5話 増える変質者そして四天王とチャイナ・ドレス
・・・・もう朝か。
閉じたまぶた越しでも差し込む光が目に痛い。
・・・・疲れる夢だったなぁ。異世界とか俺相当ストレスが溜まってんだな・・・・
ゆっくりと目を開ける。あれ?天井こんなに高かったっけ?・・・・
・・・・・・・・
「!」
ガバっと起きてあたりを見回す。ベッドはキングサイズ。広い部屋、重厚な調度品。窓の外は・・・光が強くてよく見えない。
はぁ・・・・夢オチではないと眼前の現実が俺を直撃する。
はぁーーーーーー
深い溜息とともに、どっと疲れが押し寄せる。体の疲れじゃない。心が、心が・・・・
”コンコン”
「ヒロシ様、お目覚めですか?」
ノックとともにサクラさんの声が聞こえた。
「タイミングいいですね?」
「はい。気配でわかりますので。」
さすが神使だ。素直にすげーと感心する返事をする。
「すぐ行きます。」
パンツ一枚。服を探す。丸テーブルと椅子の上にスーツの上下とシャツ、ネクタイが
無造作に脱ぎ捨ててあった。
昨夜はあまりの疲労感から適当に脱ぎ捨てて寝てしまったのだ。
そりゃ濃い一日だったし精神的疲労が限界超えそうだったし。
「異世界で精神的ストレスが原因で過労死とか・・・・冗談じゃない」
そうつぶやきながらs、シャツを手に取る。スーツの上着はまだいいか。
シャツをモゾモゾといじりながらリビングスペースに向かう。
「おはようぅ・・・」
「「「おはようございます!」」」
タチバナさんサクラさんヤタさんがシャキッとした声で返してくれる。
あれ?ウズメは?
「ヒロシ様。あちらの部屋の方で、ウズメ様と配下の方々がお待ちでございます。」
示されたほうを見ると女性陣に割り当てられた使用人の部屋。
ウズメの配下?何しに来たんだろうと思いながら近づきノックする。
「入ってもいいかぁ?」
「おぉヒロシ様どうぞ入られよ。」
入室許可の返答を聞きドアを開け、部屋に一歩入り視線を上げ・・・・・・
変質者が増えとる!
ウズメは巫女姿だが、その後ろにほぼ全裸のそうウズメがアレの時そっくりな格好をした絶世の変質者が4人。
俺を見るとニッコリト微笑んで会釈した。
そーっと後退りしながら扉を閉めようとするとウズメがちょっと怒ったような声で
「ヒロシ様!無かったことにはできませんぞ!?」
見透かされてる・・・・
仕方なく部屋にズイと入り目のやり場に困っていると4人のうちの一人が不思議そうに声をかけてきた。
「どうかなさいましたか? 目が泳いでおいでのようですが?」
「い、いや、寝起きに乳丸出しの女性の裸体を鑑賞する趣味はありませんから・・・」
「え? 別にヒロシ様が気に病む必要はありませんよ?私達はこれが普通ですので」
視線を戻すと他のの4人が、”ネー、ソウダヨ、ネー”的なやり取りをしてる。
「恥ずかしさを感じないんですか?」
「恥ずかしい? なにがでしょう?」
「いやいや、うら若き乙女が男の前で胸をはだけて、しかも、ほぼ全裸。ありえないでしょ?」
4人がすごく不思議そうな表情で俺を凝視する。
「胸は清き乙女の武器なのです。魔を払い穢れを祓う神性な武器。いわば神の正義具現化。それを誇らしく思うことはあっても、恥じとは思いません!」
4人がブルンと胸を張る。うわぁ、ブルンブルン言ってるよ・・・・
「紹介が遅れたが妾のところの四天王じゃ。ちょっと気になることがあっての、この世界をササッと見て回ってもらったんじゃ。」
「そりゃ、そのなりならウズメの関係者いがいありえんでしょ。それと四天王って宗教変わってるよね?」
「”しゅーきょー”? あぁ解釈の違いで集団を形成しているアレじゃな。そんなに気にするほどのことかの?解釈の違い。妾には大日如来と天照大神の違いがわからん。」
”宗教”って解釈の違いだったのかぁ・・・・昨日の今日。4人の変質者から始まりそれがさも当然のように俺の中の常識が音を立てて崩れていく。
・・・・・・・・・
昨日、理不尽について散々学習したろ! 気を取り直せ! 頑張れ、頑張れ俺!
「・・・・・気になることって?」
「昨日のイノシシの件、覚えておるじゃろ? あの忌々しい”穢”」
「あぁそういうもんなのかなぁ?って思ってたけど?」
「本来、穢が半ば具現化するなど、そうそう有ることではない。それに・・・」
「それに?」
「あれ程の穢れを獣が纏うなど、人の子ならいざしらず尋常ではないのじゃ。」
「はぁ、それで、彼女たちにササッと調査してもらったと?」
「そういうことじゃ。」
「で?」
「もうすぐ穢があふれる可能性が高い。」
「ちょっと何言ってるかわからないです。」
「・・・・南の森で穢れた野獣がそこかしこを跋扈しておるらしいし」
ウズメが難しい顔をしている。少し滑稽だ。
「プッ」
思わず吹き出した。
「何じゃ? 何が面白いのじゃ?」
「いやぁ、ウズメでも難しい顔するんだと思ったら可笑しくて。」
「ヒロシ様!それはあまりに失礼ではありませんか!? 天軍の長に対して!」
先程の天女が怒りを含んだ抗議をしてきた。
「はぁ? 天軍の長? ウズメが?」
ウンウンとシンクロして頷く四人。
「ウズメさんやウズメさん。どういう事?穢払いの踊り子だよね?」
「踊り子じゃな! まぁ天軍の長でもあるがの。そもそも天女とは天の兵士なんじゃが?」
「・・・・・・・」
「もっともずっと平和ですることもなくウカ様の手伝いをすることになったのじゃ。それまでは暇で暇で」
ケラケラっと笑うウズメ。この眼の前の乳しか取り柄のないような巫女姿の少女が天の軍の長?
「て、天女って神様の手伝いをしたりとかそういうんじゃ?」
「それは神使や見習いの神がやることじゃ」
「純粋に兵士?」
「そうじゃ。天の誇る絶対的戦力。50万柱の天女。そしてそれを束ねるのが妾じゃ!」
腰に両手を当て胸を張ってのドヤ顔。おまけに後光がさしてやがる。
「じゃ、武神とか軍神は?」
「あぁ、それらの神々は、そうじゃなぁ・・・・謂わば決闘要員みたいなものかの?」
「決闘要員って・・・・」
「決闘で勝敗がつくなら、多数の犠牲を払わずとも良いじゃろ?実に効率的じゃ。」
「そりゃそうだけど・・・・」
「まぁ立ち話もなんじゃ。こちらに来て座ったらどうじゃ?」
丸テーブルを挟んで向かい側に座ると、天女の一人がお茶を入れてきますと部屋を出ていく。
「とりあえず状況が状況じゃ。彼女たちには暫くこちら側に居てもらう言にしたのじゃ。
万が一もあるでの。残りの天女達は、いつでも戦闘に入れるように臨戦態勢を命じたら、皆、目をキラキラさせて準備を初めておる。」
アップって。50万柱の変質者がアップって・・・・想像するだけでも恐ろしい。
ウズメが天女のアレコレを話し、お茶がはいる。
「天女の強さはわかった。天魔決戦の時の50万柱の天女の壁の話もタチバナさんから聞いてるし。」
「あぁ、あれな。本当なら100柱程度で十分だったんじゃ。それを天照様が、神には威光を示す事が何よりも重要であると言われての。50万柱でその宇宙ごと消し飛ばしてやったのじゃ。」
威光ねぇ・・・・単なる見栄じゃねぇか。しかし宇宙ごと吹き飛ばすって・・・あれ?
「ウズメさんやウズメさん?神の威光が大事なのはわかるけど、目撃者ごと全部吹き飛ばしたら誰がその威光を伝えるだ?」
「! ブーーーーーー」
盛大に茶を吹き出し俺を見つめるウズメの顔から血の気が引いていく・・・・
あぁ、そこまで考えてなかったのね。この乳娘も天照様も・・・・
「き、気づかなかった!!! あ、天照様に報告せねば!!!」
椅子を蹴って立ち上がり右往左往しながら、ブツブツ・・・・・あぁ完全にパニックだよこれ。
「まず落ち着け。 そこの4人の天女さんの名前の紹介が先だろ?」
ピタッと止まり、ヘ?っと言う表情で俺を見ながらウズメは衝撃的な事実を口にした。
「天女に名は無いが?」
「え?」
「「「「え?」」」」
倒した椅子を戻し、ちょこんと座ったウズメが教えてくれた。
そもそも天女は個を特定してあれこれする事が殆どないため名前がなくても困らないんだそうだ。
「じゃなんでウズメには名前があるんだ? 天宇受賣って立派な名前が。」
「立派な名前などと、・・・・照れるではないか・・・・」
あ照れるんだ。羞恥心はあるんだ。
・・・・・・・・あぁあれだ。羞恥心の向かう方向が違うんだ。
ウズメが続ける。
「そも天軍の長。いうなれば神の代行者的立場じゃ。人の子には神との区別は難しいかもしれぬが。」
「なるほど。ネームドの理由はそう言う訳だったんだ。」
「妾をモンスター扱いするな。」
「4人の天女さんが暫くこっちにいるんなら名前がないと不便だろ。こっちではそれが当たり前なんだし。」
「・・・・そうじゃのぉ・・・ ! ヒロシ様よ良い名前を贈ってやてくれんかの?」
名付けかぁ・・・・
4人の天女を見て暫く考えるが、良い名前が出てこない。
「玄武、清流、朱雀、白虎とか?」
「既におるの。それ四方神じゃろ? そんな名前を贈られたら畏れ多すぎて憤死もんじゃ。」
「なるほど・・・じゃ、ミカ○ル、ラファ○ル、ウリエ・・・・」
「「「「ダメ・ゼッタイ!」」」」
4人がシンクロする。全力否定。
「え?もういるの?」
「・・・・いやぁ、そういう問題じゃないんじゃ。あれじゃろ? 十文字の木組みに男の死体を吊るした像を崇拝する頭がアレな連ちゅ・・・・・」
「あぁぁぁぁぁ! それ以上はダメ。はいわかりました!わかりましたウズメさん!」
アッブねぇ。これ以上続いたら、放送コードやら出版コードやらその他、あんなのやこんなコードに抵触するわ!
ウズメがため息混じりに話しを続ける。
「ヒロシ様よ。死とは穢そのものなのじゃ。じゃから、それを具現化した形である人の子の死体など、本来忌避されるものなんじゃ。」
「そうなんだ」
「神は何より穢れを嫌う。じゃから妾達がおる。ほれ、喪中の家の者は神社に参拝するのを避けるじゃろ? 年賀状も。」
「そういや、年賀状出しちゃダメなのはなんでだ?」
「そも正月とは年神様を迎える神事なんじゃ。年賀状はそれを歓ぶ”依代”となり、その家に訪れる年神様を寿ぐ。そこに死の穢を纏った依代など悪い冗談じゃろ?」
「なるほど」
「しかし、昨日のイノシシの死はあまり気になかったよな?」
「供物を拒む神はおるまい? その延長のようなもんじゃな。もっともサクラは血の臭いが苦手みたいじゃったがの。妾達は慣れておるからの。」
さくっと怖いこと言ったよのこ乳娘。血の臭いに慣れてるとか・・・・
「さて、ヒロシ様。名前は決まったかの?」
「・・・・・・カスミ、スミレ、ツバキ、ラナンキュラスでどうだ?」
「花の名前かの。最後のはダメじゃの。大和の言の葉ではない。」
「冗談だよ。左から順にカスミ、スミレ、ツバキ、ナデシコでどう?」
4人が胸元で手を組んで目をキラキラさせている。嬉しいようだ。
「俺が名前考えてよかったの?」
「同格の者に名は贈れんからの。」
「そういうもんか・・・って同格?」
「そうじゃ。妾がもっとも優れた天女じゃから天軍の長をしておるだけじゃ。」
「最も優れた天女? それは神威が強いとか、払える穢が半端なく多いとか?」
「・・・・・・胸じゃな。」
「は?」
「天女の優劣は胸!乳!乳房! 後にも先にもこれ以外無い!」
四人の天女が激しく同意する。
「大きさ無論重要じゃが、形、張り、色艶。この全てに秀でているのが妾じゃ。」
再び四人の天女が激しく同意する。
・・・・昨日のアレなウズメを思い出しながら4人の胸を見る。
誇らしげにブルンと胸を張る4人。
あぁなるほどぉ。ちょっとだけだが確かにウズメより劣ってるな。って、どんな品評会だよ!
温くなったお茶を一気に飲み、
「さて、こちらの世界にしばらく滞在するのなら、その天女”正装”ではダメです。」
「「「「!」」」」
驚きながらも、明らかに不満そうな4人の天女。
「その姿は、公序良俗に大きく違反します。そんな姿で表を闊歩されたら襲われても文句言えません!」
「襲われても心配いらんじゃろ。一人で国一つなら指先で蹂躙できる連中じゃぞ?」
「いやいやいや、そういう問題じゃないから! こっちのしきたりだから!」
「まぁそういうことなら仕方がないの。」
「とりあえず、サクラさんに着るものお願いするんで、シアさんが来たら服を買いに行きましょ。俺もこれ一着しかないし。ウズメもそれ一着だろ?」
「妾か? 心配無用じゃ。”蔵”に同じものが50着ほどある。」
「・・・・。 ま、そういうことで、早速外出準備!」
サクラさんにカスミら4人の服を頼み先程ウズメが言っていた穢の件をヤタさんに相談する。
「ずいぶんと厄介でありますな?穢があふれるかもしれぬとは・・・・・」
「昨日のあんなのが大量に湧いて出たら被害大きいよね?」
「ええ。間違いなく。いくらかの死人が出る程度では済まんでありますな。」
かなり深刻な顔をするヤタさん。
「半径100kmの穢の調査、実施しましょうか?およそ半日もあれば詳細がつかめるであります。」
「え? そんな短時間で調べられんの?」
「自分は神烏であります、この地の他の烏も投入します。」
「そぉそんな事できんだ。すげぇ。」
さすが情報戦のプロである。もっとも普通の陸自の方々には無理な芸当だろうが。
フフンッと得意げな顔をしながら話を続けるヤタさん。
「定期的な監視網も早急に構築するであります!」
「どのくらいかかります?」
「一両日中には。」
「お願いします。」
「了解!」
きれいに敬礼すると、例の駆け足で部屋を出ていった。
とりあえずの目標は、増加する穢の調査と対応で決まりだな。
向こうではサクラさんと4人の天女達が、胸が苦しいのだのお尻が入らないだのとワタワタやっている。
タチバナサンは鼻歌を歌いながら俺のスーツの上着に・・・・アイロン?
あれアイロンだよね? スチームをシューシューだしてる。
マジ何でもありだな・・・・神使すげぇ。
そんなこんなで時間を潰していると、宿の人がシアの到着を伝えにきてくれた。
サクラさんと4人の天女はすでに準備ばんたん。
タチバナさんが俺に上着を着せてくれる。
「さて行きますか。」
天女の美貌を目立たくするよう4人にはフードきの外套を羽織らせる。
シアと合流後、衣料品店に向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
衣料品店。シアとサクラさんと4人の天女達が、ああでもないこうでもないと服を見ること3時間。
俺もタチバナさんも暇を持て余していた。
俺の衣装は、普段着っぽいシャツとズボン、革靴を何セットか。
それと店の主人、俺のスーツが珍しかったらしく似たようなものを何着か作ってくれるらしい。
採寸や何やらで時間を取られたが、それでも1時間程度だった。
「暇だなぁ・・・・」
「暇でございますねぇ・・・・」
服を物色する女性陣を横目に、店主の準備してくれた椅子に座ってお茶をすする。
お茶をすする。
お茶をすする。
お茶を・・・・・・
「サクラさぁん! まだぁ!?」
もう限界。俺、十分頑張った。
「今最後の試着中ですのでぇ、もうすぐでぇぇす。」
それから10分。眼の前に4人の天女。
うん。似合ってるね。すごく似合ってる。いやぁこれでもか!ってくらいですよほんと。
もう視線釘付けですよ。
・・・・・で、なんでチャイナ・ドレス?
そりゃ体の線も胸も強調され”この世の天女”って言われたら疑うものは居ないだろう。
それにしてもだ、なんで寄りにも寄ってチャイナ・ドレスなんだ?
「そ、その服は?」
「はい。動きやすいですし戦闘に支障はありません。しかも我々天女の特徴を余すところなく表現してます! 胸の防御は心許ないですが・・・」
ナデシコがドヤ顔で言うと残り3人が同意する。
赤、青、黒、紫。そりゃキレイだろうさ天女がチャイナ・ドレス着てるんだせ?
美とは暴力なんだと確信しましたよ!
で戦闘とか、チャイナ・ドレスで戦闘とか、カンフーですか? ジャ○キー・チェ○の世界ですか?
「戦闘って・・・」
赤いチャイナ・ドレスを着たカスミが、俺の前でブワッっと回し蹴りを・・・・・
!!!!!!
・・・・・・・・
やっぱりねぇ予感はあったんだよ・・・・・
「下着履かせろ!!!」
俺は絶叫した。