13話 プログラミングそして聖堂の女神と道路工事
掲載予約忘れたままIKEAに行ってしまい、掲載時間が大幅に遅れました。すみません。
清々しい朝。
朝食後のひとときを終えた俺の目の前にノーパソ。
まず思兼ネットで”祓串”を検索して形状を確認。
50cmの木の棒に白い紙のヒラヒラ2つの簡単なのでいいか。
”言宣綴り”アイコンをダブルクリックし起動。
背景がブラックのウィンドーが立ち上がる。
「これどうしたらいいんだ?」
「画像を”どっらっぐ・あんど・どろっぷ”するでっしゅ。」
おぉあの一件以来、実に素直だ。
画像をドラッグ&ドロップするとウィンドーの中に表示される。
「言宜を代筆するでっしゅ。高さを指定してほしいでっしゅ。」
「高さは50cm。」
「画像より作部サイズを対比計算するでっしゅ。」
画面にサイズが並んでいく。
対象名称:祓串
軸素材:樫
軸サイズ:3cm☓3cm☓50cm
紙垂素材:白色和紙
紙垂サイズ:5☓30
紙垂形状:稲妻型
ほぉあの紙のヒラヒラ紙垂って言うんだ。
しかも稲妻を模してたんだ。
「機能を教えてほしいでっしゅ。」
「天女の穢払いの神威の蓄積とそれを使用した周囲10mの浄化状態の維持。」
「言宣を生成するでっしゅ。」
ウィンドー中央にダイヤログ・ボックス。
”暫くお待ち下さいの文字”とその下に処理の進行度を示すゲージ、”中止”ボタン。
ゲージがいっぱいになり表示が変わる。
”処理が完了しました” ”OK”ボタン。
クリックする。
”我が言宣を持って命ず”
”ひとつ天女もつ神威これ貯めよ”
”ひとつ可動の宣もちて蓄積神威より清浄を保て”
”ひとつ停止の宣もちて清浄保つこれ止めよ”
”これらもちて宣を閉ず”
「以上が最適化された言宣でっしゅ。単独機能の列挙で事足りるでっしゅ。」
「もし神威を過剰に貯めたらどうなる?」
「爆発するでっしゅ。様式美でっしゅ。」
・・・・・・・・・
「貯められる限界になったら貯めるのをやめる機能は付加できるか?」
「出来るでっしゅ。少々お待ちくださいなのでっしゅ。」
メッセージダイヤログが表示され処理が終わる。
OKをクリック。
”我が言宣を持って命ず”
”ひとつ天女もつ神威これ貯めよ”
”ふたつ神威満てば貯めるこれを止めよ”
”もどり宣ず”
”ひとつ可動の宣もちて蓄積神威より清浄を保て”
”ひとつ停止の宣もちて清浄保つこれ止めよ”
”これらもちて宣を閉ず”
条件分が入ったか。
なるほど。
なんとかなりそうだ。
「神具にするのにどうすればいい?」
「7行で内容も簡単なので髪の毛7本で足りるでっしゅ。まず電源スイッチの横に置いてくださいでっしゅ。」
言われたとおり髪の毛七本を抜いて電源スイッチの横に置く。
「置いたぞ。」
「神具に付ける名前を最後の行の後に入力し”えんたー・きー”を押せば生成されるでっしゅ。」
”祓串”と入力した途端、
「ありきたりの名前は受け付けられないでっしゅ。創造神具を特定する名前を入力する必要があるでっしゅ。」
命名エラーってやつか。
”ひろの祓串”と入力しエンター・キーを押す。
一拍後ノーパソが光だしキーボードの中から祓串が押し上げられるように現れる。
「手にとって確認してほしいでっしゅ。」
創造された祓串を右手に取り左右に振ってみる。
ワサッワサッ
悪くない。
俺は完成した祓串を手にリビングに移動し巫女姿のウズメに見せる。
「作ってみたけど・・・どう?」
ウズメは手渡された祓串を両手で持ち顔の前にまっすぐ立てると目を閉じ意識を集中する。
直後祓串がうっすら光り出し光鱗をまとう。
「なかなかのものじゃ。一度穢れ祓いの力込めれば1年位は大丈夫そうじゃしの。」
「じゃそれでいい?」
ウズメは祓串を振ったり逆さまにしたり少し荒い扱いをするが満足そうだ。
「問題ないの。ヤタ殿!これの複製を頼めるかの?」
向こうでシアやタチバナさんたちと談笑しているヤタにウズメが声をかけた。
「それが例の神具でありますな?少々お待ちを。」
蔵から取り出したのか手のひらに1辺5cm程の白い立方体を手にヤタさんが近づき祓串を受け取る。
「とりあえず10個ほどでよいでありますかな?・・・これをこうして・・・よっ!っと」
祓串に立方体をくっつけ一瞬念を込めるヤタさん。
手元が光りに包まれたかと思うとヤタさんの足元に10本の祓串が並ぶ。
「ほぉこれはおもしろいの。どれ複製さてたものの性能はこうかの?」
複製された祓串の一つを手に取りさっきのように念を込めるウズメ。
・・・・・・・・・
「問題ないようじゃの。ヤタ殿。一度に何個複製できるのじゃ?」
「これですと一度に50個程でありますな。日に5000個が限界であります。」
「それで問題ないかの主様?」
日産5000個なら問題ないだろう。
予備の複製もお願いするとヤタさんは少し広いスペースが欲しいというのでシアに頼み空いた倉庫を作業場として手配してもらうことにした。
雑用担当としてサクラさんを2人に同行させ事にし3人が退室するのを見送るとタチバナさんがお茶を入れてくれていた。
「主様もすごいの。神具を簡単に作ってしまうとはの。」
「そうか?」
「本来なら必要な素材から作業時の場所、天候、補助してくれる神の手配など条件が多いのじゃ。」
「うわぁ面倒くさそう。」
「だから神具は貴重なもんなんじゃ。それをちょちょいと・・・因果も天の理、地の理も一切合切無視じゃからの。さすがは”国”の存在じゃと感嘆を通り越して呆れるわ。」
「それはノーパソの性能のおかげだろ。」
「たとえ優れた神具であっても誰もが行使できるわけがないのじゃ。」
「そんなもんなのか。」
「”のーとぱそこん”とそれを使える主様は妾の目にも”理不尽の権化”にしか映らん。」
・・・いやいやお前にそれを言われたくはない。
「関心したのはじゃな、念を込めすぎて壊れないようにしてあったことじゃ。一々そのような配慮をしないからの。」
「そりゃユーザーの使い勝手、安全性が重要だろ。物づくりの基本。技術者の基本。」
「そんなものなのかの。もっとも神は”配慮”せぬからの。主様の面白い一面じゃの。」
ウカ様が理不尽こそ神みたいな事いってたしな。
しかし安全配慮の無い神具が普通とか暴走したらどうすんだ?
怖すぎだろ・・・
ウズメとあれこれ話しているとカスミが戻ってきた。
満足そうな表情である。
「ご命令された”お掃除”の件ですが完了いたしました。」
「ごくろうさまでした。報告は簡単でいいよ。」
「はい。であれば・・・ご指示の逆さ磔15。お掃除の滅却数527。」
「意外と少なかったね?」
「はい。穢の軽いものは穢だけを祓い”言い聞かせ”ましたので滅却しておりません。」
「な、何を言い聞かせたのかな?」
「二度と人の道を踏み外すこと無く真っ当に生きるようにその体に言い聞かせました。」
「あぁ・・・そう。」
耳じゃなくて体なのね?
言い聞かせる先は体なのね?
「はい。皆、号泣しながら反省し誓いを立て契約しまた。次は無いと。」
ニコニコと満面の笑みで報告するカスミ。
「そういえば滅却って、どうやったの?」
「はい。細胞の一つ、骨の一片すら残さず文字通り滅却しました。」
天女のスタンダードって滅却なのか・・・
考えるのやめよう。
ウズメはウンウンと頷きながら笑顔で茶をすすっていた。
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時間が出来たので午後からタチバナさんとウズメと俺の3人で街に出た。
まともに散策したことが無かったので良い機会。
そこそこ活気はある。
気になったのは狭い路地の汚物臭。
上下水道の概念は無いようだ。
市場には様々な農産物や雑貨が並ぶ。
季節柄かリンゴの様な果物が多い。
ウズメが欲しがったのでリンゴを購入し、ついでにこの街の見どころを初老の店主の男に聞く。
「そりゃにいちゃん、聖堂だろうよ。戦いと豊穣の女神様の叙事詩を表したステンドグラスはこの国随一よ。」
「そんなにすごいのか?」
「あぁもちろん!口では説明できねぇ程だ。」
「行ってみる。ありがとう。」
店主に道を聞き歩くこと10分程。
真っ青な屋根に白い壁の立派な建物が見えてきた。
どこぞの教会風だ。
正面口からけっこうな街人が出入りしている。
「タチバナさん結構立派な聖堂ですね。」
「厚く信仰されておるようでございますなぁ。少し羨ましく存じます。」
「うちの神社より圧倒的に参拝者多いしね。」
「はい。」
そんな話をしながら聖堂に入ると、左右の上の方に豪華なステンドグラスが並んでいた。
「すごいなぁ。あの店主が言うだけある。」
「綺麗じゃのぉ。」
ウズメが感嘆する。
裸体で表現された女神が敵を退けたり、小麦をもたらしたり、様々な情景が表現されている。
女神の周りには翼はないが複数の天使?のようなものまで。
あぁどっかの大聖堂っぽいなぁこれ。
テレビで見たのによく似ている。
あれ?なんだろうこの違和感・・・
何故か違和感を感じる。豪華で美しいステンドグラス。
一級の芸術品。
なのに感じる違和感。
聖堂の奥に進み違和感の正体に気づいた。
たいそう立派な女神の像がすべてを如実に物語っていた。
タチバナさんを見ると驚きの表情でこっちを見ている。
もう一度女神の像を見る。
どう見てもアレだ。トラウマになりかけたアレが彫像としてそこにある。
・・・申し訳程度の腰巻きと前隠し。ほぼ裸体で踊る姿の女神像。
「・・・なぁウズメ。アレお前だよな?」
「あの特徴的な前隠しは妾じゃの・・・」
「ステンドグラスのアレも全部お前だよな?」
「そのようじゃの・・・」
「なぁ、どういうことだ?」
「さて、どういうことじゃろうの?」
うわぁ自覚も記憶も無いのかよこの乳娘。
全く思い当たるフシはありませんみたいな顔してんぞ?
「だれか聖堂関係者に聞いてみよう。」
俺はそう言い近くの白服のシスター姿のような人に声をかける。
「すいません。」
「はい。なんでしょう?」
「この女神様についてお話を伺いたいんですが・・・」
「ウズメムノン様についてですか?」
「う、ウズメムノン?」
「はい。戦勝と豊穣を約束する女神様です。昔この国がとても貧しく隣国に脅かされていた時、天より降りられ敵をなぎ払い地の穢れを祓って豊穣を与えてくださった女神様です。」
「そ、そうなんですか。」
「はい。国教の主でもあるのですよ?」
「こ、国教!?・・・あ、い、いや、ありがとうございました。」
「いえ。貴方に女神様の祝福と加護がありますように。」
・・・いえ要りません。
ってか有り難みを一切感じません!
ウズメを見る。
ドヤ顔だよ!
周囲を見る。
有難そうに女神の像に祈りを捧げている。
なんだろう。この心のなかで彼らを不憫に思う気持ち。
「ウズメ。お前天女だよな?神じゃないよな?」
「そうじゃの。妾は天女じゃな。神を代行することはあるがの。間違いなく天女じゃ。」
「天女ってさ、ああやって奉られてもいいのか?」
「問題なかろう。そも信仰とは信じるものの勝手によるものじゃしの。」
「そんなものなのか?」
「ご利益第一とばかりに、あっちの神に手を合わせ、こっちの神に手を合わせなど人の子の常じゃろ。もっともそんなことで神々が”はいそうですか”とばかりに利益を与える訳も無いがの」
「苦しい時の神頼みとか?」
「主様は見ず知らずの人間が突然、困っているから手を貸してくれと言ってきたら無条件に手を貸すのかの?」
「無いな。」
「人の子がしない事を神が率先してすると思うのかの?」
「・・・話がずれた。で、これはどういうことだ?ウズメムノンって・・・」
「昔穢祓いをして回っておったからの。大昔にここの穢れを祓ったのかもの。」
「覚えてないのか。」
「数が多すぎて特定できんよ。一通り穢祓いが終わってからは暇じゃったしの。」
思い出そうとするウズメ。無理そうだ。
「どれ。行き掛けの駄賃があるのだ。通りがかりの駄賃があってもよかろう。」
ふっと目を閉じ小さな声で言宜を宣じ始めるウズメ。
「妾の言宜を持って命ず 神像に顕現せよ 和らぎの聖光」
女神像が光鱗につつまれ光りだす。
シスター姿の人々はもちろん礼拝に訪れていた人たちが驚いて平伏し口々に称える言葉を諳んじている。
俺は慌ててウズメの手を引くとタチバナさんに目配せし、早足で聖堂を後にした。
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とりあえず宿に戻る。
「あれはあのまんまなのか?」
「女神像のことかの? 精神的安定と穢を祓う神威を込めたからの。あのままじゃ。」
皆のためになるのなら、あれでかまわないのか?
「聖堂へのお布施も増えるだろうな。」
「それのぉ。聖職者といえど人間じゃからの。霞を食べて生きるわけにも行くまいからの。ただ過ぎたる財貨は往々にして聖職者を駄目にするの。」
「あぁ・・・生臭坊主とか。」
「そういう輩は例外なく黄泉送りじゃな。最悪の場合、根の国底の国送りじゃな。」
「聖職者割引みたいなのはないのか?」
「なんの割引じゃ?聖職者であろうとなかろうと魂磨きをする人の子じゃ。職種を”聖職者”としておるだけじゃろ?物理的に解釈すれば神を利用して食ってるに過ぎんじゃろ。」
「身も蓋もない。」
「大切なのは、そのもの達の立場やあり方ではない。そのもの達の性根が正しいかどうかじゃ。」
そんなものなのかと思いながらお茶をすする。
「稲荷神は特に穢を嫌いましてございますから。」
タチバナさんがつづける。
「稲荷神が祟るとか怖いとか言われる原因でございますが、もう少しの穢れでも激しく反応するからでございます。」
「そんなに激しいの?」
「・・・はい。それはそれは・・・」
「あのウカ様がなぁ・・・」
「愛が深い神様なのでございます。ですから愛する子が穢を纏うような裏切りをすれば、その怒りは更に深くそして広く・・・」
「女神も天女も基本的に愛が深いからの。故に嫉妬や恨み怒りと言ったものも大きいの。もっとも人の子の好き嫌いは激しいがの。」
ケタケタと笑うウズメ。
その後ヤタさん達の帰りを待ち明日からの作業の軽い打ち合わせをして早めに就寝した。
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日が昇って一時間程の早朝。
南の森外縁。
天女達が正装で穢祓いの踊りを舞っている。
なんというか、もう慣れた。
男性として大切な何かが壊れたのかもしれない。
屋根だけの簡易的な天幕。
俺たちは駆けつけたルシさんと離れた所に陣取った。
ヤタさんから祓串を受け取った天女の部隊が早速作業を開始している。
「作業に対する反撃はなさそうだな。」
「まだ作業始まったばかりじゃろ。主様は心配性じゃの。」
「ルシさん切り出した木材の貯木は?」
「はい。とりあえず南門外の近くに準備させています。」
さすがルシさん。抜かりはない。
小一時間程作業を見学し連絡要員としてカスミを残し侯爵邸の会議室に移動する。
議題は天女の観閲式。
どうしても天女の観閲式をやって欲しいと天女達がウズメにせっついたようなのだ。
「そりゃ作業完了まで期間もあるし天女達の気持ちも分かるが」
ウズメに向かって少し不満気に言う。
「穢祓いや開削作業を中断できないだろ?」
「主様。そこは作業を維持しながら交代で対応可能だそうじゃ。」
「それに侯爵の了解だけで出来る規模じゃないだろ。」
「天軍が動くのに誰の許可がいるというのじゃ?」
「ルシさん・・・」
ルシさんに助けてと視線を送る。
「わかりました。侯爵の名で一連の経過報告と観閲式の許可の願いを国王に届けるよう手配します。このままでは天女達のフラストレーションが癒やされないでしょうし。仕方ないかと?」
そう来たか・・・
俺は観閲式なんて嫌なんだよ!
面倒だろ?
総司令官って立場もお飾りみたいなもんだ。
実質はウズメが全部差配してるし。
仕方ないなとばかりにルシさんが続ける。
「それに200騎の天使の近衛大隊が近隣に駐留するだけでもこの街の民にとっては大事なのです。それが南の森に50万が駐屯する街が出来ると成れば、いずれかの段階で正式にお披露目しないと何が起こるか予測できませんよ?」
そう言われると反論できない。
全くその通りだ。
正式にお披露目し理解してもらわないと不測の事態が発生しかねない。
ウズメはニコニコしながら俺を見ている。
「準備が大変なんじゃ?観客席とか行進スペースの整備とか・・・」
「それは手の開いている者にやらせればよいじゃろ。皆喜んでやると思うがの。」
そりゃそうだろ。
希望した本人たちが準備するんだから。
「場所は南門外から1kmくらい離れたあたりが妥当でしょうね。」
ルシさんがさらっと重ねてくる。
アーネストは目をキラキラさせてウンウンと頷いている。
諦めるしかないようだ。
「わかった。細かな打ち合わせはルシさんとウズメにまかせていいんだよな?」
「無論じゃ。」
「ではそういうことで。」
はーっと息を吐く俺。
心が疲れる。
「天軍50万の総観閲が見られるとは・・・」
タチバナさんが感慨深そうにつぶやきヤタさんが続く。
「そうでありますな。壮観でありましょうな!」
サクラさんはウンウンと頷いている。
シアも目をキラキラさせている。
そしてルシさんがつぶやいた。
「高天原天軍50万の総関越。見てみたいと思ってたんですよ。」
・・・・・・・・・・
・・・ルシさん?
それが本音かぁ!!!!