幕間 聖剣に逃げられた勇者
今回は委員長の視点です。
~ミナが勇者から脱出して数日後~
元いた世界でクラスの委員長をやっていた、北川 遥は呆れていた。
タクトの使う聖剣が、自分たちの理解からは、かけ離れた物であるにも関わらず、それを放り投げるタクトに対して、それはもう呆れ果てていた。
それに投げられた聖剣を探しに行って、魔物に襲われたのも、1度や2度じゃ利かなくなってた。
「あなた、もっと丁寧に扱わないと神さまから天罰がくだるわよ?」
今までの蓄積した怒りを抑えつつ、諭すように言ってみた。
「大丈夫だって。だって今まで何回捨ててきたんだよ、あのカス聖剣。
第一、お前が拾ってくるから使わなきゃならないんじゃねぇのかよ!」
青筋が浮かぶのが分かる。
やっぱり諭すように話すのも、無理のようだ。
「心配して言ってあげてるんだけど?
やっぱりあなたは罰を受けるべきね。」
クラスの委員長としては失格かな、そう思いつつ魔物退治の準備をしていると、タクトの方も準備ができたようで、私達はいつも通り魔物退治に向かった。
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いつものようにオークやゴブリンを倒していると、オークが数体まるで何かから逃げるように現れた。
出現したオークを倒した時だった。
黒いオーガが出現したのは…
通常オーガは皮膚が赤もしくは青いオーガしかいない。
つまり、私達の前に出現したオーガは、《変異種》ということになる。
変異種とは通常のモンスターよりも最低でも3倍のステータスを保有し、さらに固有のスキルまで保有しているモンスターのことである。
変異種は通常の個体と体の一部もしくは、全身の色が違うことが多い。
私達は変異種オーガに対しても優勢に戦えていた。
防御力に優れる私が、変異種オーガの攻撃を受け止めて、その間にタクト達が後ろから攻撃することによって、被害を最小限にすることが出来ていた。
それでも変異種オーガの自然回復力は脅威的であり、与えたダメージがすぐに回復されるので、オーガを仕留めるには、かなり高い威力の攻撃で一撃で仕留める必要があった。
「きゃっ!」
オーガの攻撃によって、かなり飛ばされて木に打ち付けられてしまう。
(まずい…)
クラスメイトの中で王国に残った騎士は、私一人だった。
つまりそれは、オーガの攻撃を受け止められる人間が、この場には自分しか存在しないことを意味している。
「ガアァァア!」
そしてオーガがタクトに向かって、持っている棍棒を降り下ろした。
タクトも流石に正面から受けるのは出来ないと思ったのだろう。
タクトが聖剣の腹を棍棒に滑らせるようにして受け流そうとするが、練習をやっていなかったツケで、聖剣の腹で受けてしまう。
「なっ?!」
その瞬間だった。聖剣が折れてしまったのだ。
そして、オーガの棍棒はタクトの右腕に直撃して、タクトが悲鳴をあげる。
おそらく、腕が折れてしまったのだろう。
他のクラスメイト達もその悲鳴で萎縮してしまっている。
この状況で戦闘が続けられる訳もなく、私達は命からがら逃げだした。
近くの街、ホゾンに向かった私達は、真っ先にギルドに向かい、オーガが出現したことを伝えた。
すると直ぐに緊急クエストが発令された。
報告を終えた私達は、ホゾンの街で回復魔法を使って傷を治してからすぐに、喋ることもなく王国に向かって出発して、まっすぐ王城へと帰っていった。
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王城に戻った私達は、王様に報告と折れてしまった聖剣を見せた。
王様は驚き、顔を青ざめさせたが、直ぐに王国一の鍛冶士を呼び出し、直せるかどうか調べさせた。
鍛冶士が到着し、聖剣を調べていく。
私達の脳裏には、最悪の想像が浮かんでいた。
しかし、鍛冶士が出した結論は、私達の想像とは全く違う物だった。
「この剣は聖剣ではありませぬぞ!
この剣は、ただの鉄の剣ですな。」
その場を静寂が包み込む。
私達の頭には疑問が上がり続けていた。
なぜ、鉄の剣が聖剣と同じ見た目と形状になっていたのか。
そして、本物の聖剣は何処に行ってしまったのか。
そして、王様がついに、口を開いた。
「聖剣が鉄の剣になってしまったのか、それとも、鉄の剣と聖剣をすり替えられたのかはわからぬが、聖剣がただの鉄の剣になる可能性は低いだろう。
しかし、手掛かりが無いからといって、神から授かった聖剣の行方がわからぬままでいい、ということは無い。
故に、聖剣を探すのじゃ勇者たちよ!
鉄の剣は、鍛治士に調べさせ聖剣だった可能性を調べさせるのじゃ!」
こうして私達は、聖剣探しの旅に出た。
ちなみに、変異種オーガは冒険者パーティーによって討伐されたそうだ。