表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

理不尽上等!それが神!

はじめまして。頑張って書いてます。

パンパンッ!

高い秋の空、すがすがしく気持ちの良い朝。柏手(かしわで)の音もよく響く。

なぜ、信仰心もない俺が朝から柏手を打っているかというと、単なる日課である。

ここは、俺、扶桑(ふそう) (ひろし)(36歳 恋人募集中)の実家「万の蔵神社」


俺は、出社前の日課の参拝を果たし、一礼をして目を開ける。


「ん?」


なんだか変だ・・・・


目をこすりもう一度目を開けると

そこには、明らかな非日常的な光景。(やしろ)の両脇にソレ。

右のは狐と・・・左のは、りゅ、龍?

そう・・・狐と龍が、目を瞑り、空を見上げるような格好で、偉そうに立っている。

大きさは人と同じくらい。しかし、明らかに、それでいて不思議な違和感を醸し出している。

不思議と恐怖を感じない。それどころか、何故か親しみのような・・・・


えぇぇぇ? なんだこれは??


ありえない光景に、もう一度目を瞑り、

次の瞬間、くるっときびすを返し無かったことにして、走りだそうとすると


『我は、この社”(まん)(くら)稲荷(いなり)”の神使(しんし)。サクラである。』

『同じく、我はタチバナである。』


頭の中に響いてきた。


(うわぁ、幻聴だよ。俺、過労死するのかなぁ・・・いや、無い無い。遅刻する。早く会社に・・・)


『無視するな。無礼であろう!』


とりあえず、とりあえず・・・なにか言ってごまかそう。

遅刻する訳には絶対いかないから、なんとかするしかない。

えっと・・えっと・・パニクってるのか?俺・・・

ん?いや・・・どうしてだか、意外と落ち着いてるか。

状況を受け入れている俺がいる・・・

しかし・・・なんだ?こいつら?


「あ、す・・・すみません。、お‥俺‥。いや私は、 ふ、扶桑(ふそう) (ひろし)です。」


『こいつらとは、無礼な!我は・・・・』


狐と龍は、フン!と言わんばかりに、鼻から息を吐き

ゆっくりとあごをおろしながら、目を開く。


目を逸らしたら、殺られる! そんな状況なのか? 

口の中が乾くような焦燥感。


「あぁ、すいません。さ、サクラさんと、た、タチバナさんでしたっけ?」


『・・・・・・・・・』

狐と龍は、目を見開き俺を凝視している。


あ、あれ、焦ってます? なんか冷や汗タラタラが幻視できるんですが?


次の瞬間

『『すみませぬ!』』


ジャンピング土下座!? 狐と龍が、飛び上がってジャンピング土下座? は??


『『ひ、ヒロシ様だったのですか。知らなかったとはいえ・・・

  聞いたなかったとはいえ・・・そ、その、ずびばぜぬぅ・・・・』』


うわぁ・・・・・土下座しながら号泣してるよ、なに? 俺なんか悪い事した?

出来るかぎり普通に挨拶しただけだよね? ねぇ?


『『どうか、どうか、ご無礼な物言い、平にご容赦くだいさい! 末代まで、たてまつりますので何卒ご容赦を』』


日本語変になってるし、なんか俺が酷く虐めたみたいになってんじゃなか。

そもそも、たてまつるってなんだよ、狐や龍にたてまつられたくなんか無いわ!と、思った瞬間。


「え!ぇぇぇぇぇ~~~」


(やしろ)の奥の御神鏡(ごしんきょう)から、光があふれだす。

柔らかでいて、暖かくも凛とした厳しさを持つ、白い光。

狐と龍は、土下座したまんま。溢れ出す光は、人の形を取り始め、やがて温和な女性の姿となる。

見た目は20代半ば?少しの幼さを含みながらも・・・・美人。そう美人。絶対的な美人。

その美人が、歴史の教科書にある大昔っぽい衣装?をまとって、スッと佇んでいる。

ただし、神々しい。明らかに”神”なんだろうなと確信できた。


・・・・どことなく母性をまとっている感じがする。


『突然の無礼を許してくださいね。』


(わたくし)は、稲荷の神 宇迦之御魂(うかのみたま)と申します。』


いくら不信心な俺でも、この社の宮司の息子。稲荷の主神の名前くらいは知っている。

と、とりあえず、冷静に。ここは冷静に。こんな物理現象度外視状況だろうと、パニクったら

()られる。きっと()られる。

とにかくなにか言わないと。


「え、えっと、万の蔵稲荷の主神様が、な、なにか御用でも?」


『あらあら、とって喰ったりはしませんよ。かわいい我が子ですもの』


はにかみながら、宇迦之御魂と名乗った女神は続ける。


『それに、万の蔵稲荷の主祭神ではなく、稲荷すべての主神ですよ? そこは、間違っちゃ、ダ、メ』

左手を腰に当て、上半身を前に出して、”チッチ”とでも言うように右手の人差指を左右に振ってる。


『日本中に稲荷の社がありますが、主神は(わたくし)一柱(ひとはしら)ですよ?』

「ちょっと何言ってるのかわからないです。」

『えっと、ちょっと待ってくださいね・・・ふむ、ふむ、あぁ、なるほど、それで? なるほど』


・・・・・・焦点が定まってない目で、誰かと話してる? もしかして、独り言?

かなりアブナく見える。ものすごくアブナイ人、いや女神に見える。


『ごめんなさいね。権現(ごんげん)したのが、(うつし)し世で言う数百年ぶりなもので、今の現し世の有り様に合わせるのに、少し知識が足りませんでした。』

「はぁ」

『だから、決してアブナイ神様ではありませんよ?』


ってか、こんなところ誰かに見られたら何んて説明するんだよって、

あれ? 思ってること、全部筒抜けてますよね?マジですか!

しかしマジ、美人だよな~~


『美人だなんて、面と向かって言われると、恥ずかしいですね。ウフフ』


言ってません! あ、やっぱ筒抜けてる。


『そ・れ・に ここは結界の中なので、誰の目も心配いりませんよ?ウフフ』

『さて日本中の稲荷の社は、今の現し世、現世としましょうか、現世的に言えば企業の支店や営業所、出張所にあたります。』


「本社は、伏見稲荷とか?」


『あぁ、伏見稲荷や最上稲荷、豊川稲荷などは、所謂、地方支社みたいなものですね。本社は高天原にあります。』


さすが商売の神、例えが、誠にそれらしい。ってか、出たよ”高天原”。マジで存在するのか。


『稲荷は商売の神ではありませんよ? それは役割の一つ。主な役割は”縁”にまつわるアレコレと、所謂、”この世界のインフラ”に関するアレコレですね。』


なんか、頭の中がグチャグチャしてきた。考えようが発言しようが、その言葉に返答が来る。

ものすごい違和感。吐き気がしてくる・・・限界・・・・


『あらあら、ごめんなさいね。いまからは、人の子の”言の葉”ですか?それに対して受け答えするようにしますね。』

「うぅ・・・助かります」


相変わらず、はにかんでる。その美しさに吸い込まれそうになるのを、なんとか踏みとどまる。


「稲荷の主神様が、朝の挨拶でお声をかけられてわけではありませんよね?」

『”ウカ”と気軽に呼んでくださいな』


神を呼び捨てとか、ニッコリと言い切ったよこの女神、何このフレンドリーな感じ・・・

神様らしくしろよ!


「で、ではウカ様。ご用件は何でしょうか? 大層なお供えを要求されても、薄給な私には限界がありますが?」

『あらあら、稲荷の主神の愛する我が子が薄給などと、あまり親をいじめるものではありませんよ?』


うわぁ、自分を親だと言い放ちましたよこの女神。俺は人間です。ヘタレ宮司と、亭主を尻に敷く女を父母に持ち、納期に追われる毎日を過ごす、ごく普通の小市民ですよ。


「それで、もう一度お伺いしますが、ご用件は何でしょうか? ウ、カ、さ、ま」


イラっときたので、ちょっとキレ気味に言ってみた。


『実は困ったことが起きまして、助けてほしくて・・・』

「お断りします!! 無理です!! 不可能です!! 神様が困るような案件を、小市民代表のよう俺が、どうこう出来る訳がないでしょ!!!」


眼前の女神の言葉が終わるのを待たずに一気にまくしたてる。

当たり前だ。神様が困るような案件、ただの一般人である俺が、どうこう出来る(どお)りがない。

ブラックなんてもんじゃない。即死案件に決まってる。

そりゃ、納期に追われ女性との出会いもなく馬車馬のように社畜している俺だが、この歳で、まだ死にたくはない。


『・・・・・どうしても?ダメ?』


上目づかいで覗き込むように・・・・

流されるな俺! ここで流されたら、きっと死ぬ。間違いなく死ぬ。死ななかったとしても死ぬ!


「お、お断りします!」

『そうですか、それでは仕方ありませんね。これだけお願いしてもだめなんですから』


いやいや、割と淡白なやり取りだったろ。2回しか断ってないぞ?

目の前の神から笑顔が消え、ジト目とともに、呪いを含んだような声が・・・・


『仕方がありません。四の五の言っても仕方がないので、ここは神威をもって、現場に”ブチ込む”ことにします。』

「は? いやいや、ちょっと一方的な!」

『ほーほほほほほほほ!』


高らかな笑い声。目は笑ってない。


『そもそも、神という存在は、人の子にとって理不尽なものです。

いえいえそれこそ、理不尽上等!それが神!』


うわぁ、これがこの女神の本性なの?さっきまで猫かぶってた? こ、殺される!?


「ちょっと落ち着いてください! いきなり何か起こったら、俺死んじゃいますって!」

『・・・・それもそうですね。では、お話を聞いていただけますか?』


ニッコリと、清々しいほどにニッコリと(のたま)わってますよ、この女神()()


「は、はい。でお願いの内容というのは、何でしょうか?」

『では、何から話せばよいか・・・あ、これから・・・かな? ・・・・・・』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一通りの説明があった。

ウカ様が言うにはこうだ。

現し世は、「因果と天の法」によって構成運営されており、これらを造り始めた偉い神様が存在する。

この偉い神様は、現し世での「因果と天の法」に反する行為を忌み嫌い、それこそ時には理不尽の権化の如き勢いで粛清するのだそう。


反する行為というのは、例えば”奇跡” 海を割ったり、水面歩いたり・・・

簡単に言えば、「物理法則無視すんな!」って事らしい。


ただ、目に見えない奇跡が多数起きているのは事実で、「小さな神威(しんい)」と言うらしいが、そのへんは、偉い神様にバレなきゃOKなのだそう。実にアバウト。

信心深くない俺でも神という存在は、とても厳格なものだと思っていたので、ちょっとびっくりというか・・・・なんというか。


ある時の神議(かむはか)り(神々の定例会議)の中で、この「神威」の使用について、

人の子に「限定的解除」したらどうかと言う話が上がったらしい。

そうすることにより、人の子の魂磨(たまみが)きが、より確実かつ早く出来るようになるのではないか?

わかりやすく言うと、人間は、生まれて、修行(魂磨き)して魂の格を少しずつ上げ、死んで魂の輪に戻り、次の生まれに備えるという、魂成長のための循環である。どうもそれが現し世と人間の存在の基本的理由であるらしい。

で、人は魂を磨き続け、格を上げ、長い年月をかけて神へと昇華するのだそう。


その”神威”行使の限定解除。つまり、限定的に、「因果と天の法」を無視して力を行使できるようにするという案を、条件付きながら、偉い神様が許可したのだそう。

その条件というのが、「限定的な別宇宙で、あくまで試験運用的な世界。」簡単に言えば、異世界を作ってしまえってことで、魂磨きに支障が生ずるような不具合が発生した場合、即運用中止及び、その世界の完全なる滅却。魂は、通常の魂の輪に戻るらしい。


「なんというかさ、神様が世界作って遊ぶなよ」

『遊んでいるわけではないのです。神もまた、精進ているのです。』

「で、その試験世界の具合が悪くなりそうなので、俺に行って、なんとかしてこいと、そういうわけですね?」

『話が早くて助かります。さすが我が子です。』


いやいや、人間ですから。


「そういうのはもういいです。異世界に行ってチートしてこいと、そういう・・・」

『チート? なんですかそれは?ちょっと待ってくださいね・・・・・えっと、あ、これですか・・・』


またアブナイ人、いや神になってる。


『あこれね・・・・無いわよ? チートだなんて(プププププ) だって人の子の身ですよ? チートなんて、(ヾノ・∀・`)ムリムリ 』


ケラケラッと、なんの屈託もないスッキリした笑顔で言い切った。言い切りやがった。

ちょっと軽い殺意を覚える。


『無論、なんの準備もなく単身を送るような、そんな理不尽なことはしませんよ?』

「いやいや、さっき理不尽こそ神!って言い放ってたじゃないですか!

それに、私はしがないIT技術者です! 世界をちょっちょっと何とかするとか、無理に決まってるでしょ!」


泣きそうである。いやむしろ泣いてしまっている。


『あい・てー ぎじゅしゅしゃ? ちょっとまってね。えっと・・・ふむ、ふむ、あぁ、なるほど!

微小な雷を使ったカラクリに、”ぷろぐらむ”という文章を施し万事を成すのですか。ずいぶんと面妖な物書きなのですね?』


「物書きじゃなくて技術者です。」

『ふむふむ、”物書きじゃなくて技術者”という物書きなのですね? 神の私でも、ちょっと理解するのに苦労します』

「あぁ・・・・もういいです。 ってか、さっきから、誰かに話を聞いてるような、調べるような素振りが・・・」

『あぁこれ? そうねぇ 現世でいう”いんたーねっと”みたいなものですよ? 思兼(おもいかね)を主とする神々の連絡網みたいな? 備忘録みたいな? 掲示板みたいな?』


「・・・・・もういいです。」


そんなものまであるのかよ!


『そもそも、現し世は常世(とこよ)の写し。現世にあるもののすべてが、これから先に出てくるものすべてが常世にあっても不思議はないでしょ? 現し世は所詮、写しなんですからね』


優しい笑みをたたえながら、少し諭すような口調で言われると、何故か納得させられてしまう。


「神々の世界ですしねぇ・・・・・ハァ・・・」


諦めの局地って、こういう感じを言うんだろうなぁと、疲れた笑いを浮かべている俺に女神()()が道具をくれるそうだ。


『あい・てー技術者の我が子には、この、”のーとぱそこん By マンノクラ仕様”を。これは、神具ですから、取扱には注意してくださいね。あ、”じゅうでん”?でしたら、不要です。微小な雷ではなく、神威で動くようになってます。詳しくは、思兼さんに聞いてください。”すいっち”を入れると動くそうです。』


うわぁぁ、行くこと決まってるんだ。やっぱり決まってるんだ。


「はぁ・・・・ありがとうございます。」

『あ、それと、”サクラ”、”タチバナ”。同行してあげてくださいね。ちゃんと守ってあげてください。

かわいい我が子に、傷の一つでもついたら、いいですね? わかってますね?

それと、現地合流でお手伝いを頼んでありますので、よろしく伝えてくださいね。』


土下座から身を起こした狐と龍の顔が、明らかに引きつっている、いや、恐怖におののいている感がする。


『『御心のままに!』』


再びのジャンピング土下座。

あぁ、この職場、超ワンマンで超ブラックなんだな・・・・


すっと静かに息を吸い、ゆっくりと閉じられる女神の目。

次の瞬間、くわっと!それが開き、満面の笑みを浮かべる女神が口を開ける。


「我が国常立(くにとこたち)言宣(ことのり)を持ちて、万象万物に命ずる。

我が子等を彼の地へ誘え!」


透き通るような声に、重く響き渡るような声が重なり、俺の周りが白く光りだした。


『ハンカチ持った? ティッシュは持った? お腹が減ったからと拾い食いはしてはなりませんよ? 生水は飲んではなりませんよ?寝るときはお腹を出さないようにしなさいよ?・・・・・』


だんだん声が遠くなる。白い光が増していく中、ハッキリと耳元で声がした。


『大丈夫ですよ。母はいつも見守っていますよ。』


「はぁぁぁぁぁぁぁ~~~」


気の抜けた用な俺の声が遠くに響いていくようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ