第8話 はじめてのクエスト
クエストボードを見てみると、Fランクでは、薬草採集などの、非戦闘系のクエストばかりだった。
私が薬草採集のクエストを受注しようとすると、一人の男がやってくる。
「今から森に行くのかい?
夜になると魔物の活動が活発になるし、薬草を見逃しやすくなるから、止めた方がいいよ。」
どうやら、私のことを心配してくれているようだ。
しかし、私には《剣域》があるため、奇襲も受けないし、薬草を見落とす心配も無い。
だけど、他の人がどうやって探すのかが興味があった。
「なんなら、明日の朝にパーティーとして、一緒にクエストに行かないかい?」
「是非、お願いします。」
周りから悔しがる声が聞こえる。
そして、カート(というらしい)と、打ち合わせをしてから、私はギルドを出て、受付嬢おすすめの服屋に向かった。
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服屋についた私は、扉を開けて中に入った。
中に入った私は、目の前に広がる光景に声を失った。
目の前に大男がいたのだ。
「いらっしゃい!」
大男が話しかけてきた!
見た目は男なのに、聞こえてきた声が女の子のものなのだけれど? …どういうこと?
返答に困っていると、大男がまた、話かけてくる。
「あ! ごめん! いきなりゴーレムの中からじゃあ失礼だよね!」
そう言うと、大男の胸の部分が開いて、そこから小さい女の子が姿を表した。
よかった。 女の子声の大男とか、速攻で帰るぞ。
流石の《剣域》さんも、中に入ってるのは、認識出来ないのか?
━━━いや、中にスペースがほぼなかったから、認識出来なかっただけみたいだね。
あとは、レベルが足りないとかかな?
「ごめんね! ゴーレムの調整をしてたんだよ。」
「大丈夫ですよ。 すごく人に似ているゴーレムですね。」
ホムンクルスじゃ無いのか。
「これはね、奇跡的に完成した極限まで人間に近いゴーレムなんだよ!」
興味が惹かれてしまい、かなりの時間話し込んでしまった。
「こんなにゴーレムについて話したの、師匠と話したとき以来だよ!」
「私も、ゴーレムの話が聞けてよかったです。
それじゃあ、また。」
そう言って私は帰ろうと扉に手をかけた。
って、違うよ! ゴーレムの話をしに来たんじゃないよ! フード付きの服を買いに来たんだよ!
私は、速攻で扉から手を離し、Uターンしてから、店員の女の子にフード付きの服を選んでもらって、パーカーを1着購入した。
店員の女の子が話を聞いてくれたお礼ということで、1着銀貨8枚にしてくれた。
もう銀貨1枚しか無い…
銀貨1枚を握りしめて、私は宿屋へと向かった。
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宿屋が銀貨1枚で泊めてくれた。
ただし、馬小屋で…
まぁ、異世界で野宿とか身ぐるみ剥いでって言ってるようなもんだから、野宿よりも全然いいんだけどね。
私は、馬小屋の中で比較的綺麗な藁を集めて、その上で寝た。
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目が覚めてすぐに、自分の荷物を確認する。
一応、常に《剣域》を使っているから侵入者がいたらすぐに反応できるはずなので、大丈夫だと思うが確認は必要だろう。
とりあえずギルドに向かって、カートと合流しよう。
ギルドに着くと、すでにカートがいた。
「おはようございます。 今日はよろしくお願いします。」
「おはよう。
こいつらが今日のパーティーメンバーだ。
男の方がマーガム、女の方がマルムだ。
二人とも獣人の借金奴隷だ。」
そう言って紹介されたのは、獣人型の犬獣人の兄弟だった。
マーガムは、ピンと立った黒い耳と太めの尻尾で中性的な顔立ちをしている。
マルムは白い垂れ耳と細い尻尾でかなり可愛い。
しかし2人とも、もふもふであったであろう、耳やしっぽは汚れてしまっている。
さらに、着ている服はボロボロだった。
ちなみに、親が借金を返すために、奴隷として2人を売ったらしい。
「よろしくね。」
そう言いつつ笑顔を向ける。
すると、二人ともまるで挨拶されるとは思っていなかったのか、少しだけ固まる。
「よろしくお願いします!」
マーガムは元気に答え、
「よろしくお願いいたします。」
マルムは丁寧に答えてくれた。
私達はギルドに入り、薬草採集のクエストを受けてから少しだけ打ち合わせをしてからクエストに向かった。
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薬草が自生している森までやって来た。
森は光が適度に差し込んでいて、視界は悪くないが、木の根が地上に出て来ているため足場が悪い。
マーガムとマルムは匂いで薬草を探しているらしく、かなりのペースで薬草を集めている。
一方でカートは、確かな実力を持っているようで、薬草を次々と採集していった。
そして私は《剣域》で薬草を探そうとしたのだが、薬草と雑草の区別が出来なかったから、地道に探しているが、あまり成果は上がっていない。
だいたい1時間で、クエストクリアに必要な薬草はすべて集まった。
対比でいうのなら、私1、マーガム3、マルム3、カート3
という対比である。
「そろそろ帰ろうか。」
カートがそう言い、私は頷いた。
そして帰る途中、《剣域》によって複数の人間を認識した。