎士団長のガイアスと申します。お話がございまして、まかりこしました。先程は上司のボルグが大変な失礼を行為に及んだとか、平にご容赦ください。」
・・・・・あぁ、この人いい人だ。しかも上司の失態を謝罪してる。あのデブ・・・・ボルグだっけ?あいつには余る部下だわ。
「あぁ、いえいえご丁寧に。立ち話も何ですから、中にはいりませんか?」
「構わないのですか? ボルグは入るのを止められたとか。」
「作戦行動中でしたからね。関係者以外、入場禁止だったんですよ。現在は作戦も終わってますし、どうぞ。」
「そうですか。では失礼。」
俺達に続くようにガイアスが入る。
「!」
目の前の光景に驚愕するガイアス。
あ・・・・・近代戦略作戦司令部仕様だったっけ・・・・
オペレーターたちがディスプレーを前にヘッドセットで残務処理を指示している。
真ん中にそそり立つ地図が書かれたが大きなガラス板。
あの動いている光点は・・・・・あぁ焼却部隊の方々ねぇ・・・・
「こ、これは!・・・・・」
ガイアスが絞りだすように声を漏らす。
「あぁ、戦略作戦司令部・・・・本陣ですね。」
あははぁと視線を泳がせながら説明する。
「天軍の本陣がこれほどとは・・・・・・夢の世界のような・・・・・」
「驚いている所申し訳ありませんが、奥へどうぞ。お茶でも持ってこさせますので。」
「あっ、これは申し訳ない。」
奥の休憩スペースにガイアスを案内しサクラさんにお茶をお願いする。
「でお話とは?」
「単刀直入に言います。明日、公爵閣下に謁見していただけないでしょうか?」
ですよねぇ・・・・当然そうなりますよねぇ・・・・
どう探りを入れたものか。
「それは、お願いで?」
「私の心としてはお願いです。」
そうだろうねぇ。
事実上は公爵権限での出頭命令って訳か。
ガイアスが申し訳なさそうに続ける。
「途中からですが、あの戦闘を見せられた後では、お願いという他ありません。貴方様の機嫌を損ねることがあれば、この街、いやこの国が焦土と化してもおかしくない戦力ですよね?」
「この国を焦土と化すのに200騎もいらぬ。1騎で十分じゃ」
ウズメさんやウズメさん?
なぜ話を複雑にするような事を宣ってくれちゃうんですか?
・・・・ほら、ガイアスさん真っ青だよ。
「ウズメさん。少し黙っててもらえますか?」
人前だ。一応丁寧にお願いする。
一応俺は大人だ。これが社会人としての良識なのだ。
プッと頬を膨らませ横を向くウズメ。
お茶が入る。
「どうぞお茶でも飲んで。」
「ありがたい。」
お茶をすすめ気を取り直させる。ガイアスはお茶をすすりホーっと息を吐く。
「天軍だと疑ってる訳じゃないのはわかります。」
「あれだけの事を人間が出来る通りがありません。偉い方々には、それが分からんのです!」
どっかで聞いたことがあるようなセリフ。
脚は飾りでしたっけ?たしか。
「侯爵家の事色々と教えていただけますか? 複雑なご事情を抱えていらっしゃるようですので。」
目を細めゆっくりとした口調で聞いてみる。
無論、脅迫ではない。
お願いである。紳士的なお願いなのである。
ガイアスがハァーっとため息を吐き仕方がないと言った表情で話し始める。
「実は・・・・・」
話によるとこうだ。
13歳の若い侯爵を補佐する立場にある執政官があの騎士団長のデブとつるんで領地のあらゆるものを食い物にし私腹を肥やしているらしい。
まぁ、よくある設定・・・・あいや、話だ。
で、そいつらがこともあろうか、戦乙女達を配下に加え好き放題しようとしているというのだ。
・・・・ウズメを見る。
えっと、この人型殺戮兵器を?好き放題?
いんじゃね?
出来るものなら。
結果見えてるけど。国消えるよ?
そんな事を言い出せばとんでもない結果が待っていると理解したガイアスが現場の自己判断で前もって事態収拾しようとしているのだ。
「妾達天女も随分甘く見られたものじゃ。」
「て、天女様? どおりでそのお美しさ・・・・」
びっくりし尊崇の視線を向けるガイアス。
「200騎でも相手は女だと馬鹿にしてるんだろうな。デモンストレーションしたのに・・・」
首を横に振る俺。
「幻術のたぐいか何かだと思っているようです。」
首を横に振るガイアス。
「まぁ人間は見たいものしか見ないし、聞きたいことしか聞かない。何事も自分に都合よく理解しようとするしな。特に馬鹿。」
「どうしたものかの。公爵の邸宅と騎士団だけ消そうかの?ほれ、消してしまえば面倒事もなくなるじゃろ。」
「それ、面倒事増えるだろ。この国を敵に回す気かよ。」
「歯向かってきたら、その場その場で蹂躙し殲滅すれば良いだけじゃろ?」
「ほんと”蹂躙”とか”殲滅”って言葉好きだよな?」
「当然じゃ”蹂躙”・”殺戮”・”殲滅”は天女にとって当たり前の標語じゃぞ?」
ふとガイアスに目を向けるとその目は恐怖に染まっている。口元がワナワナと震え滝のように冷や汗を流している。
「ガイアスさんを怖がらせてどうする。」
「・・・・・・ほれ、これで汗を拭うが良い。」
ウズメが折りたたまれたハンカチのようなものをガイアスに差し出す。
綺麗な布だ。薄ピンク色で光加減で虹色になる。
「綺麗な布だな。」
「古くなった羽衣の端切じゃ。汗を拭ったり手洗いの後を拭うのに調度よくての。」
羽衣のハンカチとかどんな贅沢だよ。
汗を拭いながらガイアスが口を開く。
「て、天女様。ヒロシ様。どうか、どうかお気を静めください。どうか蹂躙だけはお許しを!」
懇願だよ。懇願。それに俺は蹂躙を止める方に話してたよね?ね?
まるで俺がウズメの共犯者みたいじゃないか!
こんな人型殺戮兵器と一緒にしないでもらいたい!断固抗議する!
・・・・・・・・落ち着け俺。落ち着け。俺、負けるなぁ・・・負けるなぁ・・・俺ぇ・・・
「とにかく蹂躙も殲滅も殺戮も無し!ダメ!絶対!」
「・・・・・しかたがないのぉ。主様がそういうのであれば。」
残念そうにすんなウズメ!そもそも蹂躙や殲滅、殺戮が当たり前って天女の感覚がおかしいんだ!
「で、どうするかだ・・・200騎で舐められてるんなら、いっそ50万騎全部呼んじゃう?天女の壁だっけ?ずらーっと並べてさ?そうしたら、流石にびびるんじゃないか?」
「・・・・・・・・・」
ウズメが俺をじっとみる
「・・・・・・・冗談です。」
「天壁かぁ・・・良い案かもしれんの?まぁ後々面倒な事になるかもしれんが。」
「面倒なこと?あぁ神様から抗議が来るかもだしなぁ。でも、この世界に俺を放り込んだのはウカ様だし、その場合は連帯責任と言うことで、なんとかなるんじゃ?」
「まぁそれもあるんじゃが・・・・・よかろ。問題ない。」
ガイアスが驚愕の眼差しで、
「ご、50万? 200騎でも大概なのに、50万?・・・・・・」
「天軍全部じゃの。50万。」
ニコッとするウズメ。
あ、ガイアスが白目剥いて卒倒した。サクラさぁん!!!
丁度そこに、近衛大隊長を名乗る戦乙女が駆け寄って来て俺に向かって
「総司令官閣下!しばらくこの地への駐留ご許可願えませんか?」
「総司令官って俺?」
いつから"総”司令官に出世たんだよ・・・・
「はい!元帥閣下の主様となれば天軍の総司令官ということになります。故に駐留のご許可を!」
「元帥?げ、元帥ってウズメが?」
隣でズルズルと茶をすするウズメを見る。
「言っておらなかったかの?天軍における妾の階級は元帥じゃ」
ヤタさんに視線を送る。ちょっと離れたところでウンウンと笑いながら頷いている。
マジかぁ・・・・乳さらけ出して踊り狂う変質者だと思ってたら、天軍の元帥様ってか?
ウズメに目を戻すとズルズルと茶をすすってる。
「この辺りは俺の私有地じゃないからな。侯爵の許可がいると思う・・・・」
「なんとか許可を取り付けてもらえませんか!?」
「許可ねぇ・・・・・」
「これこれあまり無茶を言うでない。主様が困っておろう。」
「しかし5000年ぶりなんでよ?5000年ぶりに天を離れたのですよ?100年や200年駐留してもいいではありませんか!」
おいおい駐留する期間の桁が違うって!
それ駐留じゃなくて完全に住んじゃってるから。居住しちゃってるから!
ウズメがコトリと茶碗をテーブルに置き、俺に向かって申し訳なさそうに、
「主様こやつらの気持ちわからないでもない。なんとかならんかの?」
「・・・謁見したとき頼んでみるけど期待してもらっても困るぞ?先のあの話もあるし。」
「手間を取らせてすまぬの。」
・・・大隊長さん。
すっごく嬉しそうだよ。
嬉しそうに両手を上げ天幕から駈け出していっちゃったよ。
彼女の心の中ではもう既に決定事項なんだろうなぁ。
そして200騎の戦乙女さん達にもあっという間に広がるんだろうなぁ。
交渉失敗したら切腹なんて生易しいもんじゃ許してもらえないんだろうなぁ・・・・・
「はっ!」
がばっとガイアスが飛び起きる。介抱ありがとうサクラさん。
「ガイアスさん。明日の謁見の件、了解しました。私とウズメ、ヤタ、タチバナ、サクラの5名で臨ませていただきます。」
「ありがとうございます。では明日の朝宿の方にお迎えに上がります。たしか宿やリラでしたよね?」
「はい。」
「くれぐれもよろしくお願いします。」
深々と頭を下げるガイアス。2、3の打ち合わせのあとガイアスは戻っていった。
俺とウズメが天幕の外で見送ったが途中何度も振り返っては、頭を下げてたのが印象的だった。
「あの人も苦労してんだなぁ・・・・」
ぼそっと俺がつぶやくと、ポンッっと言った感じの光が隣で光る。
ウズメが巫女の少女姿に戻ってる。
「なんでその姿なんだ?他の天女はあの正装や装備以外、服着ることにかなり抵抗あるみたいだが?」
「こっちの姿のほうが楽じゃからの。戦乙女姿は肩がこる。それにこの姿なら乳を開けるのに支障ないしの」
「・・・・・・・胸を晒すことってそんなに大事なのか?」
「胸が布に覆われておったら払いの光を出せぬ。ゆえに防御もままならん。つまり天女にとって胸を隠す行為は無防備になると言う事に等しいんじゃ。」
「そういう理屈か・・・・」
「もっとも妾がこの格好をしている切欠は天孫降臨の随行者として天女の正装だと瓊瓊杵様の嫁探しに支障が出かねないと言うことだったからの。それに前の亭主がこの格好を好んだというのもあるの。」
「え!?前の亭主?」
「ん?」
「人妻だったの!?」
「そうじゃ。子も生したぞ?大昔の話じゃ。いまじゃ前の亭主も子らも天に帰るか、魂の輪にもどておる。妾も高天原に帰り再権現した身じゃから独身!はれて想人募集中じゃ!」
「・・・・・・・びっくりだわ・・・・その事実。」
「主様よ少しは古事記でも勉強したらどうじゃ?ほれ”のーとぱそこん”だったかの?あれで思兼ットでぐぐればよろしかろ?」
「思兼ット?」
「あぁ思兼ネットワークの略じゃ。」
それでかぁ”おもいかねっと・ぶらうざ”って表記・・・・・
「で前のご主人ってどんな人?」
「猿田彦じゃよ?」
「たしか組伏したんだっけ?」
「そうじゃの。勘違いで組伏して・・・この胸で顔面ブリンブリンの刑にしてやったのじゃ」
・・・・・顔面ブリンブリンの刑ってなんだよそれ・・・どんなプレーだよ・・・・
それに少女に組伏されその胸で顔面をブリンブリン?される天狗の絵面、シュール過ぎんだろ・・・・・
「でじゃな。降臨が済んで落ち着いた頃から猛烈にアタックされての。夫婦になったんじゃ。ただの前の亭主はこの姿しか好まなかったのじゃ。この姿でおらぬと機嫌が悪くなり周りに当たり散らすので、仕方なくこの姿で過ごしたんじゃ。」
あぁ・・・・あれだ、”顔面ブリンブリンの刑”とやらで猿田彦さんの中の何かが壊れちゃったんだなぁ・・・人として大切な何かが・・・・・
「だからこの姿が今では一番楽かの」
日も傾いてきたのでウズメを促し天幕に戻とヤタさんが陸上自衛隊の制服制帽姿で立っていた。
サクラさんは見慣れた巫女姿。
「ヤタさん。サクラさん。どうしたのその格好?」
「シアさんに夕食に誘われてたじゃないですか。」
サクラが呆れたように言うとシアがクスクスと笑う。
完全に忘れてた。
そうだシアの父親から招待されてたんだっけ・・・・
「なら妾もそれなりの格好せねばの。」
「正装はダメ! 絶対!」
「大丈夫じゃ。戦乙女式典用の正装もある。」
「お?」
ウズメがニヤッと笑うと祝詞を唱える。
「妾の言宣持ちて顕現せよ 戦乙女丙武装!」
パッっと来仮につつまれ、ポンっとそれが消えると、真っ白いスーツの大人のウズメ。
膝丈のタイト・スカートに、腰までのジャケット。ボタンは2つ。Vの字胸元からやはり真っ白いシャツが覗き、真っ赤なネクタイが目立つ。変わってるのは両胸を守るように覆っている左右のプレート。
金色のまるでしめ縄のような金色の肩章には5つの金色の星が並んでおり、頭にはギャルソン・キャップ。ぐるっと金色の二本のライン巻かれており、ペガサスに乗った戦乙女を模した銀色のエンブレムが目立っている。
これはこれでかなり格好いい。
「えらい近代的な制服だなぁ」
「見た目は重要じゃからの。常に最先端をチェックしておる。」
両手を腰に当てずんと胸を張ってドヤ顔のウズメ。
部下に残務処理を下命する。
俺達は徒歩で移動を開始した。
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30分程歩いたろうか。
大通りに面した4階建ての石造りのビル。
大きな商会だ。間口は30mくらいあるだろうか。
一階スペースの天井は高く馬が繋がれていない荷馬車が何台か停まっている。
空きスペースで忙しく動く男たち。
荷運びするオーク。
シアがそのうちの一人を呼び止めなにか話をしたあと戻ってきた。
「こちらです。」
ニコっと笑いあるきだすシア。
商会脇の通りをお進んでいくと通りに面し立派な門がある。
門番の青年が会釈するとシアが彼に白い紙包みを渡す。
「これ差し入れです。」
「いつもありがとうございます。今門を開けますね。」
門が開き中に案内される。
大きな洋風の中庭。
左手に商館の裏手。
右手に結構大きな2階建ての西洋風屋敷が建っている。
真ん中に大きな玄関の観音開きの扉が見える。
俺たちはシアに案内されるまま玄関に伸びる石畳を歩いていった。