第55話 憤怒の魔王
今回は、やや残酷な話になってしまいました。
あと、若干書き方がこの話だけ変わっています。
読みにくかったらごめんなさい。
手を伸ばす。
ただひたすらに手を伸ばす。
失ったものを取り戻したくて手を伸ばす。
誰かに手を繋いで欲しくて手を伸ばす。
だけど、誰も手を繋いでくれる人はいない。
それでも手を伸ばすことをやめない。
魔の国では、忌み嫌われる真っ白な肌と赤い眼、そして真っ白な角をもった魔族、それが僕だった。
父親は産まれた瞬間に忌み子の僕を殺そうとした。
その場にいた助産師達もすべて、僕のことを殺そうとした。
だが、母親だけは違った。
父親達の攻撃から僕を守り、病院から毛布を拝借して僕を抱えて逃げたのだ。
逃げてたどり着いたのは、人間の国近くの森だった。
母親はそこで生活を始めた。
その時に、「あなたは人に魔法を使っちゃだめよ?」と言われて僕は頷いた。
そこに出てくるモンスターは、母親の敵ではなく、僕達は不自由はあまり無く生活していた。
しかし、平和な時間は長く続かない。
奴隷商の男が、僕を目当てに冒険者を送り込んできたのだ。
僕と母親は一緒に奴隷にさせられてから森から連れ出され、人間の国のどこかで売られるらしい。
僕と母親は別々に売られてしまい、僕は商人によって地下に幽閉されていた。
その状態がしばらく続いて、地下に人が降りてくる。
その人達は格好から憲兵のようで、僕を救助してくれたようだ。
僕は久しぶりに地上に出てきた。
そして憲兵の人に「君の母親かも知れない人の確認をして欲しい。」と言われた。
どうやら、母親かも知れない人に会わせて貰えるようだ。
そして僕は、物言わぬ屍になった母親を見た。…見てしまった。
それも暴行の跡が至るところにある。
心が軋む。
母親から言われた言葉がギリギリのところで僕を止めるのだ。
だが、その我慢も次の瞬間失われた。
「買われた先が、奴隷制度を勘違いした奴だったんだよ。
俺達がもっと早く助けられていたらよかったんだが………。」
怒りが憤りになり、憤怒として心の中を暴れまわる。
産み出された激情は、もはや自分では止められない。
そして、暴れまわった憤怒は、僕の中から溢れ出して僕を飲み込んだ。
それは、赤い眼をもった真っ黒な何かだった。
「ヴァウァアアァア!」
それが叫び、その咆哮で憲兵達を吹き飛ばして外へと飛び出す。
それは、姿を悪魔のようにしてから、まるで進む先がわかっているように街を走り出す。
誰かが言った。
あれは、喜んでいるのだと。
違う誰かが言った。
あれは、泣いているのだと。
そして、誰かは言った。
あれは、怒っているのだと。
そして悪魔は、一件の建物にたどり着く。
少年が呼び起こしてしまったのは、《憤怒》
《憤怒》には、怒りによるステータス上昇(自我を失えば失うほど上昇する)に、怒りの対象を探し出す効果ともう1つの隠された効果が存在する。
そして少年は最大限にステータスが上昇していた。
それは、自我がほとんど失われたことを意味している。
悪魔は吠える。
そして、魔法を行使した。
「ゥアァ、“憤怒の炎”」
それは、まるで小型の太陽であり、周囲の水が一瞬で干上がるほどの熱量を持っていた。
そして怒りの炎は放たれた。
怒りの対象に向かって飛んでいった小型太陽は屋敷に当たると、屋敷の敷地内だけに火柱が発生し屋敷を完全に消滅させる。
しかし、怒りの対象がいなくなるかと言えばそうはいかない。
父親だ。
最初に父親が母親と一緒に僕を守っていたり、攻撃してこなければ、結果は違ったはずだ。
次の目標を探し出した悪魔は魔の国に向かって進行を始めた。
人間の国のどこかの街を出る頃には、冒険者が襲いかかってきた。
だが、誰も僕は、いや、我は止められん。
少年は《憤怒》と完全に融合していた。
少年がステータスを開いていたならば、スキルにはこの文字があるだろう。
《憤怒の魔王》の文字が。
魔王になった少年を止められるのは、同じく王か、それに匹敵する実力者しかいない。
そして少年は願う。
願わくば我を止められる実力者が現れることを。
願わくば、我を元に戻して欲しいと。
故に、手を伸ばす。
誰かに手を掴んで欲しくて手を伸ばす。
希望に向かって手を伸ばす。
そして、悪魔が魔の国に向かう途中、空から降ってきた希望と出会うのだった。




