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勇者から逃げだした聖剣  作者: 黒一忍
第七章 天の国
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第55話 憤怒の魔王

今回は、やや残酷な話になってしまいました。

あと、若干書き方がこの話だけ変わっています。

読みにくかったらごめんなさい。

 手を伸ばす。

 ただひたすらに手を伸ばす。

 失ったものを取り戻したくて手を伸ばす。


 誰かに手を繋いで欲しくて手を伸ばす。

 だけど、誰も手を繋いでくれる人はいない。

 それでも手を伸ばすことをやめない。




 魔の国(デージン)では、忌み嫌われる真っ白な肌と赤い眼、そして真っ白な角をもった魔族、それが僕だった。

 父親は産まれた瞬間に忌み子の僕を殺そうとした。

 その場にいた助産師達もすべて、僕のことを殺そうとした。


 だが、母親だけは違った。

 父親達の攻撃から僕を守り、病院から毛布を拝借して僕を抱えて逃げたのだ。

 逃げてたどり着いたのは、人間の国(ヒューゲン)近くの森だった。

 母親はそこで生活を始めた。

 その時に、「あなたは人に魔法を使っちゃだめよ?」と言われて僕は頷いた。

 そこに出てくるモンスターは、母親の敵ではなく、僕達は不自由はあまり無く生活していた。


 しかし、平和な時間は長く続かない。

 奴隷商の男が、僕を目当てに冒険者を送り込んできたのだ。

 僕と母親は一緒に奴隷にさせられてから森から連れ出され、人間の国(ヒューゲン)のどこかで売られるらしい。


 僕と母親は別々に売られてしまい、僕は商人によって地下に幽閉されていた。

 その状態がしばらく続いて、地下に人が降りてくる。

 その人達は格好から憲兵のようで、僕を救助してくれたようだ。

 僕は久しぶりに地上に出てきた。


 そして憲兵の人に「君の母親かも知れない人の確認をして欲しい。」と言われた。

 どうやら、母親かも知れない人に会わせて貰えるようだ。



 そして僕は、物言わぬ屍になった母親を見た。…見てしまった。

 それも暴行の跡が至るところにある。

 心が軋む。

 母親から言われた言葉がギリギリのところで僕を止めるのだ。

 だが、その我慢も次の瞬間失われた。

「買われた先が、奴隷制度を勘違いした奴だったんだよ。

 俺達がもっと早く助けられていたらよかったんだが………。」


 怒りが憤りになり、憤怒として心の中を暴れまわる。

 産み出された激情は、もはや自分では止められない。

 そして、暴れまわった憤怒は、僕の中から溢れ出して僕を飲み込んだ。


 それは、赤い眼をもった真っ黒な何かだった。

「ヴァウァアアァア!」

 ()()が叫び、その咆哮で憲兵達を吹き飛ばして外へと飛び出す。

 ()()は、姿を悪魔のようにしてから、まるで進む先がわかっているように街を走り出す。


 誰かが言った。

 あれは、喜んでいるのだと。

 違う誰かが言った。

 あれは、泣いているのだと。

 そして、誰かは言った。

 あれは、怒っているのだと。


 そして悪魔は、一件の建物にたどり着く。

 少年が呼び起こしてしまったのは、《憤怒》

 《憤怒》には、怒りによるステータス上昇(自我を失えば失うほど上昇する)に、怒りの対象を探し出す効果ともう1つの隠された効果が存在する。

 そして少年は最大限にステータスが上昇していた。

 それは、自我がほとんど失われたことを意味している。


 悪魔は吠える。

 そして、魔法を行使した。

「ゥアァ、“憤怒の炎(イラ・フレア)”」

 それは、まるで小型の太陽であり、周囲の水が一瞬で干上がるほどの熱量を持っていた。


 そして怒りの炎は放たれた。

 怒りの対象に向かって飛んでいった小型太陽は屋敷に当たると、屋敷の敷地内だけに火柱が発生し屋敷を完全に消滅させる。

 しかし、怒りの対象がいなくなるかと言えばそうはいかない。


 父親だ。

 最初に父親が母親と一緒に僕を守っていたり、攻撃してこなければ、結果は違ったはずだ。

 次の目標を探し出した悪魔は魔の国(デージン)に向かって進行を始めた。


 人間の国(ヒューゲン)のどこかの街を出る頃には、冒険者が襲いかかってきた。

 だが、誰も僕は、いや、我は止められん。

 少年は《憤怒》と完全に融合していた。

 少年がステータスを開いていたならば、スキルにはこの文字があるだろう。

 《憤怒の魔王》の文字が。


 魔王になった少年を止められるのは、同じく王か、それに匹敵する実力者しかいない。

 そして少年は願う。

 願わくば我を止められる実力者が現れることを。

 願わくば、我を元に戻して欲しいと。


 故に、手を伸ばす。

 誰かに手を掴んで欲しくて手を伸ばす。

 希望に向かって手を伸ばす。


 そして、悪魔が魔の国(デージン)に向かう途中、空から降ってきた希望と出会うのだった。

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