3話 踊る変質者そしてエルフと消せない”でっしゅ”
頑張って書いてます。
あぁ・・・・変質者、踊ってるよ。踊り狂ってますよ!
黒いモヤモヤの前でこれでもかと言うほど、でかい乳をブルンブルン震わせながら踊り狂っておいでですよ!
「汚物は消毒じゃ! ひゃっはぁ! 根の国底の国に堕としてやる! 穢れた魂の最終処分場へぶち堕としてやるぅ!」
はいはい。確かに”穢れ”は”汚物”ですよ、でも”ひゃっはぁ”とか、完全にアレ系ですやん。
しかも穢れた魂の最終処分場にぶち堕とすとか、物騒すぎますよね? この変質者? ねぇ?
ウズメの胸の前の空間がまばゆく輝き出し、光鱗を纏う。
「妾が言宣を持って命ず。穢よ いね!」
輝く玉がブワッと黒いモヤモヤの塊の迫り、パーっと弾け光臨がそれを埋め尽くす。
直後、ファっと光が消え、そこに残っているのは、斃されたイノシシのみ。
「これで、もう安心じゃ」
変質者がぱっと光ったかと思ったら、そこには、襟元胸元を整えている巫女服少女のウズメの姿があった。
「どうじゃ? ヒロシ様。妾もなかなかであろう?」
両手を腰に当て、このドヤ顔である。
「あぁ・・・正直、ただの変質者にしか見えないんですが?」
「なぁ!!」
「ほぼ全裸で大きな胸をブルブル振りながら、まるで狂ったように踊る姿。変質者の極みでしか無いでしょ?」
「はぁ??」
驚いたように目を見開くウズメ。するとサクラさんが、
「ヒロシ様、あれがウズメ様の正装で、穢払いの舞踊なんですよ。天女の正式なお仕事なんです。」
「はぁ?」
「古来、清らかな乙女の胸、とくに乳房には穢れを祓う聖なる力が宿るとされておりまして・・・」
「悪い冗談は止めてく・・」
「冗談ではありません!」
真面目顔のサクラさんがピシャリ。
「天照大神が天の岩戸に籠もられた折、ウズメ様はあのお姿で、七日七晩必死で踊り明かされたのです。」
「・・・・・・・・」
「真実ですよ? 作り話ではありません。」
つーっとウズメに視線を移すとドヤ顔のウズメが笑いながら続けた。
「天孫降臨に随伴した折迎えに上がってきた猿田彦殿を敵と勘違いして、立ちはだかって胸をはだけ組伏してやった時は見ものじゃった。驚愕の表情で目を見開らいたかと思ったら、滝のような勢いで鼻血を吹き出して卒倒しおったからの!」
いやそれって笑い話になってないし。
そもそも猿田彦って、えっとたしか天狗の元祖だよね? それを、乳ベローンから組伏して一発昏倒とか・・・ないわぁ、マジでないわぁ・・・
軽くめまいを覚え、ウズメに静かにお願いする。
「つ、次は一言かけてくださいね? やる前に。」
「ん? まぁ、ヒロシ様がそう言うのであれば仕方がないのぉ・・・」
残念そうである。実に残念そうである・・・・そもそも羞恥心という概念、ウズメには存在しないのか?
ウズメ? 清らかな乙女。天女・・・・もしかして、天女の穢払いってあれが仕様なのか?
そっとタチバナさんの横に移動し、小さい声で聞いてみる。
「タチバナさん。天女たちの穢払いって、みんなあんな感じなんですか?」
「ほ? はい。そうでございます。あぁ思い出します。大昔の天魔決戦の折、天空に浮かぶ50万柱の天女の壁。ウズメ様の号令のもと、一斉に、寸分の狂いもなく踊り始め、そして放たれる滅穢の咆哮。一方的に蹂躙される魔穢共の断末魔の叫び声。いやぁ、それはそれは美しく、すさまじいものでございました。」
タチバナさん遠くを見てるよ・・・・しかし50万の天女の裸踊り?
変質者が50万。悪夢を通り越して地獄だな。
もっとも、神々含め数多の命が、伊邪那美命と伊弉諾尊の出会い頭からの”SEXしよ!”から始まってる訳だから、ありえない話じゃないのか・・・
「・・・・・・・」
あ、狩人のお姉さんを忘れてた、じーっとこっちを見てるよ。
「あの先程はありがとうございました。」
右手で髪の毛をかきあげながら、ニコッとお礼を言って・・・・って耳尖ってない?
尖ってるよね? 狩人で緑色の長髪でスレンダーで色白であの尖った耳。
「エルフ!」
魂の叫びが思わす口から割って出る。
「はい。エルフのシアと申します。」
不思議そうな表情でキョトンとしている。
そういう世界なのか?そういう世界だよな? エルフの狩人が・・・・
魔法じゃなくて祝詞だったよ。シュール過ぎるよ。
エルフが格好良く飛び跳ねて戦闘しながら祝詞ですよ。
頭痛くなってきた。神威を限定的に使える世界って、こういうことだったのね。
落ち着けぇ俺。とにかく落ち着けぇ。
軽く深呼吸。
「し、シアさんですか。私は扶桑大。ヒロシと呼んでください。彼らは左から、タチバナさん。サクラさん。ヤタさん。ウズメ」
「妾だけ呼び呼び捨てか? ヒロシ様も意地が悪いのぉ」
順に会釈をしながらウズメが仕方になぁとばかりに文句を言う。
「ヒロシさんですね私は・・・・」
シアさんの言葉に何故か激怒しながら割って入るサクラさん。
「さん?さん? 様でしょ様!人の子風情が畏れ多すぎます!」
「さ、サクラさん。ほら俺も人の子だしさ”さん”付でいいですよ。別に呼び捨てでも構いまわないし」
「ヒロシ様が人の子?」
「はい。サクラさんも知っての通り、ヘタレ宮司とそれを尻に敷く女のドラ息子ですよ。」
「・・・・・・・」
サクラさんが、少し考えて、
「あぁそういうことですね? そういう体でいくんですね? わかりました。皆にもそう伝えます。」
ねぇ、体って何? 体って。
後ろで円陣が組まれボソボソと何か話し合ってる。
「で、シアさんはどちらから?」
「私はここから西に少し行ったところにあるシャングの街に住んでます。」
「森じゃないんだ。」
「え? 森なんて危なくて住めませんよ。」
「え?」俺
「え?」シア
ちょっと待て俺、状況整理だ。
エルフは森に住むのが常識だと信じて疑わなかったが、どうもこの世界では違うらしい。
俺の異世界の知識が殆ど役に立たない可能性が少なからず、いや、むしろ高い。
なにせ、魔法の代わりに祝詞だし、エルフは普通に街に住んでるし。美しい容姿を除き、現状当てはまるのは、エルフが弓矢に長けているって事くらいか?
探りを入れてみよう。
「あの、他のエルフさんも街に住んでるんですよね? やはり仕事は狩人で?」
「渡しの場合は狩人専門では無いのですが、みんな普通に街に住んでます。狩人は少ないですね。鍛冶をやったり、農作業や商売するものがほとんどですねぇ。そもそも、狩りをするには弓矢の技術が要ります、だれにでも出来ることではないですよ。」
はい、裏切られました。もうね、正面からバッサリと真っ二つにですよ、これ。
エルフが鍛冶とか商売とか・・・・・この世界の基本仕様どうなってんだ?
「あ、あぁ、そうなんですねぇ。俺たち、その街に向かっていた所なんです。よかったらご一緒しませんか?」
「はい! と言いたいんですけど、このイノシシを解体処理しなければなりませんので、お気持ちだけ。」
残念そうな表情でそう呟いた。
「解体は街ではできないのですかな?」
タチバナさんが近づいてきた。円陣会議は終わったようである。
「いえ街で解体したほうが安全なのですが血抜きはすぐ出来るとして運ぶにもこの大きさですし。」
たしかに体長2mほどある大イノシシ。1トン近くありそうだ。
「問題無いのでございます。血抜きからお手伝いさしあげてございますよ? ヤタ殿!」
足しバナさんに呼ばれヤタさんが腰に両手を直角に当て駆け寄ってくる。
まんま自衛隊の駆け足スタイルだ。
「なんでありますか? タチバナ殿?」
あれ?神使より立場上なんじゃなかったっけ?
俺が二人のやり取りを不思議そうな顔をして見ていると、なにかに気づいたようにヤタさんが、
「階位の上下の問題は無いのであります。タチバナ殿もサクラ殿もヒロシ殿の直属でありますので。」
タチバナさんとヤタさん。シアさんが打ち合わせをしている。
「了解であります。このイノシシの首を刎ね、吊るして血抜きでありますね。では!」
クワッまさにそんな感じで目を見開き右手を正面に突き出し
「我が大神の勅もちて顕現せよ。布都御魂!」
はい? 布都御魂って、あの布都御魂ですよね?すっごく反則な力を持つ神刀ですよね?
それをイノシシの血抜きの為に顕現? はぁ?何してくれちゃってるんですか?
大和民族の力の象徴のような神刀ですよ?
ヤタさんが伸ばした右手の先に光が凝集し、ぱっと弾けると、そこには、神々しい光鱗を纏った、それはそれは見事は直剣が。
そして、このドヤ顔である。罰当たりな烏は裏の山にでも捨てましょか・・・ふとそんな考えがこみ上げてくる。
「ヒロシ殿の関連事象において神威の使用制限は存在しないのであります!」
はい?今なんて言った? 神威の使用制限がない? ドヤ顔でとんでもないことほざいてんぞこの陸自烏!
「さっさと血抜きしてしまいますか! ほい!」
スパっと、スパっとイノシシの首刎ねたよ。
布都御魂で血抜きのためにイノシシの首はねる陸自烏・・・・
絶対祟られるよこれ。畏れ多いとか、そんなレベルじゃないよこれ。
泣きそうだよ。いやもう泣いてるよ。号泣だよ。
「さっ! よっ!」
どこから準備したのか、手頃な太さのロープをタチバナさんから手渡され、イノシシの後ろ足を縛ると、林の木の太い枝を利用して一気に引き上げる。
ドボドボドボ・・・・
「器用に血抜きするのぉ」
「あぁ、私、血の匂いが苦手。氏子の女性の火の日の臭いでも酔っちゃうもの」
感心するようにウズメが呟き右手で鼻を摘んで眉間にシワを寄せてるサクラさん。
「火の日? なにそれ?」
「あぁ、生理の日の事ですよ。とにかく血の臭いは穢のそれと、ほぼ同じなので。」
「あ? もしかして、しょっちゅうマスクしてたのって・・・・・」
「はい。臭い避けです。昔は火の日の詣では、みな遠慮してたんですがねぇ。ここ最近ではすっかり。
特に戦後ひどくなりましたよ・・・・ハァ」
そういう事らしい。って、戦後ねぇ・・・・改めてサクラさんの歳を考えてしまう。
「いろいろ禁忌があるんですねぇ」
納得げに言うとサクラさんが続ける。
「ペットを神域に入れるとか、子供に着包み着せての参拝とか、あれ、間違ったら大変なことになるんですよ?」
「え? そうなの? みんなやってそうだけど?」
「えっと、供物とペットと動物のかぶりものをした子供と人柱。どうやって区別しろと?」
「え!?」
「いちいち参拝者の心を覗いて、供物かそうじゃないか、確認大変なんです。特に元旦の初詣。確認作業だけで軽く死ねます。」
「あははははは・・・・・ご苦労さまです。」
深々と頭を下げた。
さて、血抜きが終わるまでの間、思兼ネットワークでもいじってみるか。
ぺたんとその場に胡座をかき、ノーパソを取り出し画面をあける。
「お帰りなさいませご主人様でっしゅ」
こいつ完全におちょくってるよな? 俺をおちょくってるよな?
「音声認識を削除する方法は?」
「ないのでっしゅ。 存在しないのでっしゅ!サブシステムは削除できないのでっしゅ!!」
何やら必死だな。
機能説明でサブシステムを停止もしくは削除する方法を検索。
該当1
これだ!クリックっと。
「ユーザー・音声インターフェース・サブシステムの削除手順を説明します。」
無機質な女性の声が響く。
「当該機能の削除手順は、コント、ト、ト、で、で、で、で、でっしゅ、でっしゅ、でっしゅ・・・・」
ブチッ!
あ、何かやらかしやがった! 畜生もう一度検索!
該当0! おい!
「・・・・・ならそのうちアプリ作って動作を強制停止してやる。」
「勘弁してほしいのでっしゅ。本当に許してほしいのでっしゅ。言うこと聞くのでっしゅ。なんならこのカ・ラ・ダで・・・」
「パソコンの体? 俺は変態かぁ! ハァハァハァ・・・・」
絶叫! そしてみんあからの、痛い子を見るような視線。辛い。泣きたい。
「素直に言うこと聞くんだな?」
「はいでっしゅ!」
「よけいなことはしないな?」
「はいでっしゅ!」
ふぅ・・・・
とりあえず・・・・またとりあえずだ・・・
ため息を付きながらデスクトップ上の”おもいかねっと・えくすぷろーらー”のアイコンをダブルクリック。
ほんと、よーーーく見たことのあるブラウザが起動し黒いバックに白い文字を表示する。
《ようこそ思兼ねっとわーくへ》 《ぐぐる》 《へるぷ》
”ぐぐる”って・・・・力が抜けそうになるところを気を取り直し、”へるぷ”をクリック。
概要が表示される。
大まかにはインターネットと大差ない。ただ違いがいくつか。
まず思兼ネットワークのセンターサーバーは思兼そのものであり過去現在未来のすべての時事事象が記録されているということ。ただし未来の時事事象は不確定性が高く情報として信用性が低くなること。
この馬鹿げたデータ・ベースが常に利用可能だということ。
遠隔地にある神具または神器を登録しておけばネットワーク経由で管理可能なこと。
登録手順はあとでいっか。
大体、理解した。ブラウザ右上の☓マークをクリックして終了する。
ん? ”まい・ねっとわーく”
「この”まい・ねっとわーく”って、なんだ?」
「ローカル・ネットワーク接続された神具、神器のの管理が可能でっしゅ。登録は、対象の名前を言宣で登録すれば大丈夫でっしゅ。登録の定型的言宣はないのでっしゅ。自由でっしゅ。」
「例えば、Aと言う名前の神具を登録する場合、”AをLANに登録”でいいのか?」
「・・・・”言宣をもって登録”というのが、正式に近いでっしゅ。でも、それでいいでっしゅ。なんとかするでっしゅ。」
お?急に協力的になってきたな?
このローカル・ネットワーク使えそうだな。
「LANの有効範囲は?」
「およそ半径500mの球形状の空間が有効空間となるでっしゅ」
「500mかぁ広いっちゃ広いけど、微妙だなぁ・・・・」
「有効空間を拡張できる神具があるでっしゅ。”わいふぁい”という神具で中継すれば半径500mの球形空間を有効範囲に加えることが出来るでっしゅ。その場合、その神具”わいふぁい”を”ろーかる・ねっとわーく”に事前登録しておく必要があるでっしゅ。」
あぁネットワーク中継機かぁ・・・・しかし”わいふぁい”ってまんまだな。
まぁ、細かいことを気にしてたら負ける。ここか気にせずに行くことにしよう。そうしよう。
ぐっと自身に誓い、あれこれ使えそうなアイディアを考える・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
だ、ダメだ。思いつかない。すべてが荒唐無稽過ぎて、ちょっと何事にも動じないって誓いを立てたくらいでは、どうにもならない。
そろそろ血抜きが終わる頃か?30分くらいたったかな。
近くては皆でニコヤカに談笑ししている。サクラさんは両方の鼻の穴にティッシュを詰め込んでる。
「シュールだわぁ・・・・」
そんな言葉を吐きながら皆を見ていると、
「さて血が抜けちょうでございますので、移動の準備をそろそろ。」
タチバナさんがそういうとヤタさんがイノシシを釣っていたロープをほどきドサッと音がする。
「これどうやって運ぶんですか?」
「供物を保管する特殊な神域の”蔵”がありますので、それをりようしようかと。それでよろしいですか?ヒロシ様。」
「いいけど、そんなのがあるって、供物の保管? 神域? ”蔵”?」
「はい。時間の流れもありませんし、収納するものの大きさや量の制限もございません。」
さすが神使。そんな技が使えるんだ。
「シアさん。このイノシシ。タチバナさんが運ぶと行ってますが、かまいませんか?」
「これをお一人で? ちょっと無理じゃ・・・・」
タチバナさんが、イノシシの前にズイと進みイノシシに手を当て、なにやらブツブツ。
空間が割れたような、こう、パカっとしたものが現れたかと思ったらイノシシが吸い込まれ消えた。
「!!!!」
シアびっくりである。いや俺もびっくり。あんなこと出来るんだぁ・・・・
「あ、あれってすごい勅ですよね? たしか”蔵”でしたっけ? 話に聞いたことがありますがこの目で見るのは初めてで、その・・・驚きました!」
「あ。あぁ俺も初めてかなぁ。タチバナさんすごい人なので。」
キラキラした目でタチバナさんを凝視するシアさん。
照れくさそうなタチバナさん。
なぜか面白くなさそうなサクラさん。
ウズメとヤタさんはぁ・・・後片付け中。血の跡が穢れないようにしているらしい。
裸踊りの心配はなさそうだ。
「では、街に向かいましょう!」
俺たちは街道に出て街を目指した。